第2話 復讐を誓う少女

 業火に包まれた発展都市『クリスタリア』。漂う死臭が風に乗って、散乱し、聖騎士パラダインは高らかに笑った。


「滑稽!実に滑稽!!この程度とは、発展都市と聞いてあきれるわ!!」


 気分が薬物を決めた時ほど高揚しているのがわかる。ただ、笑い、そこらへんに転がる焼けた死体を踏み潰す。


「しかし、いつ聞いても、ゴミ共の泣け叫び、命乞いをする声は飽きんな。一部、勇敢なものもいたが、所詮はゴミ。われの敵ではない」


「また、派手にやらかしたわね」


「うん?なんだ、来ていたのか。アラクネ」


「偶然よ、ちょうど通りかかったの。それより、よくもまぁ飽きないわね」


「飽きるはずがあるか!いついかなる時も、ゴミ共の声はわれの心を突き動かす!!」


「ふぅ~~ん。私にはわからないわ。それより、その右手に持っている、三つの生首は何?あなた、そんな変な趣味あったっけ?」


 アラクネは聖騎士パラダインの右手に注目した。


 男性二人と女性一人の生首。そのうちの一つはまだ幼いことが輪郭と大きさでわかる。


「これか?これはなぁ、今までにいい声を上げるもんだから、ついに持ってきてしまっただけだ」


「気持ち悪いから、捨ててほしんだけど」


「ははははっ!無理だ!!」


「……そう、じゃあ、わたしはさっさとお暇させてもらうわ。ここにいると死臭が服につきそうなんだもん」


「そうか!じゃあ、またな!!我はまだここでやることがある」


「やること?もうこの都市の住民は全員死んだでしょ?」


「いや、まだ一人生きている。我がこの都市を離れるのはそいつを殺してからだ」


「ふぅ~~ん、まぁ、ほどほどに頑張りなさい」


「頑張るほどのことでもない。これはただの作業だ」


 アラクネは右をかざすと、空間がゆがみ、ブラックホールのような穴が発生する。そのまま彼女はその穴へと入っていった。


「ふん、行ったか。では我は最後の生き残りを殺すとしよう」


 そして、聖騎士パラダインは私がいる方角へと目先を送る。私は、すぐに殺気に気づいた。


「……に、逃げないと」


 アルカは立ち上がり、逃げようとするも、後ろから歪な轟音が鳴り響く。


「どこへ行く気だ?」


 一瞬で私の目の前に現れた聖騎士パラダイン。その速度は音を置き去りにした。


「…………」


「なんだ、沈黙か。つまらん、少しは命乞いでもしてみたらどうだ?」


 声が出ない。足がすくんで、力が入らない。いま私の目の前には死が立っている。


 ああ、私はここで死ぬのかな。


「つまらん。つまらん。つまらん。少しはこのマシなゴミのように命乞いをしてほしんだが」


 そう言って、聖騎士パラダインは右に持つ生首三つを私に見せてきた。


「え…………」


 恐怖で声が出なかったはずなのに、反射的に声が漏れる。


「おっ、反応があったぞ。もしかして、このゴミ共の知り合いか?」


 お母さん?お父さん?


 目の前に見たくないものが視界に入る。それは、お母さん、お父さん、そして弟の生首。


「あっあああ…………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 信じたくない。見たくない。そんなぐちゃぐちゃな感情が私をかき乱す。


「…………ふん、良い反応だな」


 聖騎士パラダインはそんな絶望に溺れる私を見て、不敵な笑みを浮かべた。


「…………良いことを思いついたぞ。われは貴様を生かしてやろう」


 この人は……いやこの化け物は何を言っているの。


「貴様は殺すよりも生かしたほうが苦しみそうだ。よかったな、我が目の前にいるゴミを生かすなんぞ、そうないからな。貴様は運がいい」


 私を殺さない?私は生かされた?


「それではな、もしまた会うことがあるのなら、われの手でむごたらしく殺してやる」


 そう言い残し、聖騎士パラダインは私に背を向けて、超人的な脚力で蹴り上げ、その場を去った。


 その後、私が住んでいた発展都市『クリスタリア』から燃え盛る業火を治めるように、雷雲と豪雨が天から降り注ぐ。


 一瞬のうちに、鎮火していく。そんな様子を眺めながら、私は…………。


「どうして、私は生きているの…………」


 お母さんもお父さんも弟も殺されて、私が住んでいた都市が一瞬のうちに、灰と化した。


 何が魔法使いになるだ。お母さんのように優しい魔法使いになる?お父さんみたいに強い魔法使いになる?


 弟を守れる魔法使いになる?


 バカみたい。


 夢は所詮、夢だ。いざという時に何もできなきゃ、ただ憧れて、夢を追いかける一人の人間でしかない。


 私が強ければ、何か変わっていただろうか。私が『クリスタリア』に残っていれば、何か変わっていただろうか。


 虚しい。悲しい。弱い自分が憎たらしい。でも、それ以上にこのうちに秘める怒りが私の心を搔き立てる。


「殺そう…………」


 優しい私はいらない。夢を追いかける私はいらない。


「殺そう…………殺そう…………」


 今までの私をすべて捨てよう。この怒りに全てを委ねよう。


 私はゆっくりと立ち上がり、空を見上げる。


「私からすべてを奪った、あいつを殺そう…………」


 そのために、私は使になる。


 誰にも負けない。誰からも恐れられるそんな魔法使いに。


 強く握りしめる両手から血がぽたぽたと垂れる。


「待っていてください。あなたは私が必ず、殺しますから」


 その瞬間、雷雲が激しく轟き、さらに雨が強く打ち付けた。


 私はこの時、復讐することを胸に誓った。


 すると、後ろから足音が聞こえてきた。


 ここにはもう私以外にいないはず。


「そこで何をしている」


 私は勢いよく後ろを振り返ると、そこには見知らぬフードを被った男が立っていた。

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