第7話 雷撃隊撃滅
ミッドウェー基地攻撃から戻ってきた第一次攻撃隊の収容が完了したのと、それに米空母から発進したと思しき多数の艦上機が来襲したのはほぼ同時だった。
開戦当初は四八機あった直掩隊の零戦もこれまでの米機との戦闘で稼働機は三六機にまで減っており、そのうち上空にあったのは二三機だった。
第一航空艦隊司令部は艦上にあった一三機についてもただちに発進するよう命じる。
米空母が四隻あると分かった以上、わずか二三機の零戦で敵の攻撃をしのげると考える者は一人としていない。
焦慮の色を深める一航艦司令部、それに対して真っ先に攻撃を仕掛けてきたのは一五機のTBDデバステーターからなる「ホーネット」雷撃隊だった。
狙われたのは旗艦「赤城」だった。
「ホーネット」雷撃隊が海面上を這うようにして「赤城」に取り付こうとする。
だが、そこに上空にあった二三機の零戦が殺到する。
「ホーネット」雷撃隊にとって不運だったのは護衛のF4Fワイルドキャット戦闘機が帯同していなかったことだ。
そのうえ、TBDは重たい魚雷を抱えているから動きは鈍い。
そのTBDを零戦はおもしろいように撃ち墜としていく。
低空域における低速戦闘こそを最も得意とする零戦の魔手から鈍重なTBDが逃れられようはずもない。
零戦から二〇ミリ弾や七・七ミリ弾をこれでもかとばかりに撃ち込まれ、一五機のTBDは目標到達前に全機が撃墜される。
その三〇分後、今度は一四機の「エンタープライズ」雷撃隊が一航艦上空に現れる。
「エンタープライズ」雷撃隊は「加賀」を狙ったものの、こちらもまた戦闘機の援護無しで突っ込んでしまったためにほとんどの機体が投雷する暇もなく零戦の餌食となってしまった。
生き残ったわずかな数の「エンタープライズ」雷撃隊が引き揚げるのと入れ替わりに今度は一二機の「ヨークタウン」雷撃隊が襲来、これらはそのすべての機体が「飛龍」を狙った。
「ヨークタウン」雷撃隊のほうは「ホーネット」雷撃隊や「エンタープライズ」雷撃隊とは違い、少数ながらも戦闘機の護衛があったために半数近い五機が投雷に成功する。
だが、ようやくの思いで投じた魚雷のそのことごとくを「飛龍」に回避されてしまい命中ゼロに終わる。
最後に遅れてやってきた一三機の「レキシントン」雷撃隊もまた、他の雷撃隊と同様に多大な犠牲を払いながらも戦果を挙げることはかなわなかった。
一方、多数のTBDを屠った零戦隊も意外に被害は大きかった。
TBDの防御機銃にやられた者もいたが、その多くは護衛のF4Fによる損害だった。
手練れで編成されたと思しきF4Fの小隊が巧みな連携戦術を駆使、その罠に零戦が次々に引っ掛かってしまったのだ。
その結果、直掩隊の零戦は六機を失い、さらに九機が即時再使用不可の判定を受けるほどの損害を被ってしまった。
直掩隊の急激な消耗に危機感を抱いた一航艦司令部は第三次攻撃を一時棚上げとし、第一次攻撃隊に参加した零戦もまた防空戦闘に投入することを決意する。
ミッドウェー島上空での激戦のあおりで稼働機は一九機にまで減っていたものの、それでも直掩隊と合わせれば四〇機の戦力になる。
それに、すでに敵の雷撃隊は始末している。
あと残るは急降下爆撃機隊のみであり、その攻撃さえしのげば一航艦は米機動部隊への反撃がかなう。
一航艦司令部がそう考えた矢先、しかし見張りから最悪の報告がもたらされる。
「敵機、直上!」
誰もが零戦がTBDを撃墜する瞬間、あるいは発艦しつつある零戦の動向に目を奪われて高空に対する警戒が疎かになっていた。
その隙を突かれた。
敵雷撃機に対応するために低空に遷移していた零戦が加速し、機首を上向きにして敵急降下爆撃機に立ち向かおうとする。
だが、とうてい間に合いそうにはなかった。
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