100番目の願い

汐海有真(白木犀)

100番目の願い

 一番目の願いは

 生きてゆくのに困らないお金がほしい だった

 その願いは月の色をした飴玉になったから

 わたしはそれを 監獄の湖に溶かした


 無秩序な螺旋階段が 何処までも続いている

 わたしは溜め息をつきながら その階段を昇る

 遠くで白猫が笑っている

 右目が金色で 左目が青色をした猫


 二番目の願いは

 誰にも嫌われることなく生きていたい だった

 その願いは海の色をしたケーキになったから

 わたしはそれを 監獄の湖に溶かした


 世界は今日も 鮮血の色彩に染まっていた

 その上に零れた涙が 一瞬だけ桜色を咲かせた気がした

 少し遠くで白猫が笑っている

 雪のような毛並みで 尻尾をゆらゆらと振るう猫


「君は 嘘つきだね」


 白猫の言葉に わたしは次の願いを考える手を止めた

 全て 見透かされている

 その事実に 途方もない恐怖を覚えている自分がいた

 柔い皮膚を突き破るかのように 唇を噛んだ


「ほんとうの願いを隠すことの 何が悪いのですか?」


 百番目の願いにしてしまえばいいのだった

 そうすれば わからなくなる

 歪でどす黒くて壊れ切ったわたしの愛情なんて

 あなたに 伝わらなくなる


「ほら やっぱり嘘つきじゃないか」


 うるさい

 おまえは どうして全てを見透かすの

 うるさい

 おまえに わたしの気持ちがわかってたまるものか


「……黙れ」


 百番目の願いは

 あなたに愛してほしい だった

 でもわたしは その願いを形にしようとは思わない

 監獄の湖に 溶かしてしまいたくないから


 わたしは眠っていた

 あなたが笑いかけてくれる そんな都合の良い夢を見ていた

 近くで白猫が嗤っている

 わたしはそれに気付かないふりをして 笑う

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

100番目の願い 汐海有真(白木犀) @tea_olive

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ