第1章 ラーモンド家

第2話 ルイズの誕生

「生まれましたよ!可愛い坊やです」


誰かの声が聞こえた。


あれ・・・もしかして助かった?


感覚がまだぼーっとしている。


「よく頑張ったな。アリシア」


「えぇ、でも一番頑張ったのはこの子よ。よく私達の元に生まれてきてくれたわ」


男性とさっきとは違う女性の声。


ん?生まれてきて?聞き間違いか?

それにありしあって誰だ?


気になるが眠い。とにかく眠い。眠気に襲われる。

なんだ、これ。


意識が途切れる。


ん、んん・・・


また新たな声が聞こえてきた。


「この子が僕の弟になるのですか?」

「そうだ、クライン。お兄ちゃんなんだからしっかり守ってやるんだぞ」

「うん!わかったよ!」


「やったぁ!私にも弟ができたのね!」

「フレイル。あなたはお姉ちゃんとして優しくしてあげなきゃね」

「うん!わかったわ!」


「あっ見て!目を開けたよ!」


俺はようやく目を開けることが出来た。


目を開けるのってこんなに難しかったか?


視界が開けると幼い少年と少女の顔が近づいていてびっくりした。

どうやら俺が下から見上げていて、少年と少女に上から覗き込まれているようだ。


「小さなおてて、可愛い」


少女に簡単に右手を持ち上げられた。


えっ?手、小っさ!!

そこに見えてるのは俺の右手だよな?


持ち上げられている感触はある。


「この子の名前はもう決まってるの?」


「あぁ、もう決めてある!この子の名前はルイズだ!これからはこの5人で家族になるんだ。新しい家族の誕生を祝おうじゃないか」


もしかして?

アニメで得た知識がさっきから当てはまる。

思考はどうやら元の俺のままのようだがそのパターンもアニメで観た。


この状況あれか?

赤児に転生してるってやつか?


「うぇ、うぇ・・・」


言葉を発しようとするが声が出せない。

無理矢理出そうと試みる。


「うぇ、うぇお・・・。お・・・おぎゃ、おぎゃああ!」


「あ、泣いたわ!お腹が空いてるのかしら?」


「あらあら。きっとこの子もこれからよろしくねって言ってるのよ」


「ルイズ!僕はお兄ちゃんのクラインです。よろしく」


「ルイズ!私はお姉ちゃんのフレイルよ。よろしくね」


左右それぞれの手を握られた


「うふふふ。真似っこなんかして。あら、あなた達のおかげで泣き止んだわね」


「きゃっきゃっ」

ほう、どうやら笑うことはできるようだ。


「あっ笑ってるわ!」


「ルイズも名前が気に入ったようね」


ここには兄も姉もそして両親もいるようだ。

ルイズか。うん、悪くない名前だ。

そうか。ルイズとして新しい人生をやり直せるってことか。


けど、元の俺の後悔の味はまだ余韻を残している。


・・・よし、決めた!

次こそは後悔することのないように生きてみせる!


ルイズとしての人生の幕が開いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


産まれてから1年が経過した。


ハイハイで移動するのはまだしんどい。


そういえば、生まれて間もない頃、家族の言葉が理解できていることに疑問を持った。

その答えとして、どうやらこの世界の仕組みとして親の力を引き継いだりするらしい。


親が話す言語や文法に関しては生まれた時から備わっているみたいだ。

まぁ全部聞こえてくる話で推測しているだけだから、正解かどうかは分からんが。


ちなみに言葉を話すことはまだできない。

きちんと発声するための口周りの筋肉がまだ足りていないからだ。

こちらは発達を待たないとどうしようもないらしい。


でも、言葉がわかるのは役にたつ。

今のこの状態でも情報収集ができるからだ。


今日はみんなそわそわしている。

その理由も理解している。


まぁ、俺は構わず筋肉を鍛えるためハイハイにいそしむのだが。

今日も往復ハイハイ2セット!レディー・・・


あれっ!?浮いた!?


急に持ち上げられた。

上を見ると持ち上げたのは父だった。


なんだ、もうそんな時間か。


持ち上げられたまま父は移動している。

そのままリビングに入っていく。

テーブルに備え付けられた赤ちゃん用チェアに俺を降ろした。


「「「「ハッピーバースディ!ルイズ!!」」」」」


一緒にクラッカーの音が鳴る。


テーブルには大きなケーキとキャンドルが用意されていた。


そうだ。今日は俺の1歳の誕生日をみんなで祝おうとしてくれていたのだ。


「きゃっきゃっ」

お愛想、お愛想。


「あっ、ルイズも喜んでくれてるね!良かった!」


「そうね!さぁ今夜はご馳走よ!」


和気あいあいとした時間が過ぎていく。


うん。今日も離乳食がうまい!

味はおいしく感じられているからこのご馳走を前での離乳食でも文句はない。


みんながご馳走を食べ終えたので、「僕がやってあげる!」とクラインがケーキのキャンドルに火を灯した。こちらではこのタイミングで灯火するようだ。


みんなの楽しそうな様子を眺めている。

何も考えずこのまま楽しい雰囲気に最後まで酔っていればよかったのだが、ふと思考を動かしてしまった。


あれ?

でも冷静に考えるといったい何十年振りだ?

誰かに誕生日を祝ってもらえるなんて。


誕生日はいつも1人で過ごすか、バイトをしてからはシフトを入れるようにしていた。誕生日が近い日に誕生日がいつか聞かれると、1人で過ごすことを知られないよう、はぐらかしたりもしていた。そんなことを続けていく内にいつしか気にもならなくなっていた。その存在自体を忘れたかのように。


「ルイズ1人ではまだ無理だから、クライン、フレイル。一緒にキャンドルの火を消してあげて」


「「うん」」と2人が顔を近づけてきて「ふぅってやるんだよ、ふぅっ。せーの!」


「「ふぅっ」」


俺は一緒に息を吐き出せなかった。

なぜか胸がいっぱいで・・・


「ひっく、ひっく、・・・ぎゃぁぁああ、おんぎゃぁああ!」


激しく声を出して泣いた。

この世界にきて感情をさらけ出したのはこの時が初めてだった。

自分でも引くくらいの嗚咽級の号泣だ。


「あらあら、どうしちゃったのかしら?」


悲しいからじゃない嬉しいんだ。


嬉しくても泣きたくなる。

こんな感情、遠い昔に置いてきた。


誕生日っていいものだったんだな。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


2年半が経過した。


「あー、あー。本日は晴天なり、晴天なり。よし!」


口周りの筋肉を意識して動かしまくっていたおかげで、ついに言葉を発することができるようになった。まだ、家族の前では披露していない。

でもこの年にしては少し流暢すぎるか。


夕食後のいつもの団欒の時間がきた。


「クライン。明日からそろそろ剣の稽古を始めてみるか?」


「はい!お父様のように早く強くなりたいです!」


「そうか。お前に剣の適正があるといいな。ルイズも・・・やるか?」

冗談交じりに俺の方を見た。


よし、今だ!


「パー・・・パ」


「えっ!?今なんて言った?ルイズもう一回!」


「パーパ!」


「おー!パパっていったぞ!はっはっは!ルイズの第一声は俺がもらった!」


ものすごく嬉しそうだ。


「ルイズ、ママっていってごらん。お兄ちゃんはクライン、お姉ちゃんはフレイルよ」


「えーお母様。まだそんなには無理よ」


ふっふっふっ、お安い御用だ。


「マーマ。クラ・・・イン。フレ・・・イル」

年齢に合わせた言葉足らずな感じで。


「え、すごいじゃない!」


みんなが盛り上がっている中、これだけは言っとかないと。


「いつも、ありがとう」


ここだけ流暢に出てしまったので、みんなを驚かせてしまった。


でも、どうしても早く言葉で気持ちを伝えたかったのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


それから月日が経つのはあっという間で、ラーモンド家の二男である俺はすくすくと成長していった。転生したこの世界は、元の世界と違い魔法や神術が存在する、いわゆる異世界ってやつだった。

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