第9話 第二次攻撃隊

 「加賀」飛行隊長の楠美少佐に率いられた第二次攻撃隊は米機動部隊が視認できないうちからF4Fワイルドキャット戦闘機の迎撃を受けた。

 二〇機近い編隊が二つ第二次攻撃隊に迫ってくる。

 二隻の米空母が送り出した迎撃戦闘機隊だろう。


 それらに真っ先に突っかかっていったのは制空隊の一五機の零戦だった。

 制空隊は二手に分かれ、二倍以上のF4Fに果敢に立ち向かう。

 しかし、それらすべてを阻止できるはずもなく、制空隊の防衛網を突破した十数機のF4Fが九九艦爆や九七艦攻を撃破すべく第二次攻撃隊に迫りくる。


 それを見た直掩隊の一五機の零戦が九九艦爆や九七艦攻から離れF4Fを迎え撃つ。

 ほぼ同数の戦いであれば、熟練が駆る零戦がF4Fに後れを取ることは無い。

 零戦の奮闘のおかげで九九艦爆それに九七艦攻は一機も損なわれることなく進撃を続けることが出来た。

 その九九艦爆と九七艦攻はF4Fが出現した方向に飛行を続け、やがて米機動部隊をその視界に捉える。

 数隻の中型艦と一〇隻近い小型艦が形成する輪形陣の中に二隻の空母の姿があった。


 「『翔鶴』隊目標、敵護衛艦艇。『加賀』隊ならびに『飛龍』隊は前方の空母、『赤城』隊ならびに『蒼龍』隊は後方の空母を叩け」


 誤解の余地の無い端的な命令を発し、楠美少佐は直率する「加賀」第一中隊と第三中隊の合わせて一八機の九七艦攻を米空母の左舷前方に誘う。

 牧大尉率いる第二中隊は米空母の右舷から迫る手はずになっている。


 先鋒を務めたのは「翔鶴」隊の二七機の九九艦爆だった。

 九九艦爆は小隊ごとに分離し、九つの目標に向かって急降下を開始する。

 彼らの任務は敵の輪形陣を形成する護衛艦艇を排除して他の部隊の米空母への突破口を啓開することだ。


 そんな彼らに対し、二隻の空母を守る巡洋艦や駆逐艦から盛大な火弾や火箭が撃ち上げられてくる。

 たちまち三機の九九艦爆が火を噴き、あるいは煙を曳きながらミッドウェーの海へと墜ちていく。

 投弾には成功したものの、その後の避退途中に火箭に絡めとられるものも続出し、「翔鶴」艦爆隊はたった一度の攻撃だけで二割近い戦力を喪失する。


 一方で、彼らが投じた二四発の二五番のうち一〇発が命中、狙われた九隻の護衛艦艇はそのいずれもが煙を吐き出し速力を衰えさせる。

 四割をわずかに超える命中率はインド洋海戦でのそれと比べれば少々物足りないが、それでも敵の輪形陣を崩壊させた意味はとてつもなく大きい。


 米空母の左舷から肉薄する楠美少佐の目に一足先に攻撃を開始した「飛龍」艦爆隊の姿が映り込んでくる。

 煙を吐いて墜とされる機体も少なくないが、米空母の飛行甲板に躍り上がる爆煙のほうが明らかに多い。

 「飛龍」艦爆隊の攻撃が終わる頃には「加賀」第一中隊は投雷ポジションにすでに到達している。

 「飛龍」艦爆隊が命中させた多数の二五番は飛行甲板だけでなく対空火器にもダメージを与えたのだろう。

 米空母からの火箭は明らかに細っており、「加賀」第一中隊の九七艦攻で撃墜された機体は今のところ一機も無い。

 射点に遷移したうえで全機が投雷に成功、各機は避退行動に入る。


 「『ヨークタウン』級だな」


 海面に腹をこすりそうな超低空で敵の火箭から必死の逃亡を図る楠美少佐の目に艦橋と煙突が一体となった大型空母の姿が左から右へと流れていく。


 「米空母の左舷に水柱! さらに一本、二本、三本・・・・・・」


 歓喜を含んだ後席の部下からの報告を、だがしかし楠美少佐は最後まで聞くことが出来なかった。

 崩壊した輪形陣の中心から脱出する際、いまだ無傷を保っていた敵駆逐艦から撃ち出された機銃弾が楠美少佐の乗機をまともに捉えたからだ。

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