第13話 復讐に燃えるアルカ

 クロ=アーデ5世は都市に愛され、民に愛される王である。ただ、その愛され方が、異常だった。


 エイジにアルカという魔法使いを話し出したとき、面白い反応をした。いや、あまりにも意外な反応だった。


 まるで、あの人と同じ…………。


「聞かせてもらいすね」


「……ここ最近、侵入者が多いみたいだな」


 俺が、侵入者という言葉を口にしたとき、クロが驚くように目を見開いた。


「なぜ、エイジが知っているの」


「なんでだろうな」


「茶化さないで、その情報は極秘情報として処理している情報。漏れるはずがない」


「そんなことはどうでもいい。俺が知りたいのはその侵入者の正体だ。まぁ大体は予想がついているが……………どうせ、とっくに調べがついているんだろ?」


「…………ええ、それより、どこでそのじょうほーーーー」


 クロは見た。エイジの瞳を、そこにいるのは殺意に満ちた復讐者。そんな、圧にやれるクロは冷や汗を垂らした。


「変わりませんね、エイジ。……………わかりました、言及するのはやめます。エイジが予想している通りだと思いますが、侵入者は英雄たちの手先でした」


「やっぱりそうか………」


 やはり、英雄どもは次にここ、水上都市『モルディカ』を狙っている。侵入者を送り込んだのは、少しでも情報を手に入れるためだろう。


「エイジ、よく聞いてほしいのですが、この都市は現在、あなたが思っているよりも、かなり危険な状態です」


 クロが真剣な表情で口にした。


「どういうことだ?」


「すでに、この都市はとある英雄に宣戦布告を受けているからです」


「なぁ!?それは、本当なのか!!」


「はい。そして、その英雄の名は……………12英傑の一人、『虐殺王バルシャ』。12英傑の中でもっとも戦いに優れた英雄」


「よりにもよって、パルシャか。宣戦布告を受けたってことは、戦いが始まる時期も」


「ええ、1週間後です」


「……………なるほどな」


「エイジ?」


 なんて、運がいいんだろう。自然で気分が高揚する感覚が全身に渡って伝わってくる。


「すでに、対策はしているんだろうな、クロ」


「当たり前です。しかし、それでも犠牲者をゼロにはできないでしょう」


 道理で交通に制限をかけていたわけだ。


 つまり、この戦いは都市が滅ぶか、パルシャが死ぬか。


「ふん、神は俺を味方してくれているみたいだな」


「なにか、策があるのですか?私の見立てでは、勝敗はややこちらが不利。たとえ、私が本気を出したとしても、パルシャに勝てるかどうか………」


「俺に任せておけ、俺が必ず、勝たせてやる」


「作戦を聞かせてもらっても?」


「言っておくが、犠牲者ゼロは無理だ。それを頭に入れて、聞いてくれ」


「ええ……………」



 その頃、アルカは……………。


「いないんですけど」


 勇気を振り絞って、エイジさんの部屋に行くと、扉が開いており、入ったら、誰もいない。


「てか、私ってもしかして、結構、思いついたら即行動してしまうのかも」


 気づけば、エイジさんの部屋の前。そして瞬きした瞬間には、部屋の中にいた。


「まぁ、でもこんな失態をエイジさんに見られなくて、逆に良かったかも。うん!そうだよ!!こんなところ見られたら、不審者もしくは変態さんだもんね」


 すると、ガチャっと扉の開いた音が聞こえた。


「なにしているんだよ」


「あ……え、エイジさん!?」


「はぁ~~とりあえず、座ったら?」


「はぁ、はい」


 まさか、最悪なタイミングでエイジさんが帰ってくるなんて、変な子だって、思われてないよね?


 そんなネガティブな思考が私の脳内にかきめぐらされ、頭を抱える。


「……………変な奴」


 深呼吸をして、心を落ち着かせていると。


「ほら、アルカ、ミルクコーヒー」


「あ、ありがとうございます………あったかい」


 ミルクコーヒー、聞いたことのない飲み物だけど、おいしいのかな。


「呼ぼうと思っていたから、ちょうどよかったよ」


「呼ぼうと?」


「ああ、アルカにとって、最高の情報が届いた。1週間後、12英傑の一人がこの水上都市『モディカ』に戦いを仕掛けに来る」


「……………それは、?」


 きれいな瞳が、漆黒に染まる。ただ漏れる殺気、その重圧は、怒り、執念、憎悪のようなものを帯びていた。


「ああ、名前は虐殺王バルシャ。戦いにおいて最も優れた英雄だ。そして、アルカにはその戦いに参加してもらう」


「い、いいんですか?こんな足手まといが……」


「ああ、ただし、戦うのはアルカと、教皇クロ=アーデ5世のみ。それ以外の民を含む、全員はシェルターへ避難する」


「え、エイジさんはどうするんですか?」


「俺は、シェルター避難の手助けだ。終わり次第、戦いに参加する」


「そ、そうですか……これは、楽しみになってきましたね」


 やる気に満ちた表情。アルカに恐怖という漢字二文字はないようだ。


「楽しみか……そうだな、楽しみだ」


 この1週間、アルカは俺が鍛える。英雄に関する知識や対処の仕方、そのすべてを叩き込む。


「それじゃあ、明日から訓練を始めるぞ、アルカ。覚悟はいいな?」


「はい!覚悟ならもうできてます!!………え、エイジさんが私に訓練を!?」


 さぁ、英雄殺しの準備を始めようか。



「まさか、エイジが私に作戦を持ち込むなんて、驚いちゃったな」


 教皇の間、彼女だけが入れる神聖の領域。ここで、彼女は祈りをささげ、はるか彼方にいる空白の神に願いを届ける。


 それが、教皇において、一番大事な役割。


「この戦いでまたたくさんの民が死ぬでしょう。民は私の声に耳を傾けても、従うとは限らない。彼らは都市の奴隷のような存在だから」


 祈りをささげる彼女は、涙を流し、願いをこう。


「どうか、民の命だけはお守りください。私はどうなっても構いませんから」


 教皇の代わりなんていくらでもいる。私が死んだら、次の教皇を選出すればいい。


「虐殺王バルシャ、あなたは必ず、民のため命に代えても、殺します」


 願いと執念、その思いを神に祈り、捧げ続ける。


「教皇様、そろそろ……………」


「わかりました」


 あの英雄を殺すには、どうしてもアルカという魔法使いの力が必要になってくる。エイジは1週間で仕上げると言っていたけど。


「…………少し心配だな」


「教皇様?」


「うん?あ、なんでもないよ」


 今回の戦い、エイジに期待はできないし、少しだけ見に行ってみようかな。


 自然と口角が上がるクロ=アーデ。久しぶりにワクワクする気持ちを抱いた。


 

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