第22話 【訓練5日目】剣聖ジル=ローセル

 お昼ごろ、私は水上都市『モルディカ』の出入り口前に訪れた。


「どこにいるんでしょうか」


 周囲は人だらけ、とてもじゃないけど、人を探せる状況ではない。


「もう少し奥かな?」


 私はさらに、奥へと進み、ついには外へと出てしまった。


「これは…………どうしよう」


 完全に都市外に出てしまったアルカ。周囲を見渡すも、出入りで待つ人のみ。


「そこで何をしているのかな?」


「へぇ?」


 後ろから声をかけられたアルカは振り返ると、黒髪の高身長で、剣を携えた騎士のような身なりをした男が話しかけてきた。


「え~~と、人と待ち合わせていて」


「そうですか、どこで待ち合わせを?」


「あ、え~~とその……」


「すいません。見ず知らずの人にいきなり話しかけられては怪しまれるのも無理はないです」


「いえいえ、まぁ、ちょっと…………」


「しかし、どうやら、我々は無関係ではないようです」


「それはいったい、どういうことですか?」


「あちらを見てください」


 そう言って指をさした先をアルカは見ると、そこには。


「やあやあ、二人とも、もしかして知り合いだったのかな?」


 突然、馴れ馴れしく話しかけてくる女性。身なりはよく、とてもきれいだけど、どこか見たことがあるような。


「いえ、たまたまですよ。困っている顔をしていましたから」


「それは、本当かな?本当は、確かめたいことでもあったんじゃないの?」


「やめてくださいよ。私がそんなことをする意味がない。そうする必要すらない。まだな行いです。それは、教皇様自信がよく知っているでしょ?」


「そうね、そうだった。まったく、その余裕っぷりが憎たらしいよ、剣聖」


「…………きょ、教皇様!?」


 この男は目の前の女性を教皇様と呼び、教皇様はこの男を剣聖と呼んだ。


「ど、どういうことですか?教皇様?剣聖?どういうこと?え、え、え~?」


「…………本当に何も話していないのですね」


「そのほうが面白いだろ?」


「とりあえず、この子の疑問を解かないと、話が進まなそうですね」


 どうやら、今回の訓練相手はなんと剣聖ジル=ローセル。英雄たちですら、決して、相手にしない剣の申し子らしいけど、イマイチ理解できない。


 教皇様がわざわざ呼んでくださったようで、一体、どうやって呼んだのか知りたい。


「と、いうわけで、今日は剣聖のジルくんと訓練をしてもらいます」


「クロちゃん…………そういうのは先に言ってほしいです」


「ごめんね、正直、来てもらえるか五分五分だったんだよ」


「それでも、せめて、姿を変えるぐらい言ってくれてもよかったのでは?」


 おかげで最初の話は全くついていけなかった。


「それはほら、脅かせたくて…………ごめんね」


「うぅ…………」


「まぁ、教皇様らしいといえば、らしいね」


「まぁまぁ、二人ともそこまでだよ。それより、早速だけどお願いするよ、剣聖」


「任せてほしい、頼まれた以上しっかりと、仕事はこなすよ」


「じゃあ、夜ぐらいに迎えに行くから」


 どうやら、今から剣聖さんと一緒に訓練をするらしい。けど、一体、何をするんだろう。


 二人きりなった私たちは、水上都市『モルディカ』から少し離れた場所に移動する。


「それじゃあ、時間もないし始めようか」


「あ、あの一つ質問いいでしょうか?」


「何か?アルカちゃん」


「その、剣聖ってなんですか?」


 その質問にその場の空気は一瞬、凍った。


「…………なるほど、そういえばアルカちゃんはこの世界をよく知らなかったんだよね。いいよ、それじゃあ、剣聖とはなんなのか、少し話をしよう」


「剣聖ジルの剣聖講座!!」


「いえーい!!」


「剣聖は北方の彼方にある都市、生命生存都市『シェートラ』に仕える騎士のことだよ。剣聖っていうのは騎士の中でもっとも強い者に与えられる名称のような飾りさ」


「なるほど……」


 つまり、ものすごく強い騎士ということだね。


「というわけで、理解できたか?」


「はいっ!大雑把にですが!!」


「そうか、では早速だけど訓練を始めようか。といっも、時間がないし、私が行う訓練はアルカちゃんが持つ能力を底上げする訓練だ。ついてこれるかな?」


「もちろん!強くなるためなら、どんな困難だって乗り越えて見せます!!」


「では、始めましょうか」


 最初に行われたのは、体力増強訓練だった。


 ただただ長い道を走り続ける苦行。足場には魔力を吸い取る機能が備わっており、足をつくたびに、魔力が吸われ、少しずつ、体力が奪われていく。


 数時間なら問題ない、けどその時間が5時間を過ぎたころ、私の限界が見え始める。


「はぁはぁはぁははぁはぁ…………まだ、続くんですか」


「うん、まだまだ」


「うぅ…………」


 体力も魔力も相当きている。魔力量には自信があるけど、足を地面につくために、魔力を吸う量も大きくなっている。


 久しぶりに感じる魔力の枯渇。


「ふふ…………まだまだぁぁぁっ!!」


 私はその限界を超えて、もう一歩、前へと踏み出す。


「想像以上ですね…………興味深い」


 常人なら1時間と待たずに倒れるのに、アルカちゃんはもう5時間を超えている。しかも、このままいけば、6時間…………。


「私ほどではないにしろ、可能性は大いに感じる。これは、また新しい時代の風が吹きそうですね」


 この訓練の本当の目的は、アルカの実力を確認。次に行う訓練についてけるのかのテストも兼ねている。


 これなら、問題なさそうです。


「そこまでにしましょう」


「へぇ?や、やっとおわり?」


 足を止めるアルカちゃんの傍に近寄り。


「では、次の訓練です」


「も、もう!?」


「はい。次の訓練は、私の一撃を防ぐことです。簡単でしょ?」


 私は見た。剣聖ジルの目が笑っていないところを…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る