第四十三話 炎

「サリシア様こちらの方々の検査は終わりました」


「こちらもチェック完了です」


「うん、ありがとね。皆のおかげで随分と楽ができるよ」


 あれから数日

 北門にはサリシアの指示を聞きながら治療を行う修道院の者たちが来ていた。

 サリシアとザイトの応援要請に答えてサルマニアの各地から北門に来ていたのであった。

 回復魔法で体は治るとは言え安静にできるときはしておいた方がいい。

 その為に各自検査を行っていた。

 死線を彷徨った者たちなど特に。


「ラルクは最低でもあと一週間は安静だからね」


 今サリシアは大怪我を負ったラルクの検査をしていた。

 一命を取り留めたラルクの外傷はこの数日の回復魔法によってほぼ完全に治っていたが無理させるつもりはなかった。

 サリシアの想像以上にラルクの体はガタガタで生きて今息があるのが奇跡的なレベルであった。


「生きているだけでいいさ」


 こっちに来てから嫌な予感がずっとしていたし王子の直感で死ぬぞなんて言われてたおかげであの爆発にも耐えるように自分を守っていたのが功を奏した。

 それでもギリギリだったしサリシアがいないと多分死んでいたけど………


「うん良し、これなら次は私が診なくても大丈夫かな」


 ラルクはもう私じゃあなくてもいいね。

 次からは別の人に頼もう。


「さてさて次は」


「サリシア嬢少しいいかな?」


「ザイト王子どうしたの?そっちの仕事は」


 ラルク達怪我人の検査をしている所にザイトがやってくる。

 ザイトもキオとの戦いで肩をやられたが行動するのに支障はなく北門の管理に勤しんでいた。


「こっちは一段落着いたさと言っても本当に一段落だからすぐにでも次の仕事に取り組まなければいけないがな」


 ザイトはこれからのことを考えて億劫な表情をしていた。


「サリシア嬢すまないが北門から一旦首都に帰ってもらいたい」


 ザイトは各種の連絡の中聖刻の間での決定を聞いてサリシアに首都に行ってほしいと頼みに来ていた。


「なんで?まだ診てないといけない人達が何人かいるんだけど」


「エニグマ帝国からヴァン殿がイフ崩国からトウカ嬢がサルマニアにやってくる。怪物討伐の為にな」


「えぇ本当に!!!嘘じゃないよね」


「リアラの怪物を野放しにするくらいならと帝国の王と崩国の女王ともに自国の最高戦力を派遣してくれた」


 ちなみに協力にあったて連合と連邦の王が仲介してくれたそうだ。

 聖刻の間での出来事を聞いたザイトはさらにその話を掻い摘んでサリシアに話したザイト。


「なるほど」


 てことは何が何でも討伐しろってことか。

 まぁ操るのが怪物特有の能力的なものだとしたら絶対面倒な事が起きるだろうし王様達は素早く討伐したいか。


「それに北門には追加の人員としてリリー院長も来るからもうサリシア嬢が皆を指示して診なくいいぞ」


 リリーが来るんだ、ならもう大丈夫かも。


「うーん、そういうことなら首都に戻ろうかな。ヴァンはともかくトウカちゃんは危ないし」


 サリシアは昔会ったヴァンとトウカの事を思い出していた。

 ヴァンは猟兵部隊の子たちの怪我の治療でトウカは国同士の会合の護衛としてついて行った時にサリシアは二人と会っていた。


「ヴァンはサルマニアに来ても観光だって言ってどうせぶらぶらしてるだけだと思うし大丈夫だと思うけどトウカちゃんは何かあるたびにとりあえず燃やそうとするからな~」


「そうだな、ついた名前が崩炎だからな」


 …………急いでほうがいいかな。

 なにも燃やしてないといいけど。


◆◆◆◆◆◆


 ある日の暗がり

 そこで数名の人間が一人の少女を囲んでいた。

 

「…………邪魔」


「真夜中にそんな小綺麗な格好をしてこんな所にいる時点で今がどんな状況か分かっているだろうに」


 暗がりの場所はある山の中

 そこで少女は囲まれていた。

 囲んでいる者たちは明らかに盗賊であろうと思われる装いをしていた。


「だから言った……邪魔って」


 あなた達みたいな人は邪魔なのと盗賊達に宣言でもするようないい回しで言い放つ少女。


「あなた達みたいな人は私が燃やしても怒られない。むしろ感謝される」


「俺達を燃やす?何言ってんだ嬢ちゃん」


 盗賊達は少女に言われた事が理解出来なかった。

 随分と小柄な体格をし幼い顔立ちに腰まで伸びている髪まるで人形のように見える少女の発言に。

 自分達を燃やすとはこの少女は何を言っているのかと今がどんな状況か分かっていないのかと?

 だがそんなことを盗賊が考えている暇を少女は与えなかった。


 パチッパチッパチッパチッ


「なんだ?この音は」


「お、おいお前!足が」


「へ?」


 どころからか盗賊の内の一人の足元から火が燃えていた。

 そして足元が燃えている盗賊が燃えていることを理解する前にその火は一気に燃え上がった。


「うわーーーーあああーー」


「な、な、なんなんだ?」


「も、も、燃えている」


 足元が燃えていた盗賊は一瞬にして炎の包まれ燃え上り体が焼け焦げた。

 突然のことに盗賊達は困惑していた。

 だがこの盗賊の長だと思われる人物だけは正確に目の前にいる少女の言葉を思い出していた。

『あなた達みたいな人は私が燃やしても怒られない』


「お前何をしたんだ!!!!」


「何って?言ったはずあなた達を燃やすって」


 その日真夜中である山の近くに住む住人が山の一部が燃えていたと発言していた。

 その住民は少し遠くから山を見ていたが燃えていることがくっきりとわかるくらい大きな炎が燃え上がっていた。

 そしてその炎は天にまで登るように上にあがっていき消えていったと。


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