第8話 四元素属性

その後も引き続き、シャルから魔法について聞きたいことを聞いていたのだが、こちらの世界でも夢中になっていると時間がすごく短く感じるあの現象が起こるようで、気がつくともう帰らないといけない時間になっていた。


きっちりとした門限があるわけではないのだが、俺が病み上がりなのでアリシアとクラインに心配をかけないように、暗くなるまでに帰ろうとフレイルと決めていたのだ。

さっきまでの時間を惜しみながらも玄関の方に向かうと男の人が顔を出してきた。


「もうお帰りかな。フレイルちゃん。今回のことは娘が迷惑をかけたようで悪かったね・・・」


「あっ、おじ様!ううん。今回のことシャルは全然悪くないですよ!私がシャルに無理にお願いをして起こってしまったことなので、どうかおじ様は責任を感じないで下さいね」


「・・・ありがとう。フレイルちゃんは優しいね。ところで隣の君はもしかしてルイズ君かい?シャルからフレイルちゃんの弟もいたと聞いてね。君にも迷惑をかけたようですまなかったね。でも元気になったみたいでよかったよ」


その場で、シャルから父のラーメル=マグワイヤだと紹介され挨拶をした。知的な眼鏡をかけていても外見から温和感がにじみ出ている優しそうな人である。


「あっそうだ、お父様。このルイズ君なんだけど、どうやら魔法に興味があるみたいなの。で、ルイズ君。実は私の父はさっき話に出てた魔術学校で先生をしているのよ。さっきの情報はすべてここにいる父から仕入れたものなの」


それを聞いてラーメルはにっこりとした。


「おぉ、そうなんだね。ルイズ君は魔法に興味を持っているのかい?」


「はい。少し」


「そうか。それならもし、魔法のことを勉強したくなって、魔術学校に入りたくなったらいつでもおじさんを頼っておいで。魔術師でなくても入ることができて魔法について深く勉強できる所だよ。それにルイズ君より小さい子や遠方から来て寮で生活している子もいる。色んな子と交流もできるんだよ」


「お父様!私の友達の弟君なんだから変な勧誘はやめてよ!」


「はっはっはっ、冗談だよ。でも魔術師や魔法に興味を持ってもらえたなら私も嬉しいんだ。そうだシャル。せっかくなんだから、この家にある基本の魔術書をルイズ君に貸してあげるといい」


「え!?いいんですか?」


「あぁ構わないよ。何か分からないことが出てきたら、シャルでもおじさんでもいつでも聞いていいからね」


「やった!ありがとうございます!!」


その時の俺は子供がおもちゃを買ってもらう時のように目を輝かせていたかもしれない。


家への帰り道の途中、フレイルは俺の方を見て言った。


「ルイズ。何でも興味を持つのはいいことだけど、剣をおろそかにしてまで魔法の勉強に飲めりこまないようにね。お家で魔法の事を話すとお父様が不機嫌になるから、私もお父様の前ではシャルとの話をあまりしないようにしているのよ」


フレイルもやっぱりそう感じていたんだ。


「でもなんで、魔法の話を聞くと不機嫌になるんだろうね?」


「それは私にも分からないのよ。お母様に聞いてもなぜかにごされるし・・・。若いときに強い魔術師と戦ってこてんぱんにされたんじゃないかしら?」


やっぱりフレイルは俺の姉だなと思いながら暗くなる前の道を帰っていった。


家に着くとアリシアがすでに晩ご飯を用意してくれていた。

この世界での俺の大好物のシチューだ。野菜と肉をとろみのある白いスープで煮込んだものだが、見た目がまるでシチューだったので、「あっシチューだ!」とつい言ったら、それが妙になじんで、いつのまにかみんなもそう呼ぶようになった料理である。


大満足で食べ終わると俺はすぐに部屋に入って借りた魔術書を読み始めた。

軽く読んでみると、魔法を扱うにあたり、まずは四元素属性というものを理解する必要があるらしい。


この世界の物質は火・水・土・風の4つの元素から構成されているという考え方で、その4つの元素属性毎に精霊が存在し、その精霊に力を借りて魔法を行使するみたいだ。その属性毎に行使する魔法名称も載っている。


火属性魔法:フレイム

水属性魔法:アイシクル

土属性魔法:ロック

風属性魔法:ウィンド


なにやらこの他にも魔法が存在するようだが、四元素と関係ない魔法は基本書では触れないらしい。隅の方に注意書きで書かれている。


次は、誓約と詠唱の必要性について。


魔法を扱う前提として各属性の精霊への誓約が必要で、魔法を行使する前に詠唱をすることによって精霊に魔力を供給し、魔法を行使することができるようだ。


これは前にシャルに教えてもらったことだ。

そういえば魔法の発動前にシャルがなんか唱えてた気がする。

あれが詠唱ってやつかな?


魔術書のさわりだけでもわくわくしている俺がいる。


元の世界で化学は苦手だった俺だが、魔法のことになると元素でもなんでもこいって感じで、すーっと頭に入ってくる。学生の時の試験のための勉強とは全然違う。


その後も夢中になって本を読みふけっていたのだが、夜中、部屋から灯りが漏れていたのだろう。様子を見に来たアリシアにばれてしまい、夜ふかしを怒られてしまった。スマホみたいに、紙が光れば布団の中に潜り込んで読めるのになと子供のようなことを考えている内に眠りについた。


翌朝。


今日はいつもより、すこぶる目覚めがいい。

なぜなら早速、昨夜、魔術書で読んだ魔法を外で試してみようと考えていたからだ。


「ルイズ、調子が戻ったようならそろそろ剣の自主稽古を再開するか?」


「クライン兄さんごめんなさい。僕、もう少しだけお休みするよ」


「わかった。そうか。全快したらまた一緒に稽古しような」


朝食を食べながらの会話に心がちくっと痛んだが、朝食後、庭で剣の稽古をしているクラインにばれないように魔術書を腕に抱え近くの草原へと抜け出した。


まわりに何も障害物がない小高い丘に着くとページを開いたままの本を足下に置いた。

ページに記載されている魔法の名称を再度確認する。


その場で立ち上がり、右手を伸ばし何もない前方に向ける。

深呼吸をする。

心臓の鼓動は案外普通なようだ。


とりあえず、詠唱なしで試してみますか。

出なきゃ次に詠唱をしてみるだけの話だ。


「・・・フレイム・・・α!」


火属性魔法の名称を口にすると右手が赤く光り、その光が消えると目の前に小さな炎の球が現れた。


・・・まじか・・・まじで一発で出ちゃったよ・・・


火球を見つめる。

伸ばした右腕には静かに鳥肌がたっていた。

パーにした手も震え出す。


「・・・出たのはいいが、これどうしよう・・・」


後のことを考えていなかった。

だが、なんとなく握りこむように指を折りたたんでグーの形にしてみるとその火球も一緒に消えた。こうやって消すこともできるのか。そこまで魔術書を読み込めていなかった。


今、心は平静を装っているがさっきから身体は身震いしている。

足元に置いていた魔術書が目に入った。

もう一度魔法の名称に目を通す。


あれ、そういえば前にアイシクルは使えたような・・・?


おぼろげな記憶。試すのはタダだ。


「・・・アイシクル・・・α!」


水属性魔法の名称を口にすると右手が青色に光り、光が消えると小さな氷塊が現れた。


やっぱり!・・・でも、えっ?えっ!?次はさすがに、な・・・?


グーにした後、パーにして、


「ロックα!」


土魔法の名称を口にすると右手が黄色に光り、光が消えると面前に岩石のような物体が構成された。


グーにしてもはや何も考えず手を開く。


・・・・・・。


「ウィンドα!」


風魔法の名称を口にすると右手が緑色に光り、光が消えるとその場で旋風を巻き起こした。


「・・・・・・。どえぇぇええ!?4属性の魔法が全部使えるじゃねぇか!何じゃこりゃ!!」


なぜ4属性の魔法が全部使えるのか?

というか精霊への誓約は?

しかも詠唱はなしで?


しかし、そんな小さなこと今の俺にはどうでもいい!!

だって魔法が使えたんだぜ!?

この感動を誰かと共有したい!


アニメのように転生者だから特別な力を与えられていたんだ!!

そうだ!そうに違いない!!


もはやテンションに吊られて思考もハイになっていた。


ただ、α魔法はこのとおり一通り使えたのだがβ魔法以上は発動しなかった。

どうやら転生者の力といってもそこまで甘くはないらしい。

俺はその日からみんなの目を盗んで、家を抜け出しては、草原で目標物を用意して魔法の練習をした。


記念日のぎりぎり前日に、フレイルがマジェンダの町から2人へのプレゼントの完成品を持って帰ってきた。2人共絶対に喜ぶであろう、すごく良い出来だった。


そして、ついにファイザーが帰って来る記念日を迎えた。

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