第7話 エイジさんと勝負

 俺と行動を共にするうえで、足手まといが一番困る。だから、アルカには自分の身は自分で守れることを証明していほしい。


「本当に、触れるだけでいいですか?」


「ああ、俺は、この鞘に収まった鉄剣を使う。なにをしてもいい、何を使ってもいい。俺に触れて見せろ」


 私は試されている。


 エイジさんとこうして交えるのは初めてのこと、まずは様子見をするのが、普通。だけど、果たしてエイジさんに普通が通じるのだろうか。


「それじゃあ、制限時間は30分。その間に触れられなかったら、アルカのお願いはなしだ」


「はい!!」


「じゃあ、初めっ!!」


 開始の合図が鳴った。


 まずは小手調べ、エイジさんの動きを把握する。


「…………【デモンズゲート・サモン】!!」


 杖を掲げ、詠唱すると、天から召喚陣が出現し、そこから、大量のアンデットが生成される。その数、30体。


「いきなさいっ!アンデット軍!!」


「なるほど、いきなり召喚魔法か……だが、そんなちんけな魔法で俺を知ろうなんて、甘すぎる」


 迫りくるアンデットの大群。普通の戦士なら、絶体絶命だろうけど、俺は違う。


「【ウインドスラッシュ】!!」


 風を纏った剣を横に振り切ると、風の刃がアンデットを一瞬のうちに細切れにされる。


「なぁ!?エイジさん、魔法が使えたんですね」


「基礎魔法だけだがな…………」


「き、基礎魔法!?あの威力で……」


 基礎魔法は魔法の基礎にあたる部分で、火力はそこまで出ないのが、魔法使いの常識。師匠も、相当な魔力量がない限り、火力、威力は見込めないと言っていた。


 つまり、エイジさんの魔力量は、師匠に匹敵するということ。


「こないのか?」


「そんな挑発には乗りませんよ」


 まだ近づくのは危険だ。もっと、もっとエイジさんを観察しないと。


「【オーバー・デス】!!【クリエイト・ウォール】!!」


 死霊魔法【オーバー・デス】は、倒されたアンデット強化して復活させる。さらに生成魔法【クリエイト・ウォール】で、エイジさんの逃げ場をなくすように、壁を張り巡らせる。


「これで、エイジさんの基礎魔法を耐えられるはず」


「……よく考えたな。でも、俺は魔法使いじゃない。この程度の修羅場は何回も乗り越えている」


 魔法攻撃を恐れて、召喚したアンデットの強化に加え、逃げ道を塞ぐ作戦事態は悪くない。ただ、相手が俺じゃなければな。


 鞘に収まっていようと剣は剣だ。俺はただ、敵を斬るのみ。


「……………………ッ!!」


 一瞬、エイジさんの右手がかすかに動いた気がした。


「一体、何をして……」


「さぁ、アンデットは片づけたぞ」


「え…………」


 とその瞬間、アンデットが一斉に崩れ落ちていった。


「なぁ!?いつの間に……ってまさか」


 あのわずかに動いた右腕、あの瞬間に大量の強化されたアンデットを切り刻んだってこと!?


 ありえない。いや、ありえなくはないか、多分。相手はエイジさんだぞ。師匠ですら、100回戦って一回勝てるかどうかと言っていた。


「さぁ、次はどうするんだ。こうやって、俺を観察するのはいいが、このままだと勝手に時間が過ぎていくぞ?」


「そうですね。なので、直接、いかせていただきます」


「ああ、真正面から受け止めてやる」


 ここで馬鹿正直に向かっていくのはバカだ。ここまで猶予の時間を与えてくれているんだ。ここは本気で……。


「ふぅ、【火炎完全耐性プロミネンス・レジスト】、

全弱状態耐性レジスト・コンデション・オール】、

強制反射リカバー・ミラー】、

全魔法弱耐性マジック・レジスト・オール】、

俊敏加速アクセル・ブースト】、

視力強化ビジョン・ブースト】、

聖魔法完全耐性ディレイ・レジスト】、

全魔法反射マジック・ミラー】、

魔力増強マジック・パワー・ブースト】、

精神完全耐性マインド・レジスト】、

本能開花ビースト・ジャック】……………」


 次々と魔法を唱えるアルカ。


 基本、俺から仕掛けることがないことを利用して、できる限り強化魔法で自信を強化しにきたか。


「……強化は終わったか?」


「はい…………あとは【エンジェル・デス・タイム】!!」


「なんだ、その魔法は……」


「知らなくて、当然ですよ。さぁ、気にせず続きを始めましょう」


 アルカは目にもとまらぬスピードで俺の背後をとり。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「背後をとるなら、叫ばないことをお勧めすよ」


 俺は、アルカの一振りを清々しく剣で受け止めた。


「くぅ、やっぱり、反応してきますよね」


 攻撃を受け止めるエイジさん。


 アルカのやつ、どこから剣を取り出したんだ。切羽詰まる力の押し合い。


 何かおかしい。この感じ、アルカから必死さを感じ取れない。


「引っ掛かりましたね」


 お互いに力を加えると、拮抗状態に持ち込まれることが多い。その場合、どちらかが力負けすれば、負けとなる。だが、逆の考え方はできないだろうか。


 わざとか、力を抜いて、こちら側に近づいてもらう。それを意図的に促せれば、相手は私の領域に入ったことになる。


 つまり、自分のペースに持っていけるってこと。


 私は力の押し合いの中、急に力を抜いた。


「なぁ!?」


 すると、さっきまで拮抗しあっていた力のバラスが崩れ、エイジさんは私のほうへと重心が傾く。


「………甘いな、アルカ」


 この勝負は俺が触れれば負けだ。つまり、どんな形であれ、触れてしまえば負けなのだ。


「これで私の勝ちです!ってあれ………」


 触れられない。重心は傾いた。対処する時間もなかったはずなのに、どんどんエイジさんとの距離が離れていく。


「もし、アルカが俺の剣を考慮に入れていたら、負けていたよ」


「…………なぁ!?」


 なぜか、エイジさんが使っていた剣が私の目の前で突き刺さっていた。


「まさか、エイジさん!?」


「しっかりと、あらゆる可能性を考えておくんだったな」


 俺はとっさに剣を地面に突き立て、そのまま押し返した。そうすることで、アルカとの距離をとることができる。


 まぁおかげで、剣を手放すことになったわけだが……。


「…………ふふ」


 笑った。アルカが笑った。


 まさか、まだあるのか……。


「こうなることも予想済みだよ。さぁ!奇跡の魔法の時間だよ!!【エンジェル・デス・タイム】、起動っ!!」


 その美しい声とともに、鐘の音が鳴り響き、空から天使の羽が降り注ぐ。


「なんだ……これは……………羽?……うぅッ!?」


 降り注ぐ羽に触れた瞬間、全身に激痛が走り、思わず膝をついた。


「この天使の羽は時間が経過した数だけ降り注ぐ刃。触れると精神に直接攻撃し、全身に激痛が走る。これが私が生み出した合成魔法【エンジェル・デス・タイム】!!」


「精神に直接攻撃してくるのか、厄介だな」


 この羽の数をよけながら、アルカを対応するには無理がある。けど、この羽に触れるのは避けたい。


「さぁ、観念してください、エイジさん!!」


 完全に罠にはめられた獲物だな。だけど、想定よりアルカが油断してくれて助かった。


 ちょうど、アルカは俺のいる直線状にいる。距離からして、1キロもない。なら


 勝負は一瞬、決して、アルカに反応させるな。


「アルカ、戦場にとってもっとも油断する瞬間はどの場面だと思う?」


「え…………あ~勝ったとき?」


「違うぞ、アルカ。もっとも油断する場面、その答えは…………勝ったと思った時だ」


「え?」


 次の瞬間、エイジさんのいた場所から爆音と共にたち煙が舞いがる。そしてそのまま、瞬く間にアルカの背後に回り込んだ。


「ほら、油断しただろ」


「しまっ!?」


 っとまた形勢は元通りと思った瞬間、私の右手はエイジさんの左手をつかんでいた。


「こ、これは……………」


「ふふ……まんまとはまってくれましたね、エイジさん」


 アルカの瞳が赤くなって、そういえば…………【本能開花ビースト・ジャック】。


 本能の一時開放する魔法。


「エイジさん、そっくりそのまま、その言葉を返しますよ」


「俺の負け…………みたいだな」


 どうやら、最後の最後に油断したのは俺のようだ。


ーーーーーーーーーー


【アルカが使用した魔法一覧】

火炎完全耐性プロミネンス・レジスト

炎に対する完全耐性を得る。


全弱状態耐性レジスト・コンデション・オール

すべての状態の弱耐性を得る。


強制反射リカバー・ミラー

一度だけ、身に降りかかる攻撃を反射する。(魔法を除く)


全魔法弱耐性マジック・レジスト・オール

全魔法の弱耐性を得る。


俊敏加速アクセル・ブースト

加速度を引き上げる。


視力強化ビジョン・ブースト

動体視力を強化する。


聖魔法完全耐性ディレイ・レジスト

聖魔法に対する完全耐性を得る。


全魔法反射マジック・ミラー

超越魔法を除く、魔法を一度だけ反射する。


魔力増強マジック・パワー・ブースト

魔力を増強させる。


精神完全耐性マインド・レジスト

精神攻撃の完全耐性を得る。


本能開花ビースト・ジャック

本能を覚醒させる。(人が持つ機能の能力を底上げるするなど、効果はいろいろある)

 

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