第10話 水の都

 アルカ=アルフィートの性格はよくいる、明るく人を惹きつけ、悪を許さない正義の味方ような性格をしている。


 だから、見過ごせないのだ。人が争っているその光景が。


「くぅ……外せねぇ。なんて硬さだ」


「観念してください、さもないと」


 魔法によって生み出された疑似チェーンが迷惑をかけた男を徐々に強く、縛り上げる。


 まるで、捕食する前の蛇のように。


「いててっ!!わ、悪かった、俺が悪かったから!!!」


「反省しているようですね」


 アルカは疑いもせずに魔法を解いた。


「って、馬鹿がぁ!!引っ掛かりやがったなぁ!!!」


 魔法が解けた瞬間、素早く、アルカの懐に付け入る迷惑をかけた男。速さだけは一段と早い。だがそれでも、アルカにとって、止まっているも同然だった。


 アルカが魔法を教えてもらっているうえで、一つの弱点を指摘された。それは、勝ったと思った瞬間の一瞬の油断。


 それは、いずれ、自分の命を奪う弱点になると、そう師匠に言われた。


「…………残念です」


 悲しそうな表情を見せた。それは、この男に向けるべきではない表情。憐れんではいけない。


 なぜなら、全部、その男が悪いのだから。でも、それでも、アルカはあの男に対して、可哀想だなと訴えかけてくる表情を見せた。


「【グラビティ・ダウン】」


 詠唱すると、男を中心に半径1メートルの範囲内の重力が急激に上昇し、目の前にいる男を押しつぶした。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!いて……いてよーーー」


 地面に押しつぶされる哀れな男。上から降り続ける重力がその男の顔を地面に押しつぶし続ける。


「楽にしてあげます…………えいっ!」


 その瞬間、さらに重力がさらに上昇し、その男はそのまま泡を吹きながら気絶した。


「……………………」


 アルカ=アルフィートはたとえ悪人でも憐れむことができる人間性を持っている。だからこそ、どんな悪人でも、どんな事情を持っていも、決して、容赦しないのだ。


「す、すごい………」


 そんな様子を見た門番二人は驚きのあまりに目を見開いた。


 門番の人たちにとって、ここにいる人たちを相手にすることなど、赤子の手をひねるくらいに簡単だ。


 でも、相手は水上都市『モルディカ』の発展に貢献してくれている人たちが多い。だから無下にすることは難しく、手を出すことができない。


 しかし、そんな私たちだから分かる。この人は間違いなく強い使だ。


「あ、あの……ありがとうございます!」


「全然大丈夫ですよ。それより、早く仕事の続きをしてください。私たちも早く入りたいので」


「わ、わかりました」


 そう言い残して、アルカさんと名乗る魔法使いは背を向けて、並んでいた場所に戻っていった。


「おい、アリス!おい、アリス!!」


「はぁ、はい!!」


「大丈夫か?」


「大丈夫ですけど」


「そ、そうか、とりあえず、このごみをかたずけろ。その間は俺が一人で仕事をするから」


「わ、わかりました」


 彼女が使用した魔法はすべて、応用魔法の中で、最初に学ぶ魔法だった。でも、あれほど完璧に使いこなす魔法使いを私は見たことがない。


 見惚れてしまうほどの美貌と魔法をまるで手足のごとく操作する技術。すべて、完璧だった。


「会って話してみたい……」


 今日はとても、いい日になりそうです。



 その頃、エイジとアルカは……。


「なんで、介入したんだ?」


 俺は率直な疑問を口にした。あの場、あの現状、アルカが介入する理由はなかった。それどころか、下手をすれば、門番につかまり、いっしよに牢獄いきだって、ありえた。


「だって、あんなところで時間をつぶされても、無駄ですし、だったら、私が止めたほうが早いかなって、思っただけです」


「………そうか」


 アルカの瞳は黒ずんでいた。


 きっと、アルカは心の底で我慢しているのだろう。怒りと殺意、憎しみ、あらゆる悪意が今にも溢れ出そうになる自分を。


 この都市にきて、がいることを、期待しているんだろう。


「アルカ、やる気は十分だが、焦るな。焦りは自分の身を滅ぼすスパイス………心落ち着かせ、常に冷静に物事を見ろ」


「わかってますよ、そのくらい。どんな時でも冷静に師匠に教わりましたから!」


「ならいいが」


 気づけば、黒ずんだ瞳は輝きを取り戻し、真っ直ぐに水上都市『モルディカ』に向けていた。


 そして、順番を待つこと、1時間。やっと、俺たちの番が回ってきた。


「通行許可証を提示してください」


 門番に言われたエイジさんは、通行許可証を門番に見せる。


「………特に大丈夫そうですね」


 その一言のあと、自然と右手で奥の道を示す門番。


 私たちは、そのまま奥に続く道を歩く。薄暗い道、光はうっすらと光る青い光しかなく、まるで水の中にいるような感覚に陥りそうになる。


「なんか、すごいです」


「かなり、抽象的だな」


「この空間なんて表現すればいいのか、わからなくて………」


「まぁ、そうだろうなって、そろそろ抜けるぞ」


 うっすらと差し込む光、この先が……。


 私たちは、そのまま真っ直ぐに進んだ。そして、差し込む光の先を抜けると。


「す、すごーーーーーーーーーいっ!!」


 興奮しすぎるあまりに、つい飛び跳ねてしまうアルカ。


 私が住んでいた都市はまったく光景が異なる建造物の数々。都市の真ん中には大きな滝の勢いよく流れている。


 その光景に、新鮮さを感じながらも、技術力の違いや文化の発展の違い、同じ人なのにここまで違うとなると、驚きを隠せない。


「ここが水上都市『モルディカ』、水という資源ですべてが成り立った、水の都だ」


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