宝物

最悪なバースデー

「そうか…明日はもう、7回目の命日か…」


一葉いちはは、呟いた。一葉は、明日、27歳になる。明日、命日を迎えるのは、真那斗まなと。一葉の幼馴染だ。真那斗は一葉の2つ歳上で、しっかり者で、本当のお兄ちゃんみたいな優しい幼馴染だった。


2人はいわゆる許婚で、小さな頃から、一緒に遊んでいた。一葉は、真那斗のお嫁さんになるのが使命で、目標で、夢、だった。



「真那斗お兄ちゃん!一葉、お兄ちゃんのお嫁さんになれる?」


一葉は、事あるごとにそう真那斗に尋ねた。


「うん。なれるよ。僕も一葉が好きだからね」


真那斗はいつも笑顔でそう答えていた。


2人は、すくすく育ち、順調に大人になった。そして、一葉20歳。真那斗22歳の時、結婚することが決まった。結婚式場も決まった。招待状も出した。ドレスも色々着てみて、わいわい言いながら3回お色直しすることになった。引き出物、入場曲、席順、そして、指輪。次々決める事が多く、2人で息切れしそうなくらい、急ピッチで準備を進めた。それでも、一葉は楽しかった。



少なくとも、一葉は。


一葉は、幸せの絶頂だった。





結婚式当日。





真那斗は、いくら待っても、現れる事はなかった。


真那斗は、結婚式の当日、川に身を投げたのだ。遺書はなかった。しかし、一葉には解った。私は、真那斗に愛されていなかった、と。




喪服に身を包んで、一葉はそっとタンスの奥の四角い箱を取り出した。もう、7年、触っていなかった。埃だらけになったその箱を開けると、奇麗な指輪が姿を現した。


辛く、悲しい、思い出。それでも、一葉にとっては、掛け替えのない宝物。





一葉は、毎年、最悪なバースデーを迎えている。

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宝物 @m-amiya

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