第19話 神器開放・神装開放

 私は、今、水上都市『モルディカ』の地下室にいる。


「すごい…………」


「そうでしょう。ここは、もともと私の民たちが訓練用に作った地下訓練場であり、地下シェルター。ここならめったなことでもない限り、壊れることはない。さぁ、アルカ、さっそく訓練を始めようか」


「あ、はい!!」


 残りの期間を、私は、教皇様と訓練をすることになった。


「それじゃあ、早速だけど、まずは一勝負いきましょう。ルールはなにをしてもいい。相手に参ったっと言わせたほうが勝ちね」


「わかりました」


「私、手加減しないから」


「そのほうがありがたいです!!」


 このわくわく感、たまらない。


 目の前にいるのは間違いなく強敵。武器は細長い槍、構えも隙のない完璧な構え方。


 それに、この重いプレッシャー。体を動かすだけでも、体力を持っていかれるような感覚が全身にほとばしる。


 相手にとって不足無し。


「【オール・コンデション・オーバー】」


「へぇ、まずは、様子見ってところかな?なら……………?」


「え?」


 一瞬で背後を取られるアルカ。


 強化魔法で全体のパワーを底上げしたのに、反応するのがやっとだった。


「なんで、攻撃しないのですか?」


「だって、そうしたら終わっちゃうから」


「…………なるほど」


 完全になめられた。あの瞬間、確実に教皇様は私をしとめることができた。でも、そうしなかった。


「その油断、後悔しますよ?」


「そうなるといいね」


 やっぱり、長期戦は避けたほうがいい。それに近接戦もダメだ。あのスピードで背後を取られたら、今後こそ、終わり。なら、超越魔法しかない。


「【グラビティ・ホール・ダウン】!!」


「!?」


 私を中心に訓練場全体の重力を底上げし、教皇様の動きを鈍らせる。


「さらに【ビープル・チェーン】!」


 疑似チェーンを生成し、教皇様の手足を拘束。これで、少しでも時間を稼ぐ。そしてその間に、超越魔法の準備に…………。


「なるほどね、いい組み合わせだ。魔力操作も私たちと遜色そんしょくがない。私以外の人なら絶対にほどけないねっ!!」


「なぁ!?」


 力だけで、私のチェーンを破壊した。それがどれだけすごいことか、私だからこそわかる。


 私が【ビープル・チェーン】を愛用しているのは、魔力に応じて強度が上がるからだ。魔力量には絶対の自信があるから、そう簡単には壊せない、それがたとえ、英雄だったとしても…………。


「それに、この程度の重力じゃ、私のスピードがほんの少し遅くなるだけだよ」


 再び背後を簡単にとられるアルカ。


「…………それ十分です」


 すると、アルカの足元が赤く光り、拘束魔法【ビープル・チェーン】が発動する。


「これは、設置魔法!?」


 設置魔法は実用性が低く、使われることが少ない魔法だ。


 そんな魔法を私の動きを予測して、設置したアルカ、拘束魔法【ビープル・チェーン】は一瞬のうちに対象を縛り上げ、拘束する。


「この程度………」


 この拘束を解くのに、2秒とかからない、でも、アルカに2秒の時間を与えるのは、自殺行為だ。


「これで決めます」


 わずか2秒、その間にアルカは杖を教皇クロ=アーデ5世に向ける。そして、杖先から雷が収束し、膨大なエネルギーの塊が誕生する。


 その密度は計り知れず、クロ=アーデ5世は直感的に逃げなければと脳内に信号が送られる。


「私はただこの本能に任せるのみ【ザ・デイン・アルク】」


 魔法詠唱を終えた瞬間、高密度なエネルギーの塊がクロ=アーデ5世を捉え、放たれた。


「……………………やるね」


 響き渡る衝撃音。強い衝撃がこの場を大きく揺らし、たち煙が上がる。


 勝ったとは、確信はできない。ただ、確実に直撃はした。ただでは済まないことだけはわかる。


「……………………え?」


 思わず声が漏れた。


 視界を遮る煙が引いていくと、黒い人影がうっすらと姿を見せ、その正体はすぐにわかる。


「すごい、まさか、超越魔法を事前に準備しておくなんて、ここまでの展開は大方、アルカの予想通りだったってことかな?」


 無傷の可憐な姿、傷一つ見られないその状況に愕然とする。


「けど、それでもまだ私には届かないかな。まぁ、私に神器を使わせたことだけは褒めてあげるけど」


 よく見ると、右手に全長2メートルもある槍を持っていた。それは、水を纏い、異質な何かを発していた。


「さぁ、次は私の番だよ。ここまで本気なアルカに英雄と戦うことがどれだけ危険か教えてあげる……………………これが、教皇クロ=アーデ5世である」


 その一言ともに、強大な光がその場を包み込んだ。遮られる視界、何もかもが光となって返り、その先には、美しい存在がそこに立っていた。


「これが、【神装開放】。さぁ、ここからは殺す気でいかないと、戦いにすらならないよ」


「……………………き、きれい」


 その場にはただ美しい存在がいた。そして、決して、敵わない高みの存在であることも、本能的にわかってしまう。


 あれは、もはや人ではない。人の形をした何か、もはや神だと言われれば、納得してしまう。


「私は、こんな化け物と戦わないといけなんですね」


「怖気ついた?」


「いえ、むしろ、煮えたぎってきます!」


 獣のような笑顔を見せるアルカを見て、この子は間違いなく狂ってしまった側だと、確信する。


 決して、戻れない日常。彼女はとっくに普通を捨てている。すべてをささげて、何かをなす。アルカ=アルフィートは間違いなく、英雄に近い思考を持ち合わせている。


「エイジのやつ、よくもまぁ、こんな子を見つけてくるよね」


 けど、現実は見ないといけない。戦う敵に強さ、その理不尽さを。


「一発で終わらせる、【神器開放】」


 その言葉を発した時、槍先を中心に魔方陣が描かれる。


「なに、あれ……………………」


 高密度な魔力が魔方陣を基盤に集まっている。その密度はほかの魔法とは比べ物にならない。


 あれは、受けじゃだめだ。


「ここに無慈悲な竜の咆哮がすべてを無に帰す【海竜の咆哮バースト】!!!」


 魔力の塊がアルカを捉え、竜の形となって、放たれた。


 周囲を食らいつくすように迫り、逃げ場はない。


「受け止めてみせるっ!」


 私の見解ではあれは魔法じゃない。魔法に似た何か、神がもたらす無慈悲な制裁って表現が正しいかもしれない。


 ただ、あの魔方陣を見て一つ、分かったことがある。


 もう一度言う、あれは魔法じゃない。でも、魔法に似た部分も存在した。


「魔法は神がもたらした奇跡。ならその奇跡を書き換える!!」


 私の体は無慈悲な一撃に飲み込まれた。

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