第2話
あれから私と彼は数日毎にメッセージを交換する仲になった。というのもコーヒーのお礼を言えなかったためにスマートフォンのメッセージを送るしかなかった。
私は「コーヒーおいしかった」「ありがと」と短く送信した。絵文字はつける気がしなかった。数分間はとてもそわそわしていたが、何を期待しているんだろうと自分をあざ笑って、落ち着きを取り戻した。そして、冷蔵庫から安いからという理由で買い込んだ硬い水を飲んだ。
寝ようとして、とりあえずハンドクリームとリップクリームを塗り終わったときだった。スマートフォンが白く光る。なんだろうという思いと嫌だと思っているはずの期待が息をつまらせる。私はスマートフォンを手に取る前に息をわざとゆっくり吐いた。
ロックを解除すると、メッセージが来ていた。彼だった。
「コーヒー好きなの? いいな 俺カフェオレの甘いのしか飲めない」
私はどう返したらいいかわからなくて、既読をつけてしまったことを後悔した。ちょっと考えてから返事をしよう。そう思っていたら二日が立っていた。
寒い寒いと思っていたが十二月になっており、いつの間にか街を行きかう人々が本格的なコートを着ていた。慌てて、厚めのロングコートをクローゼットから出した夜。スマートフォンが淡く光る。見覚えのない表示に疑問を覚える。アイコンを見て思い出す。彼だ。私はすっかり忘れていた。
「ねえ、そういえばどんな本読んでるの?」
彼は返事が遅いことを咎めはしなかった。そして、何もなかったように別の話題を出してきた。今度こそ早く返信しようと決心した私はじっとその問いを見て「ミステリが多いかも」と返した。送信。
しまった。早すぎたのではないか。考えすぎなのか。私はぐるぐる考えてしまいそうになる自分に嫌気がさし、スマートフォンの画面を消した。
寒いしなにより明日も早くから仕事だ。私は手っ取り早くお風呂に入り、最低限の保湿をして寝た。
朝、返信は来なかった。こんなことで一喜一憂していたらいけないのだ。もういい大人なのに、中学生みたいだ。たいして仲のいい友達がいないから、熱をあげている恋人がいないから、親とは疎遠だから、だから慣れていなくて気持ちが揺らいでしまうのだ。こんな弱い自分が嫌で嫌で仕方なくて情けなくて私は数滴の涙を流す。私は考えや涙を止めるようにぎゅっと目をつむった。そして玄関の鍵を閉めた。
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