第3話 剣士の力・司祭の力

アーリシア大陸の南方にあるマジェンダの町。

そこから少し離れた丘の上に建っている一軒家がラーモンド家の自宅である。


元々はマジェンダの町中で暮らしていたらしいが、姉のフレイルが産まれる時にこの丘に家を建てたそうだ。


このあたりは自然が多く、近くに山や川がありその辺りには草原が広がっている。

小さい頃は、子供に戻ったと思って無邪気によく草原を駆け回ったものだ。

そして俺もこの世界で12歳を迎えていた。


キン! キン! キン! 


金属音のぶつかり合う音がこだましている。

今日は朝から家の庭で剣の稽古中だ。

さっき一通りの基礎訓練を終え、今は1人ずつの実戦訓練に移っている。


あそこで今、剣を受けている、いかにも真面目そうな雰囲気の太眉が5歳上の兄クライン。

外見だけでなく中身もすこぶる真面目に育っている。


反対の剣を撃ち込んでいるガタイがいい鉢巻きをしている男が父ファイザー。

何事に対しても一本気で熱血漢な性格だ。


そして木陰に座って2人を眺めている俺ルイズ。

ただいま順番待ち。


キン! キン!! ガキン!


クラインはファイザーの撃ち込んだ剣をすべて受け止めた。


「クラインそれでいい!」


「はい!お父様!」


「よし!次は剣技だ!お前が全力で撃って来い!」


「はい!ふぅぅぅ・・・」


息を少しずつ吐き出しながら、上体を右に捻り身を屈ませその体勢で溜めた。

ふっと最後の息を吐ききるとともに足で強く地面を蹴り出す。


クラインは反動の力で高速の突きを放つ剣技「疾風撃」を繰り出した。


ガキィィィン!!


強烈な金属音とともにファイザーが左手に持って構えていた剣がきれいな放物線を描くように弾き飛ばされた。


「・・・・・・。痛ってぇぇ!!」


飛んでいった剣の行方を目で追っていたが、声に反応しファイザーの方を見る。

左腕には直線の斬傷ができており、腕をだらんとさせている。


「おいおい!もうこんな威力になってきやがったか!さすがに右手で構えるべきだったな。やはりお前は俺の才能(タレント)を濃く受け継いでいるようだ」


ファイザーは右利きだが稽古中は力を押さえるべく左手で剣を握っている。

右手で左腕を押さえながらも成長を感じたのか表情は嬉しそうだ。


「フレイル!おい、フレイルはいるか!?」


ファイザーは家の方を向いて大声を出した。

声に反応して家から出てきた華奢で端正な顔立ちをしているのが3歳上の姉フレイルだ。


「どうしたのよ!そんなに大声を出して!え、また怪我してるじゃない!!もう!」


フレイルはファイザーに駆け寄ると腕の傷の前で自分の両手を組み目を閉じて集中した。


「キュアラル!」


柔らかい光がフレイルの両手から溢れ出すとあっという間に腕の傷が治癒されていく。


「さすがだな、フレイル。まるでアリシアの若い頃を思い出す。アリシアにもよく怪我を治してもらったものだ」


「あぁ、お母様も大変だったでしょうね」


フレイルは呆れながら答える。


治療を終えるとファイザーはクラインの方を向き直した。


「クライン、お前はまだ力が足りないが、それを補って余りある速さを持ち合わせている。疾風撃はお前にもってこいの技だな。今のは見事だった!!」


「ありがとうございます!」


クラインはそう言ってお辞儀をした。

稽古中はファイザーを父でなく剣の師だと思って接しているんだそうだ。

ほんっと真面目なやつだ。


「よし、じゃあ次はルイズいくか!剣を構えろ」


「・・・はい」


あぁ、俺の順番が来てしまった。

見ているだけでも良かったのになぁ。


重い腰を上げ、ファイザーの前に着くと剣を構えた。


ファイザーが剣を撃ち込んでくる。


キン! キン!


左手で撃ち込んできているが、俺には一撃一撃がとても重く感じる。


「よし、次!少し力を込めるぞ!」


これでまだ力全然込めてないんだよな・・・


「はい!」


キン! キン! キ・・・ズサッ!


俺は3撃目を受けきれずその場で尻を着いてしまった。


「おいおい、大丈夫か!?」


ファイザーが手を差し出し起こしあげてくれた。


「んー・・・。ルイズも俺の才能を受け継いでいるはずなんだがな?腰が逃げ腰になってしまっているぞ」


「ごめんなさい・・・」


「いや、謝らなくていい。クラインとは年が5つも離れているんだ。違いがあって当たり前。これから強くなればいいだけのことだ!何にも気にするな」


はっはっはっと笑っている。


しかし、そうは言ってくれるのだが、自分の出来のなさに少し落ち込みはする。


そんな時、「焦らなくていい」クラインはそう言って俺の頭をなでてくれる。


「少し休憩したら?」


さっきから見ていたフレイルも気を遣ってくれたようだ。


「そうだな。よし、じゃあ休憩を兼ねながら、前回教えたことの復習でもしようか。クライン、俺達剣士はパーティを組む場合に役割があったよな?覚えているか?」


「はい!攻撃手(アタッカー)と防御手(タンク)です」


「そうだ!剣士はその2つの役割があるんだったな。攻撃手と防御手。パーティを組む場合はどちらも不可欠だろう。俺は攻撃手だ。2人もその才能を受け継いでいるはずだ」


そう、この世界では、生まれた時点で能力が決まっているといっても過言ではない。子は両親の才能を受け継ぐからだ。


「じゃあ、次はルイズ。理想的なパーティ構成を述べよ!」


「えっと、剣士の攻撃手・防御手の他に、攻撃魔法を扱える魔術師(ウィザード)、神術で回復・支援できる司祭(プリースト)がいるのが理想です」


「おっ、ちゃんと覚えてたじゃないか。偉いぞ。そうだったな。剣技だけでは対応できないこともある。その場合は、攻撃魔法を扱える魔術師の出番だったり、司祭に支援や回復をしてもらうことも重要になってくる。さっきのフレイルがしてくれた治療は司祭の扱える神術だな。フレイルは母さんの才能を濃く受け継いでいるようだ」


才能を受け継ぐといっても実際には父母の才能の合計を簡単に10で表すとして、それが割り振られるらしい。両親の才能の種類が異なっている場合はそれぞれ5・5の割合で受け継ぐのが普通なんだそうだ。


だが、ここラーモンド家の子は極端な力の引き継ぎ方をしている。


クラインは、司祭の才能は継いでいないようで神術が使えない。そのため剣士の才能が10なのだろう。フレイルは神術を使えるが、剣は苦手みたいだ。それにアリシアの目から見ても、贔屓目なしで司祭として高い力があるらしい。ということはフレイルも司祭の才能が10なのかもしれない。


じゃあ俺はどうなのかというと、

神術は使えない。だからクラインと揃って剣士の才能を10継いでいるのだろうとファイザーに期待されていたのだが、剣に関しても先程のような状態だ。


なぜ俺だけこんなことになっているのか?


ルイズに元の俺の意識が残っているからエラーか何か引き起こしているのか?

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