第035話 一一一分の一(3)

『……あなたっ! この子は……エルーゼだけは……!』

『ああっ! エルーゼは命に代えても……必ず……絶対助けるっ!』


 頭の中に…………またこの声っ!

 でも、視界は赤く染まらないっ!

 代わりに……体がガタガタ、縦横に振られてる感じがして……。

 それから、全身を締めつけられるような……感覚……。

 息苦しいっ……肺が潰れそうっ!

 で、でも……師匠が倒れてるのに、わたしまでは……。

 わたしが……しっかりしなきゃっ!


「お、おい……弟子さんよ。あんたまで、気を失わないよな……?」


「……だ、大丈夫です。それより刑事さんっ!」


「なんだ?」


「この名簿……死亡者リストですよね? ここにもそう書いてありますけど」


「ああ、そうだ。事故の犠牲者、一一一人の名前だ」


「刑事さんっ! は、違いますっ!」


「んんっ……?」


「傷を負った生存者、肉親を失った遺族……。事故のには、それらも含まれるんじゃないでしょうかっ!?」


「そ、そう言えば……。遺族会代表の元軍人は、『犠牲者』という言いかたをしていたな。だがこの場合、犠牲者は死亡者のことじゃあ……」


「刑事さんっ! はありませんかっ!?」


「あ、いや……ここにはない。だが確かあの事故じゃあ、生存者はほとんどいなかったような……」


「……犯人に確認してきますっ! いま、どこにいますかっ!?」


「そこの改札口の向こうで、尋問中だが……。おっ、おい待ちな、弟子さんやっ!」

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