第5話 2年間の修行

 最強の魔法使いになるのが私の目標に一つ。あいつらに勝つには、それが一番近道だと直感でそう思ったから。


 けど、最強の魔法使いになるためにはどうすればいいのか。その手段が正しくなければ、その数年の時間は無駄な時間として消化されてしまう。


 そのためにも、限られた時間の中で、一歩も間違えずに、最強の魔法使いになるための道を歩まなくてはいけない。


 なら、間違えないために、最善な選択肢は何なのか。それは、最強の魔法使いに魔法を習うことだ。


「私に、魔法を教えてくださいっ!!」


「へぇ~~面白いね」


「お、面白い?」


「あ、ごめんごめん。こっちの話…………いいよ」


「え、そんなあっさり?」


「もともと、数年はここにいるつもりだったし、そのついで感覚?ケルンちゃんは何年教わりたいの?」


「な、何年!?え、え~と、時間がある限りです!!」


「ふぅ~~ん。じゃあ、2年だね、2年間、私が魔法を教えてあげる」


「ほ、ほんとですか!?」


「ええ、私、噓はつかないの。でも、その前に一つだけ聞きたいことがあるのだけど」


「聞きたいことですか?何でも聞いてください!!」


 本当に、最強の魔法使いなのかはわからないけど、エイジさんが最強の魔法使いって言っていたし、信頼はできる。


「アルカちゃんは、なんで魔法を教わりたいの?」


 私の瞳を覗き込むように、私に問いかけてきた。


 なんのために、魔法を教わりたいのか、その真意をアリシャさんは知りたいのだ。


 ここで、隠してもきっと見透かされる。


 なら。


「殺したい奴がいるからです。そのためにも、私は最強の魔法使いにならないといけないんです。じゃないと、あいつには勝てないから、だから私は!!魔法を教わりたいんですっ!!!」


 胸を張って、自分の気持ちを相手にぶつけるつもりで、アリシャの質問に答えた。


「つまりは、復讐ってわけね…………いいね、やっぱり、面白いよ……ふふふ」


 不敵な笑みを浮かべながら、空を眺めるアリシャ。


 心の中では少し、心配気味になりつつも、私は堂々とした態度を見せる。


「アルカちゃん、私はこう見えて、厳しいよ?」


「望むところです!!」


「それじゃあ、アルカちゃんは今日から私の弟子ね」


「はいっ!!」


 こうして、私は最強の魔法使いになるための第一歩として、自称最強の魔法使い、灰色の魔女アリシャの弟子になった。



 俺は、こうなると最初っから分かっていた。


「やっぱり、アルカはアリシャに弟子入りしたか………」


 彼女の表の部分だけを見れば、普通の女の子だった。でもよく見ると、瞳には執念と憎悪を宿していた。


 それは、家族を殺された恨み、怒り狂う慟哭どうこく。彼女はずっと、胸に秘めながら、瞳はまっすぐ向いていたのだ。


 復讐のためなら、プライドすら捨てられる。


「本当に、哀れだな」


 俺に止める資格はない。俺はただ見守るだけ。


「まぁ、アリシャに教われば、ある程度は強くなれる、あとはアルカ次第。もし素質があるのなら、にも対抗できるだろう」


 2年、長いようで短い期間。この時間で彼女の素質が試される。


「頑張れよ」


 俺はただ本当に、見守るだけなのだ。



 あれから2年の時が過ぎた。


 周り相変わらず灰と化した都市そのもので変わっていない。


 だが、一つだけ変わったことがある。


 それは。


「やったぁぁぁぁぁぁ!!師匠に一発入った!!!」


「本当に、強くなったよ、アルカちゃん…………」


 この2年でアルカは急激な成長を見せた。2年前は幼かったものの、時が経つにつれ、身長が伸び、15歳になるころには、立派で綺麗な女の子に変貌していた。


 まぁ、体の発育の変化はあって当然だが、何より驚いたのは魔法使いとしての技量だ。


 やる気があったから、という据え置きがあるが、彼女は最初の1年間で応用魔法をすべて習得した。しかも、余すことなく完璧にだ。


 これには、アリシャも驚いていたが、アルカはそれだけではない。


 さらに1年でアリシャから教わった超越魔法をほとんど習得。ここまでできると、周りが引いてしまうレベルだ。


 アリシャはアルカのことを「千年に一度の逸材ね」とこそっと評価していた。


「よくこの2年で、ここまで成長したね」


「これもすべては師匠のおかげです!本当はもう少し、教わりたかったですけど……」


 教えてもらえる期間は2年間、そして今日で最終日。


「まぁ、でもよく頑張ったよ、アルカちゃんは……というわけで、私から一つプレゼントがあります」


「師匠からプレゼント!?そ、そんなこと、何か悪い食べ物でも食べましたか?」


「アルカちゃんは私のことを何だと思っているのかな?」


 師匠から禍々しい魔力を感じ取った私はさらっと物陰に隠れた。


「そんなに怖がらなくてもいいでしょうに……」


「師匠はいつも怖いですから」


「そんなに?まぁいいた、はいっこれが私からのプレゼント!!」


 そう言って、小さな白色石をアルカに向かって投げた。


「あ、おっと、な、なんですかこれ?」


「ふふん……こういうことよっ!!」


 アリシャが透かさず、指を重ねて、パチッと音を鳴らすと、白色石がぼんっと爆発した。


「…………こ、これは」


 手元にあった白色石は綺麗な杖になった。


「アルカちゃんの新しい杖だよ、ありがたく受けっておきなさい。魔法使いにとって杖は命だからね」


「あ、ありがとうございます!!」


 初めての師匠からプレゼント。私は杖を強く握りしめ、泣くほどに喜んだ。


「さてと、アルカちゃん。ここからが本題だよ」


「ほ、本題ですか?」


 師匠が何を言っているのかわからず、頭を傾げた。


「アルカちゃん、もう15歳だよね」


「そうですけど…………」


「つまり、体はもう大人なわけだ」


「お、大人かどうかはわからないですけど、身長はすごく伸びましたね」


「わかってないな……今のアルカちゃんのナイス!ボディ!!なら、落とせるんじゃない、エイジのこと……」


 アリシャは私の肩を組みながら、耳元で囁いた。


「落とせる……って何言ってるんですか!!」


「いやいや、私は思うんだよ。アルカちゃんの人生の目標は復讐だろ?もしそれが達成したら、目標がなくなってしまうわけだ。それを未然に防ぐべく、人生の第二目標として、ほら、たとえば、になるとかさ……」


「お嫁さん……エイジさんの……っていやいやいや、何言ってるですか、師匠。からかうのはやめたくださいっ!!って師匠?」


 なぜか、師匠は地面に顔を埋めていた。


「いつも思うけど、師匠に対して乱暴だよね、アルカちゃん」


「って、すいません、師匠!!」


 私はこの2年間でかなり実力がついたと思う。まだ師匠にはかなわないけど、それでも魔法使いとしてはかなり上だと師匠は言った。


 そして、実は、この2年間で自覚したことがある。最初は違和感なく抱いていたけど、師匠に言われて、すぐに気づいた。


 どうやら、私はエイジさんに恋をしているらしい。

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