第21話 エイジの目的

 復讐は肯定する。だって、人に廃棄類理由が必要だから。じゃないと、きっと正気を保てないと思うから。


「…………アルカ、また一段と強くなってたな」


 雲一つのない夜空を眺めながら、呟いた。


 アルカは間違いなく、昨日よりも今日のほうが強くなっている。その成長スピードは飛躍という言葉では収まらない。


 このままいけば、英雄たちと戦えるレベルまでには力をつけられるだろう。


 問題は時間だ。あまりにも、時間が足りない。


「外で何をしているの?エイジ」


「なんだ、クロか、おまえこそ、何しに来たんだよ」


「ちょうど、エイジが見えたから」


「ふぅ~~ん。まぁクロが何を企んでいようが俺には関係ないが」


「なによそれ、まるで私が何か企んでいるような口ぶりは!」


「実際に考えてるだろ。アルカを鍛えているのだって、先を見据えてなんだろ」


「…………まぁ、そうだけど」


「クロはこの戦いの後、自分は生きてると思うか?」


「そうね、生きていれば最善ね。生きていて、損はないし、特に私ぐらいの立場なるとだけど」


 まるで、死ぬことは怖くないと言っているような口ぶりで語るクロを見て、ほっとする俺は、自然と笑みがこぼれる。


「えぇ…………なにその笑み、気持ち悪いよ」


「うっ、うるさいな。俺だって笑うわ!」


「…………なによ、エイジ。まさかだと思うけど、死ぬなの?」


 躊躇いなく、口にしたクロ。その場の空気は一瞬、固まるが、すぐに俺がしゃべりだした。


「まぁ、覚悟はしているかな。この戦い、虐殺王バルシャとの戦いだけじゃ、すまない気がしてさ」


「…………はぁ、やっぱり、エイジはいつも言葉が足りない。エイジが作戦を提示した時だって、大事なことは控えてたよね?例えば、アルカの秘密とか、エイジが何をしたいのか。たしかに、アルカと戦ってみて、勝てる可能性は十分に見いだせた。アルカの信念だっえ、十分に伝わってきた。でも、エイジ、あなたから何も感じられない。エイジは一体、この戦いで何を見出したいの?」


 クロ=アーデ5世はずっと疑問に思っていた。エイジは一体、何を企んでいるのか。この戦いに何を見出そうとしているのか。


 エイジはずっと、虚空の彼方を見つめながら、しゃべっていた。でも、今はしっかりと目を見てしゃべっている。


 それは、やるべきことを見出したから。でも、そのやるべきことが見えてこない。


 エイジは一体、何がしたいのか、わからない。


「…………価値だよ。今まで歩んできた人生、その意味を見出すために、そして、師匠が残したものが正しかったと証明するために…………そして、師匠を殺した彼女を殺すために…………俺はやっと、その目途めどがたった」


 エイジの瞳は真っ直ぐだった、今までにない以上に真っ直ぐで、迷いがなかった。


「そう、なら私はそう応援をするほかないな。…………ってことは、彼女もこの都市に?」


「…………可能性の話だ。数日前に、その情報が来たからな」


「アルカのことはどうするの?あなたが死んだら、あの子、きっと前に進めなくなるよ」


 私にはわかる。今のアルカには必ずエイジがいる。


 右も左もわからない子供が母親を見つけて、ついていくように、アルカもまたエイジという後ろを姿を追いかけている。


 そこに目的があるないは関係ない。迷わないための指標、アルカはそれがエイジだ。


 だから、もしエイジがいなくなれば、目的があっても、前に進めない。


「大丈夫だ。だって、そういうときのために、クロがいるだろ?」


 微笑みながら、私の名前を口にするエイジ。私はあきれて頭を抱えた。


「馬鹿じゃないの。私がもし死んだら、どうするのよ。それにアルカが私の言葉を信じるかなんて…………」


「信じるさ、きっとな」


「なぁ…………きっとって、曖昧な」


「いくら、復讐に身を焦がそうと、協力者は必要だ。特にその相手が英雄ならば…………遅かれ早かれの問題さ。俺はもうそう長くない」


 悲しそうに告げるエイジ。


「あーーーーーーもう!!こんな暗い話はやめだよやめ!!私、もう寝るからっ!!」


「おやすみ、クロ」


「ええ、おやすみなさい、エイジ」


 残り時間は3日。調子を整える時間も考えると、あと2日ってところだ。その時間でどこまでアルカを仕上げられるか、それがこの戦いの勝利のカギになる。


「今日はなんだか、俺らしくないな…………」



 こうして、1日が過ぎていき、訓練5日目を迎えた朝、アルカは外でストレッチをしていた。


「ふぅ…………だいぶ、柔らかくなりました」


 思い出すな~~師匠とやった柔軟体操。体が硬かったからか、中々できなくて、最終的には関節を一度外してたっけ。


「あれは痛かったなぁ…………」


 結局、数時間しか寝れなかったけど、自然と体が軽く、絶好調。昔の記憶に浸りながら、ストレッチを順調にこなしていると、クロ=アーデ5世が姿を見せた。


「どうやら、絶好調みたいね」


「あ、教皇様!?」


「あ、続けてくれていいよ。今日の予定を伝えに来ただけだから」


「そ、そうですか…………」


「それと、普通にクロでいいよ。正直、様って言われるの苦手でさ。それにアルカはエイジの関係者。気軽でいてほしいんだ」


 どこか、気まずさを感じながら、その言葉が本心であることがわかる。


「わ、わかりました、クロちゃん!!」


「まさか、ちゃん付け!?なんか、新鮮だな…………って、おっと目的を忘れていた。今日の予定だけど、戦いも近いし、少し外に出ようと思ってね。というわけで、お昼ごろに都市の入り口集合ね、わかった?」


「あ、はい!わかりました!!」


「それじゃあ、またあとでね」


 どうやら、また外に出るらしい。


「それにしても、お昼ごろか…………いったい何をするんだろう」

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