宝物
涼
最悪なバースデー
「そうか…明日はもう、7回目の命日か…」
2人はいわゆる許婚で、小さな頃から、一緒に遊んでいた。一葉は、真那斗のお嫁さんになるのが使命で、目標で、夢、だった。
「真那斗お兄ちゃん!一葉、お兄ちゃんのお嫁さんになれる?」
一葉は、事あるごとにそう真那斗に尋ねた。
「うん。なれるよ。僕も一葉が好きだからね」
真那斗はいつも笑顔でそう答えていた。
2人は、すくすく育ち、順調に大人になった。そして、一葉20歳。真那斗22歳の時、結婚することが決まった。結婚式場も決まった。招待状も出した。ドレスも色々着てみて、わいわい言いながら3回お色直しすることになった。引き出物、入場曲、席順、そして、指輪。次々決める事が多く、2人で息切れしそうなくらい、急ピッチで準備を進めた。それでも、一葉は楽しかった。
少なくとも、一葉は。
一葉は、幸せの絶頂だった。
結婚式当日。
真那斗は、いくら待っても、現れる事はなかった。
真那斗は、結婚式の当日、川に身を投げたのだ。遺書はなかった。しかし、一葉には解った。私は、真那斗に愛されていなかった、と。
喪服に身を包んで、一葉はそっとタンスの奥の四角い箱を取り出した。もう、7年、触っていなかった。埃だらけになったその箱を開けると、奇麗な指輪が姿を現した。
辛く、悲しい、思い出。それでも、一葉にとっては、掛け替えのない宝物。
一葉は、毎年、最悪なバースデーを迎えている。
宝物 涼 @m-amiya
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