第20話 ガダルカナル奪還

 索敵機の情報によれば、米機動部隊は三群あるはずだった。

 しかし、村田少佐が指揮する第二次攻撃隊は、そのうちの一群しか視認することが出来なかった。


 米軍はこの戦いにおいて、「サラトガ」と「エンタープライズ」それに「ワスプ」の三隻の空母を投入していた。

 それら三隻はそのいずれもが九九艦爆が投じた二五番を複数被弾して艦上機の離発着能力を喪失している。

 しかし、二五番は米軍のSBDドーントレス急降下爆撃機が常用する一〇〇〇ポンド爆弾に比べて威力が小さい。

 実際、それなりの防御力を持つ「サラトガ」と「エンタープライズ」は飛行甲板こそ破壊されたものの船体に大きな被害は無く、機関の全力発揮が可能だった。


 だが、「ワスプ」だけはそうはいかなかった。

 「ワスプ」は極めて制限された排水量の中で搭載機数の最大化を図ったことから装甲防御が限定的で、つまりは直接防御に問題を抱えていた。

 そのことで、威力が小さな二五番であっても機関に甚大なダメージをもたらし、発揮出来る速力が大きく低下していたのだ。

 三〇ノット超で避退を図る「サラトガ」や「エンタープライズ」とは裏腹に、脚が上がらない「ワスプ」はただ一隻戦場に取り残されてしまった。

 そのことで、「ワスプ」は第二次攻撃隊の集中攻撃を浴びることになってしまう。


 三三機の九七艦攻は「ワスプ」一隻に的を絞り次々に魚雷を投下していく。

 他に空母が見当たらないのだから仕方が無い。

 「サンフランシスコ」と「ソルト・レイク・シティ」の二隻の重巡、それに防空巡洋艦の「サン・フアン」が「ワスプ」を守るべく激しい対空戦闘を展開するがすべての九七艦攻を阻止出来ようはずもない。

 九七艦攻は七機を撃墜される一方で、また同じく七本の魚雷を命中させる。

 十分な水雷防御を施していない「ワスプ」にはとうてい耐えられる打撃ではない。

 「ワスプ」は短時間のうちに沈没、多くの将兵が同艦と運命を共にする、と言うか道連れにされてしまった。


 「飛龍」と「蒼龍」それに「瑞鳳」を撃破されたものの、しかしその一方ですべての米空母を撃沈破したことで戦況が有利になったと判断した乙部隊司令官の角田少将は「隼鷹」と「龍驤」をもって米機動部隊に追撃をかけようとする。

 撃破された「飛龍」や「蒼龍」の九九艦爆や九七艦攻を収容することで「隼鷹」はそれなりの戦力を維持している。

 それらを投入すればあと一隻の空母くらいは食えるはずだ。


 しかし、その動きに待ったがかかる。

 連合艦隊司令長官の山本大将はガダルカナル島で苦戦する友軍将兵の救援を優先させるために乙部隊は「祥鳳」とともに輸送船団の上空警護ならびに上陸支援にあたるよう命じたのだ。


 米空母部隊の撤退と第三艦隊の追撃中止によって二度目となる日米機動部隊同士の戦い、後に「第二次ソロモン海戦」と呼称される戦いは事実上収束する。

 帝国海軍は「ワスプ」を撃沈、さらに「サラトガ」と「エンタープライズ」を撃破する一方で「飛龍」と「蒼龍」それに「瑞鳳」を撃破された。

 艦上機隊の損害も深刻で、一〇〇人近い熟練搭乗員をこの一度の戦いで失っている。


 しかし、一方でガダルカナル島へ増援兵力の上陸を成功させた。

 兵力を損なうことなくガダルカナル島に上陸した川口支隊はこれまで散々に同地の日本軍を痛めつけてくれた米海兵隊に対して猛攻に出る。

 このことで、崖っぷちに追い込まれていたガダルカナル島の日本軍は息を吹き返し、川口支隊とともに飛行場の奪還に成功する。


 それに対する米軍の動きも素早かった。

 空母戦力の枯渇でガダルカナル島を巡る戦いが決定的に不利になったと悟った米軍は「ワシントン」と「ノースカロライナ」の二隻の新鋭戦艦による夜間艦砲射撃を仕掛けた。

 一〇〇〇発にも及ぶ四〇センチ砲弾を浴びたガダルカナル島飛行場や日本軍陣地は大混乱に陥る。

 その隙に米軍は高速艦艇によってガダルカナル島の海兵隊員の撤収を図った。

 そして、これは思いのほかうまくいき、人的被害を最小限に抑えることに成功している。

 米軍のガダルカナル島撤退によって戦局は新たな局面を迎えようとしていた。

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