第037話 一一一分の一(5)

 ──ガッ!


 きゃあああぁあああっ!?

 鍵、回らないいいぃいいいっー!

 絶対わたしの名前だと思ったのにいいいぃ!


「……ファールス!」


 ──ガチャッ!


「まっ……回った! つぐみ解けたっ! 時限爆弾……止まりましたっ!」


「や……やったな、弟子さんっ!」


「はいっ、やりましたっ! 師匠っ、見ててくれましたかっ! わたし、最高位のつぐみを解きましたよーっ!」


「すううううぅ……」


「あーはいはい。寝てるんですよねー……」


 ふああああぁ……。

 緊張が一気に解けて、体中から力抜けてく……。

 もう立って……られない。


 ──ぺたり。


 合言葉、フルネームで焦ったぁ……。

 口が勝手に動いたから、よかったもののぉ……。


『あら、口が勝手に……はないでしょう? わたしが手伝ったのよ』


 えっ……この声……?

 おかあさん?

 あっ……!

 おかあさんが、わたしの口動かしてくれたのっ!?


『ええ。あなたがシアラくんへキスをした拍子に、わたしの意識が表へ出たわ。そしたらあなた、一発勝負技法ワンショットに挑んでるじゃない。焦ったわよ』


 えっ……?

 あのキスで……おかあさんが?


『……エルーゼ。つぐみの錠の合言葉は、二秒を置いたら途切れたと判定されるわ。覚えておきなさい』


 わ、わかりました……。

 そういうルール、あったんですね……。

 師匠ってば、全然教えてくれないし……。


『それは当然よ。つぐみ修行は本来、基礎の修練のあとだもの』


 ……みたいですね。

 あはは……。


『……ところでエルーゼ。今回の事件で、本当のおかあさん……生みの両親へ、たどりつきましたね』


 あ、はい……。

 ガルツァ渓谷落橋らっきょう事故……。

 その唯一の生存者が、幼かったわたし……。

 生みのおとうさんとおかあさんが、二人でわたしを挟み込んで、守ってくれたんですよね……。

 そのときの記憶いままでなくって、覚えてたのは、親戚のたらい回しばかり……。


『……幼い心を守るために、自分自身で記憶を封印していたのね。そして恐らく、育ての親であるわたしの意識が触媒となって、記憶の底から蘇らせた……』


 こういうのも、つぐみの錠って言うのかな……。

 あはははっ……。


『ふふっ……どうかしらね。さて、そろそろわたしも眠るわ……。シアラくんのようにね』


 えっ、もう……?

 せっかくまた、出てきてくれたのに……。


『こらっ! いまのあなたは、産みの両親を想うべきでしょう? それから、もしかするとだけれど……。わたしはシアラくんとのキスによって、起こされるみたいよ?』


 ええっ……!?


『わたしが必要なときは、また彼とキスをするといいわ。じゃあ、またね……』


 えええ~っ!?

 おかあさんと話すたびに、師匠とキスしなきゃ……って。

 なんですかそれぇ~っ!?

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