第036話 一一一分の一(4)

 ──バキッ! ガッ……ドカッ!


「早く吐けっ! 合言葉を吐くんだっ!」

「おまえたちも自害したことにしてやろうかっ!? おーっ!?」

「落橋は事故だ! だがおまえらの行為は……事件なんだぞっ!」


 うわっ……!

 尋問って……大勢で取り囲んでの、殴る蹴るの暴行っ!

 犯人のおじいさん二人、血まみれで顔パンパンに腫れてる……。

 やってることを考えたら、しかたないのかもしれないけど……。

 ええいっ……いまはあれこれ考えてる場合じゃないっ!

 時間ないっ!

 わたしが確認したいのは……ただ一つだけっ!


「あ、あの……すみません刑事さんがたっ! わたし解錠師ですっ! あっちの刑事さんから許可貰ってきたんですけど、少しだけ犯人と、話をさせてくださいっ!」


「……なにぃ?」


 許可なんてもらってないけど……。

 嘘も方便っ!

 解錠師の話術のうちっ!


つぐみの錠を解くために、必要なんですっ! お願いしますっ!」


「チッ……。少しだけだぞ」


「は……はいっ! ありがとうございますっ!」


 犯人のおじいさん二人、唇も腫れ上がってて、会話したくてもできなさそう。

 でも、これはでもあるから……。

 しっかり確かめなきゃ……。


「あ、あの……。わたしいまあっちで、つぐみの解錠をしています。わたし、事故当時は幼くて、そのことを詳しく覚えていないもので……。一つだけ……質問させてください」


「「……………………」」


「わたしがこれから言うことが、もしも正しかったら……首を縦に振ってください。あの事故の……事件の生存者は、一人ひとり……でしたか?」


「「……………………」」


 ──こくっ!


 向かって右のおじいさん……首を縦に振った!


「……ありがとうございましたっ! あ、あの……刑事さんたちっ! 合言葉わかりましたっ! だからもう暴力は、やめてくださいっ!」


 合言葉……わかった!

 それは落橋事故の……ただ一人の生存者っ!

 そのの名前っ!

 このつぐみ……一一一分の一なんかじゃないっ!

 一分の一っ!

 唯一のにして、両親を亡くしたの名前が……。

 多くの人を救う唯一の合言葉っ!

 あのおじいさんたちは、鉄道会社が事故を……事件を……上辺だけでなく、きちんとすべて覚えているか、つぐみで問うたんだわっ!


 ──タッタッタッタッ……!


「はあっ……はあっ……はあっ……! 刑事さんっ、物理の鍵を貸してくださいっ! 合言葉……わかりましたっ!」


「そ……そうかっ! 残り二分っ! もうダメかと思った! それで合言葉はっ!?」


「わたしの顔に書いてありますっ!」


「はぁ?」


 師匠……まだ眠ったまま。

 合言葉は……まず合ってる!

 でも、もし……もしも万一、間違ってたら……ごめんなさいっ!

 先に……お詫びしておきますっ!


「チュッ……」


 全然お詫びになってないけれど……。

 奪われたんじゃなくって、わたしから捧げた、初めてのキスですっ!

 それじゃあ、解錠始めますっ!

 ええと……鍵穴は、ここ……。

 ここに物理の鍵を、奥まで差し込んで……。

 回すと同時に、合言葉を唱える……!

 いきます……!


「……エルーゼ!」

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