第五十話 負けない
こいつら俺の速度についてきやがる。
ヴァンはチーターのような魔獣相手に少し困っていた。
「ぶちゃけ一体だけなら楽なんだがな」
チーターのような魔獣の一体だけではなかった。
なんと二十体近くもの数がいた。
その数の魔獣にヴァンは囲まれていた。
「こういう奴らはトウカ嬢ちゃんのほうが得意だろうに俺は一対一のがいいんだが」
ヴァンの鉤爪よる戦闘スタイルは相手に合わせて自分の得意を押し付けていくスタイル。
数が多いと面倒なのである。
しかも今回は
「この黒いモヤモヤ邪魔だなおい!」
ヴァンの攻撃はすべてこの魔獣を操っているだろう黒くモヤに阻まれていた。
それが余計にヴァンを苦戦させる原因になっていた。
雷爪じゃなくてもう別の魔法に切り替えるか?だがそしたらこいつ等のスピードに俺がついて行けなくなる。
数が多くて苦戦するならとりあえず一体倒すか。
ヴァンは魔獣達を相手にしながら考えていられる余裕があった。
いくら困って苦戦していたとしても最強の猟兵団オル・イーターの団長の手はこの程度では止まらない。
エニグマ帝国の元帥閣下であった親父と違った道で皆を守る。
そう決めてエニグマ帝国の兵士から猟兵なんてものになった。
昔自分の無力さを感じたリアラの怪物との戦い。
親父に全部任せておくしかなかったあの戦い。
一切ついて行けずなにも出来ない不甲斐ない自分。
その時自分と同じように感じたバカ者達と一緒に猟兵団オル・イーターを作った。
もっといろんなものを知って自分に出来る自分だけの強さを得ようとする為に。
それから月日がたっていきオル・イーターは最強の猟兵団なんて言われだした。
だが初期からいる連中は自分含めて最強の猟兵団なんて言われても満足出来ていなかった。
それも当然であった。
上には上がいる自分達はまだまだ怪物を相手するように出来るまでむしろ自分達の猟兵団だけで怪物を倒せるように強くなると考えていたから。
その考えに引っ張られるように所属するメンバーもどんどん強くなっていた。
そしてエニグマ帝国最強の軍団は近衛騎士や兵士、軍ではなくヴァン率いるオル・イーターとなった。
親父とは猟兵になったことで今だ喧嘩するが一つ同じ思いを共有してはいた。
それはヴァンの家系が代々受け継いだもの自分を貫き通せと。
何があろうとも自分の考えていたことを曲げるなとやり通せとヴァンの家系エニグマ帝国の最古から存在するとされるアンセン家の考えであった。
ヴァン・アンセンもその親父も歴代のアンセンのもの達は皆意思を通すもの達であった。
ヴァンの意思は今だブレていない、自分が守ると決めたもんは全力で守ると。
今回は親友たるゲントとの約束がある。
また帰ってあの酒場で飲むんだよ。
「貫け『槍爪』」
ヴァンは魔法によって爪を切り替える。
さっきまでの爪とは異なり貫通力に特化させた爪。
黒いモヤなんかで防げるなんて思うなよ。
この爪に威力はない、ただ貫くだけのものだが生物は心臓を貫かれたらそれだけで命を散らしてしまう。
威力なんてものはいらない。
こればっかりはそういう技術。
本来は戦闘で使うつもりはなくそんな用途で作った魔法でもなかったがヴァンの持つ魔法の中で最も殺傷力がある魔法になった。
ただ目印をいろんな所につける為に作った魔法だったのに。
「それそこ!」
「……………………」
「まずは一体だな」
魔法を切り替えて動きヴァンの動きが遅くなった所に不要に近づいた一体が心臓を貫かれた。
「お~操やれていても本能的に警戒は出来ちまうのかね。この一体みたいに不要に近づてくれたら楽なんだがな~」
まっしゃあない黒モヤも貫通して倒せるのがわかったからいいか。
「そら来いよ!!操られた魔獣共。しっかり介錯してやるからよ」
そのヴァンの言葉に反応したのか一斉にヴァンに突撃していく魔獣達。
「そらそらそらそらそら」
ガンガン貫いてくヴァン、時には魔獣の攻撃に回避がギリギリになるため魔法を切り替える。
『雷爪』
雷爪に切り替えスピードを上げそして回避していき隙を見つけてはもう一度切り替える。
『槍爪』
さらに一体魔獣の急所を一撃で貫いていく。
どんどんそれを繰りしていく。
そして
「始めに俺の雷爪を躱したお前で最後だな」
ヴァンは最後の一体も今度は回避させず一撃で狩り終えた。
そしてその時のヴァンの表情は魔獣達よりも獣じみていたという。
◆◆◆◆◆◆
トウカは上空にいるワイバーンと火球の撃ち合いをしていた。
何回も何回も。
何回も何回も。
何回でもうつ。
「絶対落としてやる」
トウカは途中からムキになっていた。
その場から動かずワイバーンに向かって火球をうち続けていく。
火球で勝って絶対に上空から引きずり降ろすと。
トウカがムキにならず火球にこだわらなければ本来ワイバーンくらいなら簡単勝てる。
だがそれをトウカは許さなかった。
自分に向けて放たれた火球を同じ火球で向かいうったにも関わず相打ちだった。
トウカは別に崩炎の名前にこだわっている訳ではないが自分を表す象徴のようなものだと認識していた。
イフ崩国では国内最強の王女であり世界で最強の炎の使い手として崩炎などと呼ばれている。
呼ばれだしたのはいつ頃だろうか?
自分の知らない間にそう呼ばれていだしていた。
それがさらに知らない間に世界的な自分の愛称にまでなっていた。
世界で皆が認めていたのだ。
イフ崩国の現王女トウカ・ファン・ロコウは炎の魔法において一番の使い手であると。
その最強の炎の使い手としてワイバーン程度の火球には負けられないと。
自分と同じように炎の使い手達の代表として。
「火球をもっとデカく作って圧縮して」
あいつの火球が威力が高いのは一点に威力を入れているから。
なら同じように私も一点に集中する。
トウカは作った火球をどんどん圧縮していく。
「炎の使い手として負けられない」
他の炎の魔法を使うのはなし、ただの火球一つでもワイバーンには負けない。
私の渾名は崩炎すべてを崩す炎の使い手。
圧縮した火球は今までとは異なり圧縮した分今までの火球より一回り小さい。
「これで終わり」
今までと違い圧縮されたトウカの火球は同じように放たれたワイバーンの火球を撃ち抜きさらにワイバーンまでも撃ち抜いていた。
「私の勝ち」
トウカは火球で撃ち抜いたことで満足そうに微笑んでいた。
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