第8話 灰色の魔女アリシャ
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この魔法はそこまで強い魔法ではないし、実戦に向いているわけでもない。ただ、今回の勝負ごとには活躍する魔法だ。
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反射神経でも追いつけないなら、その反射速度を上げればいいという発想からこの魔法を使ったのだ。
本当に、斜め上の発想だ。普通の魔法使いなら、そこまで考えない。
「私の勝ちですね、エイジさん」
「そうだな。まさか、こんな形で負けるなんて思わなかった」
「運任せのかけでしたが、今回はうまくいっただけですよ。それにエイジさんが自身に縛りなんてつけなければ、私は何もできずに負けていたはずです」
「どうかな…………けど、まさかアルカがここまで強くなっているなんて、驚いたよ。魔法をあんなにたくさん使ったのに、魔力切れを起こしていないあたりね」
「それを言うなら、エイジさんだって!あのウインドスラッシュだって、普通の威力じゃありませんでした!」
「あれは、ただあらかじめ練った魔力で使った魔法だからな、あれぐらい普通だ」
「魔力を練る?」
「あ、まぁ気にするな、アルカにはまだ早いテクニックだ」
「ちょっ!?エイジさん、そんなこと言われたら気になります!!」
「こういうテクニックは師匠に教えてもらうんだな」
「そ、そんな…………ひどいです、エイジさん」
アルカの実力は大体把握した。これなら、英雄に出くわしても、自分の身は守れるだろう。
ふん、アリシャのやつ、相当アルカのことを気に入ったんだろうな。
「それじゃあ、今日はゆっくり休むとするか」
「はい!!」
今日が最後になる。この都市の景色も、見慣れた光景も…………。まぁアルカは最後ではないと思うけど。
多分、俺は最後になる。
しっかりと、この目に刻もう。ここには発展都市『クリスタリア』があったことを。
これで準備が整った。やっと、英雄どもを皆殺しにできる。
灰色の魔女アリシャ。本名、アリス=シャーリー。かつて存在したシャーリー王国の第一王女だった。
私の人生はとても悲惨なもので、隣国のアストロ帝国と毎年のようににらみ合いっていた。そして、ついに我慢の限界に達した王国は戦争を仕掛けた。
今だから、わかる。私のお父様は本当に馬鹿で私利私欲の無能な王だった。
そんな王だから、シャーリー王国は滅び、私だけが生き残った。
その後、私は死ぬ気で魔法を覚えて、生きるすべを身につけていった。そして、まぁいろいろあって気づけば、魔法使いでは名を知られる存在にまで上り詰めた。
その時にはもうすでに、アリス=シャーリーという弱い私は死んでいた。
私は強い、私は弱くない。気分は最高潮、バラ色のような日々が続いた。でも、ある日、一人の男に出会った。
「君がアリシャだね」
その時はすでに、昔の名前を捨てて、アリシャと名乗っていた。
「そうだけど……」
「俺は新藤エイジ」
突然、現れた男は新藤エイジと名乗った。もちろん、聞いたことなどない。でも、私の勘が告げていた、危険だと。
「知りたくないか?シャーリー王国を滅ぼした黒幕を」
「……………今、なんて」
その新藤エイジと名乗る男の口からシャーリー王国という言葉を聞いたとき、怒りではなく恐怖が込み上げてきた。
私にとって、シャーリー王国はトラウマそのもの。その言葉の響きを聞くだけで、息が荒くなる。
「…………そうか、まだ克服すらできていないのか。それじゃあ、話にならないな。悪い、今のは忘れてくれ」
これが新藤エイジとの初めての出会い。
そこから、私は自らの過去を克服すべく、かつてあったシャーリー王国のもとへと向かった。
色々あって、私は
私は、最強の魔法使いという自信もあってか、各地を回って、困っている人々を助けて回っていた。
これが、私にできる最善の選択だと思ったから。
そして、再び彼は私の前に現れた。
「どうやら、過去を乗り越えてたようだな」
「ええ、だから、教えてもらうわよ、私の祖国を滅ぼすように誘導した黒幕を!!」
そこで、新藤エイジは黒幕の名を口にした。
すると、それが引き金となり、灰色の魔女アリシャと新藤エイジとの殺し合いが始まった。
初めて、怒りが抑えれらなくなった。私は本気で殺す気で新藤エイジと殺しあった。でも結果は…………。
「終わりだ………」
「うぅ、つ、強い……」
「お前に二つの選択肢を選ばせてやる。一つはここで死ぬか、二つ目は、俺の目的に協力するか。この二つだ。さぁ選べ……」
彼の瞳は冷めきっているように冷たく、深い闇を宿していた。
きっと、私はここで死ぬことを選ぶべきだった。でもその時の私は生きたかった。
だから私は、エイジに協力することを選んだ。
あれから、何年たったかわからない。もう、時間の感覚も忘れてしまっている。
「あ~あ、楽しかったな……アルカちゃんとの修業」
元々、エイジに頼まれたことだけど、教えがいのある子だったから、つい本気で教えてしまった。
「これから、大変だぞ……アルカちゃん」
新藤エイジという男に余計な感情は存在しない。彼はいつも英雄を殺すことしか頭にない。
今もこうして、アルカちゃんと一緒にいるのも、英雄を殺す上で必要だから。
「なんで、私、
次の日。
「よし、準備はできたな」
「はい!!って私たちはどこへ向かうのですか?」
「ああ、そういえば、言ってなかったな。俺たちが向かうのは、水の都、水上都市『モルディカ』だ」
「水上都市『モルディカ』……」
「それじやあ、出発するぞ」
「あ、はい!!」
こうして、俺達は、水上都市『モルディカ』へと向かう。
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