第16話 【訓練3日目】飛躍するアルカ

 3日目の朝、アリスさんの鞭で起こされた私が受けた訓練それは、瞑想だった。


「いいか、剣術において、見てからよけるのは遅すぎる。とくに英雄の剣術は目に留まらぬ速さ、見た瞬間には切られている。だからこそ、反射的に捉え、よけることが必要になってくる」


 瞑想は心を落ち着かせる行為らしいが、正直、こうして落ち着く時間、すごく体がむずむずする。


「アルカ!動くな!!」


「いたぁ!?」


 後ろから鞭で叩かれるアルカ。


「瞑想中は決して、体を動かすな。余計ないことを考えず、頭の中を空っぽにするんだ」


 この瞑想の目的はどこまで自分自身を落とし込めるかを確認すること。戦いにおいて、集中力は必要不可欠。


 集中力がなければ、長期戦では確実に不利になる。そこで、まず、アルカの集中力の確認なんだが……………。


「想像以上だ」


 最初はちょくちょく動きを見せていたが、少し注意するだけで、一気に集中力が増している。これなら、すぐにゾーンに入るだろう。


 ゾーンは簡単に言うと没頭状態のこと。その状態には入れれば、どんな攻撃もすぐによけられるようになる。


「少し試してみようかな」


 アリスは鞭を振り下ろし、殺気を込めて、思いっきり、振り下ろす。


 すると、アルカは瞬時に右によけた。


「…………え、今、私………」


 アルカは何が起こったのか、理解できずに、慌てているが、それ以上にアリス自身が驚いていた。


 すでに、彼女はゾーンに入っていた。普通の騎士、剣士がゾーンを習得するのに、1年以上はかかる。


 習得したかはわからないけど、アルカさんは確実にゾーンに入っていたことは明白。


「瞑想はここまでです。午後に入るまで休憩とします」


「は、はい…………」


 現在時刻、日の方向を見る限り、11時ぐらいだろうか。


「午後まで2時間ぐらいあるな……………」


 おなかも特にすいてないし、どうしようかな。


 この1日半、とても長くもあり、短く感じながらも、飛躍的に成長しているように感じる。


 瞑想したあとだからか、音を敏感に感じるし、手の感覚も繊細になっている。それに、魔力がより細かく感じられる。


 これなら、より精密に魔力を操作できるかもしれない。


 魔法使いの強さは魔力をどれだけ精密に制御できるかで決まる。そう師匠は言った。


 たしかに、魔力量で魔法の使える幅が変わるけど、それ以上に魔力を操作できないと、魔法使いとは呼べない。


「今すぐ試したい」


 今、魔法を使うことを禁止されているけど、もし今、魔法を使ったら。


「楽しみだな……………」


 そのまま時間が過ぎていき、気づけば、午後を迎えていた。


「ゆっくり、休めたかな?」


「はい、それはもう!」


「そうか、では最後の訓練に入る。正直、私はここまで飛躍的な成長を目の当たりにして、驚きを感じ得ざるなかった。それほどに、アルカの成長スピードはめのはるものだった。そこでだ、最後に私と戦ってもらう」


「アリスさんとですか?」


「そうだ。勝負方法は真剣による真剣勝負。魔法は強化魔法のみ許可する。私に一撃を与えられたら、アルカの勝ち。アルカは、私に10撃与えられたら、私の勝ち。簡単でしょ?」


「なるほど、ルールはわかりました。でしたら、今すぐやりましょう!!」


「あ、ああ」


 なんだろう。この自信のある瞳は、まるで勝てると確信しているような。いや、魔法は強化魔法のみ。強化魔法は誰でも使える応用魔法の一種で脅威になる魔法ではない。


「それじゃあ、始めようか」


「いつでも、どうぞ」


 お互いに同じ剣を構え、対面する。構え方は基礎に忠実で隙はない。傍から見れば、3流剣士ぐらいには見えるだろう。


「では、はじめっ!!」


 アリスが声を掛けた瞬間、アルカは詠唱を始めた。


「【パーフェクト・ボディ】」


「強化魔法は一つだけ十分なんですか?」


「はい、そもそも自身に魔法かけすぎるのはよくないと師匠に言われていますから、もし、多重に魔法をかけるなら、だけにしておけと、ね」


「なるほど、なめられていますね」


 足を蹴り上げ、アリスはアルカに向かって、突進する。ウサギのように一瞬で間合いを詰めるアリスは途中で空気を蹴り上げる。


「遅いですね」


 気づけば、アルカの背後をとり、そのまま剣を振り下ろすが、金属音の音ともに、剣がはじかる。


「か、かたい!?」


「私、こう見えても、魔力量には自信がありますから」


 【パーフェクト・ボディ】、魔力量に応じて、強度を上げる強化魔法。普通の魔法が使えば、体を少し頑丈にする程度なのだが、今回、アルカの強度は鉄よりはるかに硬くなっている。


 なぜなら、今回の訓練では、魔法がつけない。なら、わざわざ魔力を温存する必要などない。


 だったら、相手の刃が通らないほどに体を強化してしまえばいい。


 私は、【パーフェクト・ボディ】を使い、魔力がある限りのすべてを注いだ。結果として、体が鉄よりはるかに硬くなったのだ。


「その姿勢では、直すのに数秒かかるでしょう?」


 アルカの攻撃がくる。反応速度が速いアルカは一瞬で、アリスを正面にとらえ、剣を振り上げる。ここまで、約1秒も経っていない。


「これで、私の勝ちです」


 アルカ=アルフィート、彼女は間違いなく、実力のある魔法使いだ。ルールの穴を理解し、そこに全力で魔法を使い、有利の場へと置き換えた。


 技術力の吸収力も素晴らしく、本来、長い年月をかけて習得するべき技を2日間で習得している。


 ここまで、アルカに勝てているのは、剣術の腕と経験だけ。正直、羨ましいと本気で思ってしまう。


 でも、よかったと思った部分もある。それは、アルカ=アルフィートはまだ戦場を経験していないことだ。


 だから、こそ、勝ったと思った瞬間の、アルカの隙を見逃さずにいられた。


「一騎当千・乱れ斬り!」


 私はどんな態勢でも剣術を放つことができるように訓練されている。


 左右上下から無数の斬撃が飛び交う。アルカに逃げ場はなく、振り上げられている剣を止めることができず、よけることはほぼ不可能。


 なのに、アルカは口角を上げ、アリスを見て、笑った。


「やっぱり、そう来ましたか……」


 その瞬間、アルカは何もない足場で蹴り上げて、後ろへと後退する。


「縮地!?」


 私がまだ教えていない、技術『縮地』。空気を蹴り上げることができる剣士としての技の一つ。


「これで終わりです」


 そのまま、斬撃をよけたアルカはアリスの目の前まで縮地を使い、間合いを詰め、そのまま強烈な一撃をアリスの与えた。


 この間の時間はわずか、数分しか経っていない。


 これが、アルカ=アルフィート。彼女ならもしかしたら。


「素晴らしい一撃でしたよ、アルカ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る