第004話 解錠師シアラは眠りたい(4)

「あの……シアラさん? 『おかあさん』……ってそれ、どういう意味ですか?」


「意味は鍵が開いたら考えろ。逆に開かなければ、考える必要はない」


「で、ですけど……」


 おかあさん……。

 叔母さんがわたしに、合言葉として口にしてほしい言葉……。

 叔母さんは、本当のおかあさんみたいになりたかったって……こと?

 わたしにおかあさん……って、呼んでほしかったって、こと?


「……エルーゼ。繰り返しだが、意味を考えるのは開いたらでいい。深読みしたら、開かなかったときいろいろと難儀だぞ」


「あ……はい。ですね……」


 ……うん。

 合言葉、別の言葉ってこともある。

 いまは頭空っぽにして、きれいに発音することだけ考えよう。

 いったん深呼吸して、口の中の空気、きれいにして……。

 すううううぅ……ふううううぅ…………よしっ!


「お・か・あ・さ・ん」


 ──ガチャッ!


「開いたぞ」


「は……はいっ! わたしが試したとき、全然入らなかった鍵が、しっかり根元まで……。合言葉……つぐみの錠! すごいですっ!」


「俺の仕事はここまで。閉じられた扉を開けるのは、依頼主の権利、ないし義務」


「こんな大掛かりな鍵で、閉じられた箱の中身……。確認するのちょっと……ううん、すっごく緊張します……。ごくっ……」


「ここに厚かましく入ってきた田舎娘とは、別人みたいにしおらしいな。フフッ」


「あ、あの……。開ける前に、シアラさんが考えてた、ほかの合言葉の候補……。伺ってもいいですか?」


「おかあさま、かあさん、かあさま……辺りか。おかあちゃんや母上は、俺が知ってるジョゼットさんのイメージに合わなくてな」


「あはっ……全部それ系。ありがとう……ございます。ぐすっ……」


 叔母さん、わたしのこと、そんなに愛してくれてたんだ……。

 生きてる間に言えなくて……呼べなくて……ごめんなさい。

 それじゃあ……開けるね、


 ──カタッ……。


「これって……。指輪……」


 真っ赤なクッションの中央に、一つ置かれた指輪……。

 大きな赤い宝石が埋め込まれた、シルバーリング……。

 なんだか、とっても高価たかそう。

 でも叔母さ……おかあさんは、こんな高価な装飾品、持ってるイメージじゃ……。


「ルビーだ。それも、いっさい混じりけのない真紅の逸品、『ピュア・ブラッド』。サイズと市場の在庫次第では、億に達することもある最高級品」


「これが、ルビー……。わたし、本物の宝石、生まれて初めて見ました……」


「あーもー……そこじゃないっ! この田舎娘がっ! 『ピュア・ブラッド』に反応しろっ!」


「えっ……?」

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