第4話 内緒の話
俺の顔が少し暗くなっていたのかもしれない。
フレイルは話題をそらすように一際明るい声でファイザーに問いかけた。
「そういえばお父様のパーティは、お母様の他にお2人いたのよね?」
「おぉそうだ。異種族パーティ『アフタージュ』といって有名だったんだぞ!俺とアリシア、防御手はオーガ族のターカル、魔術師はエルフ族のジュークの異種族でパーティを組んでいたんだ。まぁそのパーティもとっくに解散しちまったがな・・・」
ファイザーとアリシアは元々同じパーティにいてその中で結ばれたらしい。クラインを身籠もったのが判明したときにパーティを解散したと前に聞いたことがある。それからファイザーは独立剣士となり、依頼があれば臨時パーティを組んで護衛等の仕事をしている。結構、家にいないことが多かったりもする。
残りの2人については詳しくはわからない。
オーガ族は身体が大きく頑丈で、エルフ族は攻撃魔法を使うことに特化した一族なんだそうだ。本で見たことがある。
それにせっかくの異世界なのにオーガ族やエルフ族等の異種族に会ったことがなければ、実はまだ攻撃魔法も目にしたことがない。アニメ好きとしては演出が派手な攻撃魔法に憧れていたのだが、前に詳しく聞こうとしたら、「そんなものは必要ない」と一蹴されてしまった。なぜかファイザーが少し不機嫌になってしまうのだ。
過去の戦闘の際に攻撃魔法で痛い目を見たのかもしれない。
まぁそこは、元大人の俺の空気が読める才能(タレント)で触れないようにしようと決めた。
今はそんなことよりも少しでもクラインに追いつきたい。
「よし、じゃあそろそろ休憩終わりだ!クライン、ルイズ、次は素振り200回!」
「はい!」
「げっ!」
俺だけ落ちこぼれになりたくはない。
時間はかかってしまったが、重い剣を最後まで振り切った。
そんなある日、ファイザーが2週間程、護衛任務のため家を空けることになった。
そんな時は、クラインと剣の自主稽古をするようにしている。今日の自主稽古が終わったところを狙っていたのかフレイルが顔を出してきた。
「ねぇ2人共?お父様が次に帰ってくる日は何の日かわかる?」
「えぇと、何かあったっけ?」
タオルで汗を拭きながら答える。
俺はそっち系の質問には元々うとい。
「お父様とお母様の20年目の結婚記念日だろ?」
「正解!さすがクライン兄様ね!ルイズも記念日位は覚えておきなさい。そうじゃないと女の子にもてないわよ?」
「ブホッ・・・!」
水を飲みながら聞いていたから咳込んだ。
「私達いつもその日はお母様の代わりに家事をやったり料理を作ったりしてたじゃない?でも今年は20年目だし、何か特別な物をプレゼントしたいなって前から考えていたの。それで友達のシャルに相談してみたら、この前、裏のコーラル山で珍しい綺麗な鉱石を見かけたんだって。それにその鉱石をマジェンダの町でネックレスに加工できるみたいなの。それを2人にプレゼントしてあげたいなぁっていう、相談なんだけど」
フレイルが相談を持ちかけてくるときは、フレイルの中ではすでに決まっており、暗黙の了解でそれを手伝えってことだ。今までの経験で分かっている。
「コーラル山か・・・でもコーラル山には子供だけで近づくなってお父様から言われてるだろ?」
クラインが答える。
コーラル山は家の裏から見えている山の名称だ。コーラル山は野生の動物が襲ってくることもあるから近づくなと小さい時に父に言われた記憶はある。
「それ、私が6歳だった頃の話じゃない。今ならもう大丈夫よ!それにシャルがよくお父様とコーラル山に生えてある魔草を取りに行ってるんだって。行くなら案内もできるからって言ってくれてるのよ。それに何かあってもクライン兄さんが守ってくれるでしょ?」
「・・・・・・。わかった。特別な記念日だもんな。コーラル山に行ってみるか」
少し考えたようだがクラインが了承した。
「やったぁ!ルイズも一緒に来るわよね?」
「え?僕もついて行っていいの?」
行く気満々で置いて行かれたら恥ずかしいから、自分この話関係ないって顔をしていたが、内心では誘ってくれと思っていたところだった。
「何かあっても俺が守ってやるよ。だからお前も来たら良い」
「うん!じゃあ僕も行く!」
足早にフレイルがどこかへ行った。
早速友達に連絡してくるのだろう。
「クライン兄さんのことだから、山に行くのをダメだって反対するのかと思ったよ」
「相談を持ちかけられたってことは、もしダメだと言ってもフレイルは内緒で行こうとするだろ?あいつの中ではすでに決まってるんだ。それならついて行った方が何かあったときに守ってあげられるしな。ただ、ルイズお母様には内緒だぞ。知ってたらなぜ止めなかったとお父様に怒られるかもしれないからな」
兄という立場の裏側を垣間見た気がした。
何だろう。わくわくしてきた。
こんなにわくわくするのは、前世で小さい頃に兄と姉に初めて自転車で隣町まで連れて行ってもらった秘密の冒険の時以来かもしれない。
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