第18話 英雄王
この世界の英雄はかなり大雑把な認識をされている。
ある者は世界を救った者たちと謳い。
ある者は残虐非道の悪者たちと謳い。
ある者は世界に裏切られた悲しい戦士たちと謳った。
「現状を聞こうじゃないか、バルシャ」
とある場所、そこは世界から見放された大地であり、決して、人では通れぬ魔境。
その魔境にぽつっと聳え立つ塔の頂上に円状の机が置かれ、席が12席設けられている。
そして、その席には数字が割り当てられていた。そんな中、一人、1と書かれている席に
「何を聞くのですが?現状といっても、すでにすべて報告したはずですよ?」
4と書かれた席に座る虐殺王バルシャが質問に対して質問で返した。
「………隠しても無駄だ。私はすべてを把握している」
金色の瞳がバルシャを覗き込む。
「やれやれ、まったく、わかっているのなら、聞かなくていいでしょうに」
「報告というのは本人から聞いたほうが信憑性がある。何より、私は噓をつく者はたとえ、英雄であろうと許さない」
「ふぅん。そうですね、まず水上都市『モルディカ』に新藤エイジがいることが判明しました。しかし、戦いにおいて、我々12英傑の勝利は揺るぎません。問題は新藤エイジが連れている小娘です」
バルシャは真剣な表情で語った。
「あの小娘の魔力を確認したところ、測定不能と結果が出ました。これは、一大事だと把握し、少し作戦に変更を加え、対処することにしました。これが、追加報告ですね。これ以上、報告することはありません」
「そうか、なるほど。エイジく…………エイジも考えたな」
「何か、思いついたことでも?」
「……………………そうだな。一つ質問しよう。エイジに何か変化はあったか?」
「新藤エイジに……ですか?……………………とくにはなかったかと、強いていうのなら、少し覇気がなくなってたというか、きっと平和ボケでしょう」
「だといいけど…………」
「何か気になる点でも?」
「いえ、バルシャには関係のないことです。わざわざ来てくれてありがとう、持ち場に帰って構いませんよ」
「本当にここまで戻るのに時間がかかるんですよ?それでは、俺も戦いを控えているのでね」
そう言い残して、バルシャは塔から
「今回の戦い、バルシャは勝てると思いますか?」
「…………聞いていたのか?ガーフィールド」
「ええ、情報を集めるのが私の責務。そして、勝敗を見極めるのも私の責務」
物陰から現れる黒一色で包まれた12英傑の一人、『
「それで、返答は?」
「……………………そうね、3割ってところ」
「3割ですか、それは低いですねぇ」
「エイジという強敵に加え、あの都市には教皇もいる。さらにバルシャが警戒するほどのイレギュラーの存在。聞いた感じたとそんぐらい……………でも実際に戦ってみないと勝敗はわからない。だから、信じて待つしかない」
「ふん………………さすが、12英傑を束ねる英雄王ですね。素晴らしい洞察力、感服いたします」
「戯言はいい。それより、ちょうどよかったよガーフィールド。君に一つ頼みたいことがあったのだけど、暇かな?」
「ええ、暇ですとも」
そして、英雄王はガーフィールドにあることを頼むと、突然、高らかに笑い出した。
「なるほど、それは面白そうですね。ええーー面白そうですねぇ!!」
「うるさいぞ、ガーフィールド」
「おっと、つい心が高ぶってしまいました。しかし、なかなか、面白いことをしますね」
「最後ぐらいね」
「最後ですが……たしかに、最後ぐらいはいいかもしれませんね」
星すら輝けない真っ暗な空に、ガーフィールドはただ悲しげに眺めた。
「それでは、私も失礼いたしましょう。まだお仕事が残っているのでね」
そう言い残して、闇と同化するように姿を消した。
「……英雄という生き物は本当に不便なものね」
英雄王はゆっくりと席から立ち上がり、魔境の地一帯を眺める。
枯れ果てた木々、突然変異した動物達、この地に生きた生物はもはや生きることすらできない環境となり果てた。そんな地にこうして、拠点を築き、かつては守るべきだった存在だった人々に悪意を向けている英雄たち。
「一体、どちらが滑稽か、言うまでもない…………」
悲しみと後悔、そして恨みがこもった一言が口から漏れた。
ただ私たちは進み続ける。それがたとえ、間違いであったとしても。
それが、私たちが導き出した選択であり、効率的な復讐方法なのだから。
「エイジくん…………なぜ、そんな愚かな選択をしたの?」
後悔の念だけが、英雄王の心を迷わせ、選択に揺らぎを生み出す。
だから。
「そろそろ、決別のときだよ…………」
決心する。覚悟する。訪れる終わりを。
英雄王は玉座にて、ただ時を待つのみである。
「終わりの音が鳴り響き、世界の均衡が崩れ、新しき時代の幕を上げる。それが世界の循環であり、自然の摂理。このガーフィールド、必ずや見届けましょう!!最高にして、災厄のレクイエムを!!!」
きれいな夜空を眺めながら、酔いしれるように彼は謳った。
すべての物語は神の手のひらで踊り続ける。
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