第11話 MI作戦中止

 「加賀」の沈没それに「赤城」と「翔鶴」が撃破されたことでミッドウェー島を占領する当初方針は撤回され、基地機能の破壊のみにとどめることになった。


 夜間に同島にしのびよった戦艦「霧島」と「榛名」、それに重巡「利根」と「筑摩」は飛行場や関連施設にとどまらず、島そのものを耕すがごとく三六センチ砲弾や二〇センチ砲弾を撃ち込んでいった。


 ミッドウェー島近傍海域にすでに米機動部隊の姿は無い。

 半数の空母を撃沈されたうえに護衛艦艇も多数が撃破されたのだ。

 そのうえ雷撃隊はほぼ壊滅、挙句に急降下爆撃機隊まで大打撃を受けたとあっては多数の戦艦を擁する日本艦隊相手に同島の防衛はおぼつかない。

 おそらくはそう判断したのではないか。


 そのように考えている伊澤艦長は、仮眠を終えて「祥鳳」艦橋に上がってきた飛行長と話をしている。

 日が昇っている間は多忙な空母の艦長や飛行長も、日が沈めば少しくらいは自由な時間を持つことが出来る。


 「この作戦で帝国海軍は最大の航空機運用能力を誇る『加賀』を失い、それに次ぐ戦力を持つ「翔鶴」と「赤城」を撃破された。両艦ともに飛行甲板を手ひどくやられたから修理には相応の期間を要するだろう。

 内地で修理中の『瑞鶴』も場所が場所だから短期間に戦列復帰がかなうとは思えない。そうなると頼れるのは『飛龍』と『蒼龍』の二航戦とあとは小型空母と改造空母のみ。状況はあまり良く無いな」


 ぼやき口調の伊澤艦長の言葉に飛行長もまた首肯する。


 「艦長のおっしゃる通りです。今後しばらくは帝国海軍は最も有力な三隻の大型空母抜きでの戦いを強いられます。一方で米側は二隻の『ヨークタウン』級と『サラトガ』、それに『ワスプ』と『レンジャー』が残っています。

 『サラトガ』の復帰も近い、あるいはすでにそうなっているかもしれませんが、いずれにせよ日米の空母戦力についてはしばらくは米側有利の状況が続くはずです。もし、米側に目端の利く人間がいれば、我が軍の窮状に付け込んで早いうちに仕掛けてくるかもしれません」


 「それについては悪い知らせがある。どうやら真珠湾に空母が入港したらしい。所在不明の『ワスプ』かそれとも復活した『サラトガ』なのかは分からんが、いずれにせよ空母戦力が激減している我が方にとっては憂慮すべき事態だ。

 あるいは、上層部がミッドウェー島の占領をあきらめ破壊だけにとどめることにしたのはこのことが影響しているのかもしれんな」


 伊澤艦長がもたらした情報に、飛行長もその表情に焦慮の色を濃くする。


 「そうなると厳しいですね。もし、二隻の『ヨークタウン』級がハワイで航空機を補充し、さらに真珠湾に入港した空母と合流してミッドウェー島に引き返してくれば我が方の不利は決定的です。こちらも『鳳翔』と『瑞鳳』の戦力を上積み出来ますが、正直言ってさほどの足しにはなりません」


 「そうなると、それまでにミッドウェー基地を破壊して避退を図るというのは理にかなっているな。しかし、もともとはミッドウェー島を叩くことで米機動部隊を誘引、そしてこれを一気に撃滅することになっていたはずだ。それが、米機動部隊が来るから避退するというのはまったくもって話が逆だ」


 そう言って伊澤艦長は嘆息する。

 「祥鳳」の実質的な初陣は決して負け戦ではなかった。

 彼女は索敵に防空戦闘によく働き、帝国海軍内部にその存在感を印象づけたはずだ。

 しかし、それでも逃げるようにして戦場を後にするのは決して気分の良いものではなかった。

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