第17話 教皇様の呼び出し
私は驚き隠せなかった。心の中では常に平常心を保つことを意識していたけど、それ以上に自分の成長に驚いた。
魔法は強化魔法のみ、アリスさんは手加減をしている。その条件があったとはいえ、動体視力や体の軽さ、すべてが飛躍的に成長した。
魔力量は変わっていないけど、魔力操作はより繊細に操作できるようになっていた。
私はこの二日間で、圧倒的に強くなった。そう自信を持って言える。
「ありがとうございました、アリスさん」
「いえいえ、私もアルカの成長速度にびっくりしましたよ。特に確実に隙をついたと思った瞬間の一撃をまさか、縮地でよけられるとは……」
「……………しゅくち?なんですか、それ?」
「へぇ?」
真剣な表情で頭をかしげるアルカにアリスはどう反応したらいいか、困ってしまう。
「まさか、え……………そうか、これが天才という生き物か」
「あ、アリスさん!?ど、どうしたんですか!」
隅でうずくまるアリスは人差し指でぐるぐると地面に円を描いた。
「お、思った通り、早めに終わったな」
「え、エイジさん!?」
現在、夕日ごろの時間帯にエイジさんが顔を出した。
その時、すぐにアルカがエイジの元まで歩み寄り、ウキウキな表情を見せる。
「エイジさん!思った通りってどういうことですか?」
「うん?ああ、アルカの吸収力なら、すぐ終わるかなって、なぁ、アリス」
「うぅ……痛いところをついてきますね」
「その反応、一杯くわされたな」
「グサッ!?今、心に槍が刺さりました」
「大げさだな」
冗談気に高らかに笑うエイジさんの顔を見て、アルカは不思議と疑問に思う。
「もしかして、お二人ともお知り合いでした?」
「まぁなってそうだ。アルカに合わせたい相手がいるんだった。訓練3日目はここで終了。一旦、水上都市『モルディカ』に戻るぞ」
「わ、わかりました」
なぜだろう、エイジさんが話をそらしたような気がする。でも、まぁいいか、今は1週間後の戦いに集中しないと。
こうして、私たちは、水上都市『モルディカ』に戻った。
「ここって入っていい場所なんですか、エイジさん?」
「ああ、許可はもらっているからな」
今までの建物とは違った装飾の数々、都市の中央に聳え立つ塔の中に私たちはいる。
しばらく、進んでいき、エレベーターの中へと入る。
「す、すごい。何もしてないのに、上に上がっていく。一体、どういう原理で……」
ぶつぶつとしゃべっている中、音と共にエレベーターが止まる。
「アルカ、いくぞ」
「あっはい!!」
全てが青色で包まれた空間、まるで水の中にいるみたいなそんな錯覚が起きる。
「お待ちしておりました。エイジ様、アルカ様、教皇様がお待ちです」
「きょ、教皇様!?」
私は驚きを隠せない中、門番みたいな人が目の前の扉をゆっくりと開ける。
その先には、凛々しく佇まう女性の姿があった。
「初めまして、アルカさん。私はクロ=アーデ5世、教皇です」
「……………………え、エイジさん、教皇様ですよ!!」
「その顔をやめろ。反吐が出る」
「エイジさん!?」
「ひどいな~~長い付き合いでしょ、エイジ」
「なんか、よくわかりませんけど、いろいろ聞きたいことがあるんですけど、エイジさん」
「そうだな、とりあえず、クロ」
「はいはい」
クロが手を挙げると、天井から突然、机と椅子が落ちてきた。
「さぁ、お二人とも座ってください」
こうして、俺とアルカは隣で座り、クロは向かい合うように座った。
「それでは、まずアルカさん、訓練は順調ですか?」
「あ、それはまぁ、順調ですね、あははは」
「そうですか、それならよかった」
「建前はいい、さっそく本題に入れ、クロ」
その言葉にクロは目を見開いた。
「そうだね。じゃあ、さっそく本題に入ろかな、アルカ=アルフィート」
「は、はい!!」
さっきまでの雰囲気がガラッと変わり、緊張感がほとばしる。教皇様から感じる威圧感と重み、その場には紛れもない王がいた。
「4日後の戦いにおいて、鍵はあなたになるでしょう。そのため、私が残り4日間、みっちり鍛えることにしました」
「……………………きょ、教皇様が!?」
「はい、アリスから聞きました。教えたいことをすぐに吸収するその能力、実に感服したと、それほどの吸収力があるのなら、この4日間で、あなたはさらに強くなれる。下手をすれば私以上に、今回はその話をしに呼びました」
「アルカ、一応断ることもできる。クロの訓練は他のとは比べ物にならない程に厳しい。下手をすれば、死ぬことだって……………………」
「そ、それは、いいですね!!ぜひに!!」
アルカは俺の言葉を遮って答えた。
どうやら、心配する必要はないようだっと思う微笑むエイジ。
「それでは、明日から本格的に始めます。それでいいですね、エイジ」
「ああ、構わない」
こうして、あっさりと話し合いが終わり、久しぶりに部屋に戻るアルカ。
「なんか、あっさり終わったな」
教皇様と訓練。きっと、英雄が攻めてくる展開にならなければ、経験できなかった。
「感謝しないとね」
でも、教皇様のあの一言が気になる。
『4日後の戦いにおいて、鍵はあなたになるでしょう』
戦いのカギは私?でも、教皇様だってエイジさんだっている。私は足手まといなはずなのに。
「なんか、嫌な予感がするな…………」
そのまま、今日は久しぶりにおいしいご飯を食べて部屋に戻る。訓練の三日間は非常食をぼりぼり食いながら、やっていたから、ちゃんと味がする料理を食べて感動した。
多分、これほどご飯がおいしいと感じることはないと思う。
「お、美味しかったって食べすぎたな」
ポコッと出るお腹。まるで妊娠しているみたいだ。
「結婚したら、私もこんなおなかになるのかな?って何考えているの!?わたしぃぃぃぃ!!」
顔を赤らめながら、悶えるアルカはベットにジャンプして、顔を深く埋める。
「…………はぁーーなんか、夢見てるみたいで、気持ち悪いな」
何とも言えない感情。復讐という黒く燃え滾る炎と恋という赤く燃える炎、二つが交わり、ぐちゃぐちゃになっていく感覚。
「……………………どうしたらいいのかな」
一瞬の気の迷い、復讐なんて本当はだめだと心の隅では思っているのに、目をつぶれば、何度でも思い出せる、あの光景。
その度に、復讐の黒い炎が燃え滾り、私の身を焦がす。
「私は決めたんだ、復讐するって、だからもう戻れない。もう幸せなんてつかめない」
復讐はいけないこと。私はそう考える人間だ。だから、私は復讐を終えた先、そのはるか未来で私どうなっているかわからない。
けど、きっとろくな人生は送れない。
「悔いがないように、戦う。そのためにも、明日に備えて今日は寝よう」
未来なんて期待しない。私はただ、復讐に身を置いて、英雄たちと戦うだけ。それが、私はアルカ=アルフィートの人生なんだ。
だから、この恋も復讐の間だけは許してほしい。きっと、この恋が最初で最後だから。
そして次の日、私はクロ=アーデ5世のもとへと向かった。
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