第12話 教皇クロ=アーデ5世
エイジさんはすぐに綺麗なお姉さんがいるところで受付を済ませて、鍵をもらう。
「アルカの部屋のカギだ。ここに番号が書いてあるから、その部屋で今日は休むんだぞ」
「わ、わかりましたってエイジさんと同じ部屋じゃないんですか?」
「部屋は別々に頼んでおいたからな」
「そ、そうですか……」
私としては同じ部屋でよかったのですが、きっとエイジさんが配慮をしてくれたんだ。そんな優しいところも好きです。
「それじゃあ、ここで解散だ。言っておくが一人で外に出歩くなよ」
「何でですが?」
「ここは夜になると警備体制が厳重になるんだ。下手なことをすれば、即牢獄行き。たとえそれが、些細なことでもだ。間違いだったら、出してくれるが、それでも最低3日間は牢獄生活になると思ったほうがいい」
「りょ、了解です!!」
あんなに賑やかで楽しそうさな雰囲気だったのに、夜はそんなに厳しいんだ。なんか、変なの。
こうして、私とエイジさんはそこで別れて、部屋に向かった。夜ご飯は時間になれば運ばれれてくるとのことだったので、ここからの夜はとても暇だ。
「綺麗なお部屋だ~~~!」
部屋の中は見たことのない素材で満ち溢れていた。布団や机、椅子、キッチンも見たことのない素材で、作られていた。
「このコンロはどうやって火をつけているんだろう。魔法を使っている形跡もないし…………」
あらためて、モルディカの技術力に驚かされるアルカ。
私が住んでいた都市はすべてが魔法で成り立っていた。しかし、ここは魔法を使っているものもあるけど、魔法に頼らないものも多い。
魔法なしでここまで作られるのなら、魔法使いはいったい何をしているのだろうか。
普通に考えるなら、都市の防衛だろうけど……。
「これが違い…………面白いですね」
文化の違い、技術力の差、そして体制の違い。同じ人なのに、ここまで違うと、ある意味、嫉妬してしまう。
「って、これはチャンスなのでは!!」
今、エイジさんと二人っきりに近い状態。そして、エイジさんの部屋の番号をちらっと見た感じ、私の部屋番号『301』から二つ先の『303』だった。
つまり、すぐ目先。
「アタックするなら、今!!師匠も言っていました。チャンスを逃すと、後悔するって!…………で、でも何をすればいいのかな」
この恋を成就させるには、やはり私の魅力をエイジさんに見せつける必要がある。
「でも…………」
目線を下に徐々に下げながら、自分の体を眺める。
「まだ私は、15歳。まだ成長するよね!!って、将来に期待してどうするのよ……」
今の私では体の魅力が全然足りない。これじゃあ、エイジさんを落とせない。
「と、とりあえず、もうちょっと考えてからにしようかな、うん。だってまだ時間はあるし、ここはしっかりと戦略を練ってから攻めるべき!」
恋は戦いと同じ。戦略を練らずに攻めるなんて、負けて同然。
「私はそんな愚かじゃない。必ず、この恋、成就させて見せる」
復讐以外に燃える心。恋とは恐ろしい現象だ。
でもなぜだろう。こんなにも恋をしているのに、心のどこかで拒んでいる気がするのは。
久しぶりに訪れたモルディカはさらに発展を遂げていた。技術力もさることながら、ほかの文化を取り入れることで、発想の幅を広げ、さらに都市の発展につなげた。
「よくもまぁ、ここまで長く続いたな……クロ」
「これもすべて、皆のおかげですよ、エイジ」
まるで水の上にたってるかのような錯覚を起こしそうになる空間。一面が水で覆われており、ガラス張りで水の侵入を防いでいる。
「そうだな……」
現教皇、クロ=アーデ5世。この都市を管理する存在であり、この都市の親そのもの。実力は英雄どもと引けを取らず、俺ですら手を焼く存在。
「それにしても、エイジがまた訪れてくれるなんて、一体、何が目的なんですか?」
「その服、似合ってるぞ」
「話をそらさないでください」
クロはこの都市に暮らす民にバレないように顔を変え、服装を周りに合わせて、接触してきた。
かなり、警戒されているな。
さらにこの空間は、クロの力で生み出された亜空間。クロの権限なしでは、決して出られない。
つまり逃げ場がないわけだ。
俺はやっと、目線をクロに合わせると、顔を赤くしていた。
「照れているのか?」
「なぁ!?ち、違いますけど?何を言っているのですか、エイジ!!」
まだまだ、子供だな。
「それより、早く目的を言いなさい。それと、エイジが連れて来た、あの異質な魔法使いについても」
「魔法使いというのは、アルカのことか?」
「ええ、既に報告にも挙がっています。門番の前、とある問題が起きた際に、沈めた魔法使い。その実力は、計り知れないと」
「そこまで評価されたか……想像以上だな」
「それで、その、アルカって子は何者なの?年齢15歳で、あの実力は異常だよ」
クロもアルカの異常性に気付いている。そしてその異常性は、周りの人たちも。年齢にして15歳で、すでに基礎魔法と応用魔法をマスターし、超越魔法も扱える。
これを聞いた皆が思うだろう。
『おかしい』と。
だが、アルカにはそもそもそれを可能にできる天性の才能があった。だから、自称最強の魔法使いであるアリシャが教えれば、ここまでの実力をつけるのは当たり前だ。
「あの実力はすべて、アルカの努力の賜物だ」
「そうですか……」
クロが少し間を置いた。何か、考えている様子。
「クロ、ひとつ言っておくが、アルカに下手なことをするなよ」
「へぇ?な、何言ってるの!するわけないじゃない」
慌てている様子を見るに……。
「クロ=アーデ、これは忠告だ。アルカに下手なことをするな」
「…………め、珍しいですね、エイジがそんな目をするなんて」
黒ずんだ瞳がクロ=アーデ5世を睨み付け、彼女に一瞬、恐怖を感じさせた。
「……そうかもな」
「わかりました。エイジがそこまで言うなら、アルカには今後一切、関わりません。その代わり、エイジの目的、教えていただきますよ。こう見えても教皇ですから、この都市に危険を加える可能性があるものは、把握しておかねばなりませんから」
「……わかった。正直に話すよ」
「では、聞かせてもらいますね」
このどや顔。アルカの話題を餌に俺を逃げられないようにしたかったのか。
やっぱり、クロ=アーデは立派な教皇だな。
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