第4話 最強の魔法使い

 何時間たったかわからない。


「そろそろ、外へ出ても大丈夫そうだな。いくぞ、アルカ」


「はい!!」


 暗い洞窟、エイジさんが先頭に松明をもって真っ直ぐ進んでいく。そして、少しずつ、目先から光が見えてくる。


「ま、眩しい」


 光の先へと足を踏み入れると、そこには、見慣れた光景がそこにはあった。


「1日ぐらいか……」


 エイジさんはすぐに周りを見渡して、何時間たったかを把握した。


 私は、エイジさんの後ろについていき、都市『クリスタリア』へと向かった。


「ここが、私が住んでいた都市……」


 どこ見ても、何もない。一部、建物の残骸が残っているが、私が知っている都市『クリスタリア』の面影はなかった。


 これもすべて、あいつらの仕業。この光景を見ると、自然と怒りがわいてくる。


「ここからは俺個人でやることがある。ケルンはどうする?」


「私は、家族の墓を作ります」


「そうか……じゃあ、ここでお別れだ」


「そうですね……」


「じゃあな、アルカ」


 エイジさんは手を振りながら背中を向けた。


 ここで、お別れなんだ。少し悲しくもあり、同時に決意をする意思表明でもあった。


 これでやっと、私は、前へと進むことができる。


「エイジさん!!また、会えますか……」


「まぁ、機会があればな」


 そう私に微笑んだ。


 エイジさんと別れた後、私は、自分の家があった場所へと向かった。都市として面影はほとんどないけど、場所自体は覚えている。


「ここが……」


 私の家があった場所。ここで、私の家族は楽しく笑顔あふれる生活を送っていた。


 そこで、三つの簡易的ではあるが墓を作る。


 これは、私の覚悟をこの怒りを忘れないための証。


「絶対にかたきは打つから。だから、待ってて……」


 両手を合わせて握り、祈りをささげる。私達の祈りは神に感謝を送る祈りと、この世に旅立った人へ感謝を表す祈りがある。


 私を育ててくれて、ありがとう。私を生んでくれてありがとう。


「こんなところで、祈りをささげるなんて、おもしろいね」


「だ、誰!?」


 エイジさんの声じゃない。


「誰と言われても、たまたまここを訪れたしがない魔女だよ、お嬢ちゃん」


 灰色の艶やかな長い髪に、灰色の瞳。一瞬、私はその人の容姿に見惚れてしまう。


「そんなに見つめられると、恥ずかしいじゃないか」


「なぁ!?べ、別に見つめていたわけでは……ってそんなことはどうでもいいんです!!」


 私は魔女と名乗る女性と距離をとった。


「ふん、勘は鋭いと……」


 この人からは嫌な予感がした。聖騎士パラダインと名乗る男とはまた違う感覚。


「おい、そこで何をしているんだ」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。私は聞こえた方角に顔を向けると。


「え、エイジさん!?」


 私のすぐに後ろに、エイジさんが立っていた。


「おお、エイジではないですか、お久しぶりですね」


「え…………」


 私は思わず、声が漏れた。


「って、なんでこんなところに、灰色の魔女がいるんだよ」


「そこは、アリシャと呼んでほしいな」


「あ、あの…………もしかして、エイジさんとお知り合いさんですか?」


「そうだね、知り合いというか……裸の付き合いをした中だよ!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!は、裸の付き合い!?」


「おい、誤解を招く言い方をするな!!」


「いてっ、もう、強引なんだから」


「おい、今すぐ、その口を開かなくしてやろうか」


 エイジさんとアリシャと名乗る魔女が仲良しそうに会話をしている中、私は驚きすぎて腰を抜かす。


 は、裸の付き合い……聞いてことがあります。信頼関係、何も隠すことがないほどの関係を築いた、夫婦のような存在だと。


「え、エイジさんはお付き合いしている人がいるんですね……」


「ちょっと、違うから。アリシャとは一切そんな関係じゃないから」


「もう、恥ずかしがるのは……」


「少し黙れ、アリシャ」


「へぇ~~面白い!!」


「面白がるな!」


 仲良さそうに会話をしている二人。この二人の間に私が入るなんて……って私は何を考えて!?


「ケルン、だ、大丈夫か?」


「あ、はい…………」


「それで、どうして、こんなところにいるんだよ。灰色の魔女アリシャ」


 エイジはアリシャと目を合わせて、問いただす。なぜ、この都市にいるのかを。


「ただ偶然だよ。たまたま通りかかったものでね、そしたら、ちょうど、そこのお嬢ちゃんを見かけたったわけさ」


「にわかに信じがたいが……」


「エイジに理解は求めないさ。それよりも、この惨状を見るに間に合わなかったようだね」


「…………ちっ」


「舌打ちはよくないよ。いったい誰が、個々の情報を渡したと思っているのかな?」


 二人の会話はとても不思議でした。私では決して理解できない二人の会話。でも、聞いていてなんとなくわかったのは、エイジさんもアリシャという女も、違和感のある何かであると。


 その何かは私にもわからないけど、こうして二人が会話してることが、おかしいと思えてしまう。


「これ以上を会話をしても無駄だ」


「そうだね、エイジの言うとおりだ」


「あ、あの…………エイジさん、一つ聞いてもいいですか?」


 私は二人の会話に割り込むように、エイジさんに問いかけた。


「なんだ?」


「そのアリシャって女は一体、何者なんですか?」


 純粋な疑問だった。エイジさんのことももちろん気になるけど、なぜか、アリシャという女からは同じに匂いが気がした。


「…………灰色の魔女アリシャ、あまりプライベートに関しては言えないが、まぁ、自称最強の魔法使いだ」


「プライベート?って、最強の魔法使い!?」


「おいおい、エイジ。自称ではないよ。正真正銘の最強の魔法使いだよ」


「はいはい、そうですね」


 このアリシャっていう女の人が、最強の魔法使い。私が目指す目標。


「じゃあ、俺は戻るから」


「私達を置いていく気かな、エイジ」


「どうせ、しばらくここにいるんだろ。それに、お前は、無駄な殺傷を好まないだろ」


「…………たしかに、よく私を理解しているね」


 そのまま、エイジさんはどこかへ行ってしまった。いや、多分、本来の目的のために、戻っていったのだろう。


 エイジさんは優しいから、わざわざ私の様子を見に来たのだ、多分。


「さてと、私もこの都市の観光を再開しようかな、え~~とケルンちゃんだったかな、君はこれからどうするの?」


 墓は作った。もう、この灰と化した都市にいる必要はない。でも、ここは勇気を振り絞って、口にするべきだろうか。


 正直、私はこれ以上、魔法使いとして強くなれる気がしなかった。やる気はある。それはもう十分に。


 でも、最強の魔法使いになるためには、どうしても知識と実践の経験が必要になる。今の私には、知識を得るための先生も、実践を経験する場がない。


 つまり、現状、右左もわからない状態なのだ。


「アリシャさん、一つお願いしてもいいですか」


「お願い?」


 私は真剣な表情をアリシャに向けて、口にする。


「私に、魔法を教えてくださいっ!!」


 その言葉をアルカから聞いたとき、灰色の魔女アリシャは口角を上げて、ニヤリと静かに笑った。



 

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