第23話 飛躍に飛躍するアルカ

 剣聖は一撃を防ぐ。それがどれだけの壁のなのか私にはわからない。


「あの…………一つお願いしてもいいですか?」


「なにかな?」


「その、正直、今の剣聖さんの強さがわからないのですが…………」


 ある程度の力量を知るのは当然のこと。でも、今の私には剣聖の力量が想像できない。だから、聞くしかなかった。頼むしかなかった。


「なるほど…………安心して、きっと肌で感じられるはずだから」


「そ、そうですか……」


 こうして、お互いに準備を行い、そして向き合った。


「それじゃあ、私はこの鉄剣を持って出せる全力で剣を振るうから、それを防ぐんだ、いいね」


「わ、わかりました」


「ある程度、考える時間はあげるから、それじゃあ、いくよ」


 剣聖ジル=ローセルが剣を構えると、鉄剣に魔力の奔流が始まる。それは白い光を放ち、その出力は…………。


 私が見た、クロちゃんの一撃以上だった。


「す、すごい…………」


 魔力量だけでも私以上かもしれない。いや、でも、剣聖ジさんはまだ余裕な笑みを浮かべている。


「これが限界か、まぁアルカちゃんを試すにはちょうどいいか」


 間違いない。剣聖さんはまだ本気じゃない。なのに、この魔力出力。こんな高濃度エネルギーが地面に触れたら、ここ一帯は消し飛ぶ。


「全力で防ぎますっ!!」


 あの時と同じ、やることは変わらない。威力はクロちゃん以上かもしれないけど、私だって成長している。


「それじゃあ、準備はいいかな?」


「はいっ!!」


「じゃあ、いくよっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 振り下ろされた鉄剣。


 私は、瞬時に魔法を解体し、再構築を開始した。私の中で魔法をパズルのように構想し、それをピースとして保存する。


 保存したピースを一つ一つ必要なもので組み上げていく。


 それを繰り替えしていくと、一つの魔法が生まれる。これが基礎魔法としての基盤となり、これから作る魔法…………魔術の基礎となる。


 基礎、基盤ができれば、それをさらに組み上げていくように重ね、もう一つ魔術を重ねる。これで、応用魔法に近い、魔術が完成する。


 さらにもう一枚重ねることで、この魔術は超越魔法に近い魔術へと変換される。


 この間に経った時間は0.1秒も経っていない。


 しかし、これでもまだ、あの一撃を防げない。だから、ここからさらに、もう一枚、重ねる。


 3枚も重なると、その中身は複雑に絡み合い、もう一枚重ねるのは困難。でも、その3枚の構造を理解していれば、もう一枚重ねることが可能。


 私の中では魔術はパズル。ピースはかならずハマるし、無理につなぎ合わせなければ、暴発することもない。


 全てはあるべき場所に存在する。


 できた。4枚構造の魔術。これはもはや超越魔法の中でもかなり上位だ。


 でも、まだまだ足りない。英雄に対抗するには、さらに上へ。


「うぅ…………」


 さらにもう一枚。


 流す血の涙。痛みをこらえるように舌を嚙むアルカ。


 限界を超えて、アルカはさらに重ねる。5枚構造は、もはや超越魔法を超える魔術となる。それがどういう意味か…………もしこれが完成すれば、魔法より魔術のほうが上であると証明はできなくても、その一筋の光にはなる。


 反発しあう魔術の束、その中にさらにもう一枚、重ねた。


「できた…………」


 この場にしまっておくだけでも、体が悲鳴を上げる中、振り下ろされている剣を見る。


 タイミングだ。タイミングを誤っちゃいけない。ギリギリまで引き寄せて…………今だぁ!!


「【星内の海に帰れ(アルテアース)】!!」


 その叫びとともに、白き壁がアルカの目の前に現れ、振り下ろされた一撃に直撃する。


「これは…………」


 鉄剣に流れる魔力を吸収している。この障壁は魔力を吸収しているのか…………いや、それにしては…………。


 違和感に気づく剣聖ジル。その違和感にはほんの数秒で気づいた。


 魔力を吸収する障壁、その吸収先は…………鉄剣ではなかった。


 体から吸われていく感覚。それは認識して初めて気づいた。


「まさか、この障壁…………私の魔力を吸っているのか」


「…………気づいちゃいました?」


 そう【星内の海に帰れ(アルテアース)】は対象の魔力を吸収することもできる魔術。本来の機能は障壁として守り、それと同時に触れたものの魔力を消滅させるのが本来の機能。


 でも、剣聖ジルのように暴力的な魔力を流し込んでいる鉄剣では、消滅させても、すぐに奔流する。だから、直接魔力を吸収することにした。


 できるとは思ってなかったけど、まさか、できるなんて…………もしかしたら、この魔術は私でも計り知れないものが眠っているのかもしれない。


「…………これはまずい」


 これは一種の無限ループ。この固い障壁も吸収した魔力で補填されている。このままでは、魔力切れで、終わる。


「いいでしょう。なら私も本気でいきます」


 この鉄剣、借りものだから壊したくなかったけど、仕方がない。


「どれぐらい吸収できるか、試して差し上げましょう」


 激しく魔力が奔流する中、鉄剣を力強く握ると、さらに魔力が流れ出す。それに滝のように激しく、荒々しく。


「うぅ…………」


 まだまだ、出力が上がるの!?で、でもまだまだ!!


 それでも、吸収し続ける障壁。その許容量に驚きを隠せない剣聖ジル。


 なるほど、これはなかなか、骨が折れる。


 かなりの魔力で剣を振り下ろしているはずなのに、それでも吸収し続ける障壁。これはもはや、ただ魔力が流れる鉄剣では破壊できない。


「…………これは、完敗です」


 鉄剣では耐えられないほどの魔力が流れ込み、そのまま砕け散った。


「はぁはぁはぁははぁはぁ、やった…………の?」


「素晴らしい防御力と吸収力。これならきっと、彼にも勝てるでしょう」


「…………そ、そうですか」


 あれだけ、魔力を使ったのにこの余裕な表情。これでも全力じゃなかったってことだよね。


 上には上がいるもんなんだね。本当に、敵に回したくないよ。


 安心したのか、そのまま自然現象に任せて、倒れこむアルカ。


 なぜか、とてもすがすがしい気分だった。


「悔しいな…………でも、次はもっとうまくできる気がする」


 清々しい表情で見つめる剣聖さん、その余裕っぷりにはむかつくけど、コツをつかむことはできた。


「あ~~あ!自分が怖い!!」


「それでは、訓練はここまで、あとの時間はゆっくりしましょう」


 時間は夜19時、今日の訓練はすごく早く終わった。


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