第1章 発展都市『クリスタリア』編

第3話 新藤エイジとの出会い

 目の前に瞳が死んだ少女が立っていた。


「そこで何をしている」


「何もしていません。それより、あなたは誰ですか」


 少女は俺をにらみながら、口にした。


 警戒されている。まぁ無理もない。


「…………君、いくつ?」


「なんで、私が見知らぬ人に年齢を言わないといけないんですか、それに質問に質問で返すなんて、常識がないんですか?」


 心が揺れている。相当、精神的損傷を受けていることがわかる。


 目先に広がる、灰と化した都市。間に合わなかったことは明白だ。


 てことは。


「そうか、君が生き残りか…………」


 そう口にすると、少女は怒りをむき出しにして、杖先をこちらに向けてきた。どうやら、怒りをかっていったらしい。


「あなたに私の何がぁぁ!!」


「遅いな」


 俺は瞬時に少女の後ろに回り込め、杖を持つ右手を抑え込んだ。


「なぁ、はやい!」


「ゆっくりと、おやすみ」


 がら空きな首元に強烈な一撃を素早く、当てる。


「なぁ!?」


 そのまま少女は眠るように気絶した。


「悪く思わないでくれよ」



 ぱちぱちと鳴る焚火の音、心地よく、心が落ち着く。


「はぁぁぁ!?」


 その心地よさに違和感を覚え、目が覚める。


「目が覚めたか」


「…………なぁ!?お前は!!」


 私は咄嗟に杖を取り出そうとするが。


「あ、あれ?つ、杖は…………」


「杖なら、俺の手の中だ」


 見知らぬ男は右手で私の杖を見せる。


「返して、それは私のものだ」


「返したら、襲い掛かってくるだろ?それより、お腹すいてないか?鍋を作ったんだが…………」


「お腹なんてすいて…………」


 っとケルンが言いかけたとき、「ぐぅ~~」音が鳴り響く。


「体は資本だ。何をなかをするにも、まずは腹ごしらえからだ」


 ぐつぐつと鍋が鳴いている。鉄でできた器に見知らぬ男はよそって、私に器を持ってくる。


「ほら、食べろ」


「毒とか…………」


「入ってるわけないだろ。なんなら、この場で俺が食べてやろうか?」


「…………いただきます」


 ゆっくりと、口に運ぶと。


「お、おいしい…………それにあったかい」


 心の芯から温まっていくのを感じる。私は次々と口に運んでいった。


 おいしい、おいしい、おいしいよ。


「うぅ……あ、あれ」


 瞳から涙が垂れる。別に泣く理由はなかったはずなのに、涙が止まらない。


「ど、どうして…………」


 何度も涙を拭い、それでも止まらない。


「お前の身に何があったか知らないが、泣きたいときは泣いておけ。もし、泣いている姿を見られたくないなら、俺の胸の中でも泣いてもいいぞ」


「…………な、何言ってるの」


 何を言ってるのか、よくわからなかった。でも、励ましてくれていることはわかる。


「まぁ、あれだ。まだ若いんだし、たくさん泣いて、吐き出しておけってことだ。おれがいえたことじゃないけど」


「おまえ、いったい何なんですか、もう…………」


 少し気が緩むと、さらに涙が出そうになる。叫びそうになる。


 すべてを吐き出せば少しは楽になれるのかな。


 涙をこらえるも、また涙が出そうになる。


 ダメだ。泣いちゃう、泣いちゃうよ。


「あ、あの…………」


「うん?」


「少しだけ、胸を貸してもらえないでしょうか…………」


 顔を赤らめながら、恥ずかしそうに口にしてしまった。


「…………ああ、いいよ」


 その一言が聞こえてた瞬間、私はすぐに見知らぬ男の胸に飛び込んだ。


「ぐへぇ!?思ったより勢いが…………」


「どうして、どうして…………死んじゃったの…………お母さん、お父さん………カルマ…………うぅ、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私はすべてを吐き出すように慟哭どうこくした。


 初めて、人の前で泣きじゃくったかもしれない。


「…………」


 胸の中でも泣き続ける私、見知らぬ男はそんな私の頭のそっと添えながら撫でてくれた。


 しばらくして。


「少しはスッキリしたかな」


「あ、はい…………」


 ダメだ。顔が見れない。なんで、私、名前も知らない人の胸であんなに泣いちゃったんだろう。


 押し寄せる恥ずかしさを後悔に心がかき乱される。


「元気が戻って何よりだ。さてと、食事の続きをしようか」


「あ、わ、わかりましたです」


「うん?」


 頭をかしげる優しい人。私は食事中も顔を見ることができず、目を瞑って食べた。


「さてと、食事も済んだし、まずはそうだな。自己紹介でもしよか」


「そ、そうですね」


 いま私たちがいるのは、洞窟の中。耳を澄ませてよく聞くと、雷の音や強く打ち付ける雨の音が聞こえてくる。


「俺は、新藤エイジ。まぁ、あいこち旅をしている」


「シンドウ?エイジ?不思議な発音ですね」


「まぁ、そうだろうな。普通にエイジと呼んでくれると助かるよ」


「では、エイジさんと呼ぶことにします。次は私ですね。私はアルカ。アルカ=アルフィート。アルカと呼んでほしいです」


「アルカか……いい名前だ」


「あ、ありがとうございます」


 どうも、今の私はおかしい。エイジさんの前だと、なぜか、顔が見れない。それどころか、所々口調がおかしくなる。


 ああ~顔が熱い!なんなの、この感覚。


「…………さてと、早速だが、本題に入ろう」


 エイジさんが真剣な表情でこちらを見つめた。その雰囲気に当てられた私も恥ずかしさが一瞬で消し飛んだ。


「俺はこの後、灰と化した都市に向かうけど、ケルンはどうする?」


「……………………私は」


 私は何をすればいいのだろう。目的はある。やるべきことは理解している。でも、今の私には、その目的を達成するための道しるべがない。


 そうか、今の私は何も知らないんだ。そもそも、私は世界を知らない。山岳に覆われた都市は山岳の向こう側に行くことがまずない。


 なら、私がまずやるべきことは。


「うん。私も都市に向かいます」


「そうか、なら、雷雲と豪雨がやみ次第向かう。その間、しっかりと、体力を回復させておけ」


「はい!!」


 これが、エイジさんとの初めての出会いだった。




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