第6話 私の恋は100パーセント

 らしいというか、まぁ100パーセント恋している。


 まさか、私が恋するなんて想像もできなかったけど、恋してみるとわかる。エイジさんの顔が全く見れない。


「師匠、私は私のやるべきことを終えるまで、そんなよこしまな感情は抱かないようにしているんです!促さないでください!!」


「え~~~まぁ、そう言ってもどうせ、エイジの前じゃあ、挙動不審になるんでしょ?」


「うぅ……否定できないが悔しい」


「そうだ、修行を終えたんだし、エイジにあってきたら?」


「え…………」


「ほら、エイジもそろそろここを離れるでしょ?いつ会えるかもわからないんだし、最後ぐらい面と向かい合って話したら?」


「……そ、そうですね」


 たしかに、エイジさんは師匠との修行に2年間付き合ってくれた。理由はわからないけど。


 でも、そうだ。今日でエイジさんと最後の…………。


「じゃあ、邪魔ものな私は一足先に退散するね。じゃあ、バイバイ………」


「ちょっと、し、師匠!?」


 師匠は一瞬で姿を消した。


「ど、どうしよう」



 2年という時間は一瞬で過ぎていく。


「本当に時間の進みは早すぎる」


 2年間、俺はアルカの成長を見届けた。俺が言うのもおかしいが、間違いなく魔法使いとしてかなりの成長を遂げていた。


 あと3年も修行をつめば、飛躍するように強くなれるだろう。


 でも、厳しいこと言うのなら、今のアルカでは英雄には勝てない。


「アルカには実戦経験が必要かな……」


 そろそろ、アルカとアリシャの最後の模擬戦が終わったころ合いかな。


 しばらく、空を眺めていると、トントンっと足音が聞こえてくる。


「あ、あの…………エイジさん」


「きたか、最後の修業は終わったか?」


「はい、無事に終わりました。それに新しい杖をもらいました」


「そうか、それはよかったな」


 私はエイジさんの横にゆっくりと座り、同じ空を眺める。


「よく頑張ったな、アルカ」


「はい、とても大変でしたけど、すごく充実した日々でした」


「ここから先はアルカ自身の戦いになる。相手は……」


「英雄ですね」


「……しっかりと、アリシャから聞いていたか」


「はい、私の相手がどういう存在で、どれだけの力があるのか……」


「なら、理解しているはずだ。今のアルカじゃあ、絶対に勝てないって」


「そうですね。ほぼ間違いなく殺されるでしょうね」


 殺される、その事実は今の私の実力では覆えようのないことだ。


「エイジさん、一つ聞きたいことがあります」


「なんだ?」


「どうして、エイジさんは……英雄という化け物と戦っているんですか」


「アリシャから聞いたのか」


「少しだけですが、そのプライベート?というところまで聞いていません。ただ、エイジさんは英雄を殺すことに人生をささげている者だと……」


 エイジさんは空を眺めるのをやめて、下を向いた。


 今思えば、私はエイジさんのことを全く知らない。この2年間のエイジさんしか知らなかった。


「ここに訪れたのも、英雄の目撃情報があったからだ。聖騎士パラダイン、12英傑の一人で、かつては世界を守るために戦った戦士であり、君の家族を故郷を奪った張本人。結局、間に合わなかったが、それでもアルカに出会えたことは幸運だと思っている」


「幸運?」


「君には魔法使いとしての才能がある。それは見た瞬間に分かった。アリシャがここを訪れたのだって、俺が仕掛けたこと。すべてはアルカを強くするため。俺はねぇ、12英傑全員を殺すために生き続けている。その目的にアルカを利用しようと考えたわけだ。どうだ?幻滅しただろ?俺は、英雄を殺すためなら、なんでも利用する。そんな滑稽な存在なんだよ」


 エイジさんは悲しそうに苦しそうに語った。決して、今話したことがすべてではないし、きっと勇気を出して本音をしゃべってくれているんだと思う。


「利用することは悪いことじゃないですよ、エイジさん。私だって、言い方を変えれば、強くなるために師匠を利用しました。エイジさんはそれと同じです。目的のために利用する。誰もがやっていることです。ですから、自分を責めないでください」


 アルカは微笑んだ。最初っから、エイジさんの違和感には気づいていたし、今更感がある。でもそれを拭うほどにエイジさんと一緒にいることに心地よさを感じていた。


「ケルン、君は強い。だから、その強さを強く持て、いいな……」


「はい!!」


 気づけば、変な恥ずかしさはなくなっていた。


「さてと、俺は、そろそろ次の都市へ向かうとするよ。アルカはこれはどうするんだ?」


「あの…………エイジさんにそのついて行ってもいいですか?」


「…………うん?今なんて」


「だからその、エイジさんについていきたいんです!!」


 その返答は新藤エイジにとって予想できない返答だった。


「どうして?」


 エイジさんは疑問に返してきた。それは単純にその理由が気になったから。


「エイジさんも言ったはずです。今の私では聖騎士パラダインには勝てないと。なら、次に私がするべきは実戦経験です。そして、もっとも実戦経験を積める場所はエイジさんのもとでしかないと、私は考えました!!」


 実戦経験、それはつまり、英雄との戦い。12英傑のほかに英雄は存在する。だが、それでも英雄と出くわす確率は極めて低い。


 それはなぜか、この2年で英雄たちの動きに変化があったからだ。2年前なら大きな都市に行けば、英雄たちに出くわせた。だが、今はそもそも英雄の目撃情報がない。


 時代の流れとは早く、恐ろしいものだ。身をもって体験した。


 っとまぁ、それは置いといて、アルカは俺と行動を共にすることで、英雄と戦えると考えた。おそらく、アリシャの入れ知恵だろう。


 まったく、アリシャは何を考えているのか……。長年の付き合いのはずなのに、わからん。


「…………わかった、いいよ」


「え?ほ、本当!?」


 体が飛び跳ねそうなほどにうれしくなるケルンは思わず、エイジさんの両肩をつかんだ。


「う、うん。ただし、一つだけ条件がある」


「条件ですか……」


「それは、どんなことをしてもいい。制限時間内に俺の体に一回でも触れて見せろ」


 これは魔法使いアルカの最初の試練だ。


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