第三十九話 丸一日

「二人とも撤退したか」


「あぁ私達が盾糸や上層での爆発に気を取られている間にな」


 二人ともこの状況下でここぞとばかりに撤退しこの場を去るとはな。

 ラルクの盾糸が消えた状態では厳しかったが流石のあの二人もサリシア嬢の相手はしたくなかったとみるべきか。

 水源の力は想定外だったようだな。


「ザイトこれからどうする?二人が撤退した所をみるに他も終わっている可能性があるぞ」


 ザイトはビーダンの言葉を聞きながら周りを見渡して次の行動方針を考えた。


「そうだな。では動ける者達で周囲の監視と怪我人を運ぶように指示を出そう。怪我人の治療はサリシア嬢がすぐに見れるように一箇所に集めるようにしてくれ」


 了解したとビーダンと動くことの出来る兵

数人はすぐさま行動に移した。



◆◆◆◆◆◆


「この人は皮膚を治して、そっちの人はまず足からお願い。今右端にいる人達は骨の治癒から」


 思った以上に怪我人の数が多いけどまだ息がある人は助けることができそう。

 サリシアは一箇所に集められた怪我人に歯痒さを感じながら診て回り、ここに居る者達に指示を出し自身も数多く居る怪我人の治療に専念していた。

 サルマニアの者達は回復魔法を一切覚えていないというものがいない。

 分類は違えど皆が何かしらの回復魔法を一つは覚えていた。

 その為サリシアの指示を全う出来る者が動き隠して怪我人を治していた。

 それにしてもこの部屋全体に私が回復魔法が使えないのキツ過ぎる。

 早く私の中にある水源の魔力が全部抜けてくれないと満足に回復魔法すら使えない。

 水源の魔力を保有しているこの状態は丸一日は続くから我慢しないといけないんだけど

使う魔法が強くなりすぎて逆に人体に害が出る。

 上手く調整していかないと。

 サリシアは自身の今の状態を鑑みていつも以上に丁寧な治療を施していた。

 施していた相手はラルクであった。


「あの爆発に直撃したせいで体がぐちゃぐちゃだよラルク」


 ラルクに体には爆発によって吹き飛んだ様々な破片が体中に刺さり四肢は焼け焦げ体にギリギリくっついているような状態であった。

 ただ心臓を頭だけは何とか無事であった為か何とか一命を取り止めていた。

 あの爆発にとっさに心臓と頭だけは守った結果だろうことは見るだけでわかった。

 聖女と呼ばれているサリシアがいてさえ北門にいる者達の治療には水源の力が抜ける丸一日を要した。

 


◆◆◆◆◆◆


 

「ふ~〜」


「お疲れ様でしたサリシア様」


「何とか終わったよフィーリ王女。皆お疲れ様、治療は終わったよ~ありがとね」


「は〜」


「やっと終わったのか」


「疲れた〜」


 治療が始まって丸一日ようやく全体の治療の終わりをむかえていた。

 ここに居る者たちはほとんど休みなく回復魔法に神経を使っていたため治療が終わった瞬間に一気に気が抜けた。


「フィーリ王女そちら?」


「こちらも今の所なにも起きていません」


 あれから丸一日北門では動ける者達でどうにかして監視を行っていた。

 だが不気味なくらいなにも起きず一日が過ぎていた。


「やっぱり完全に撤退したかな」


「そう見てよろしいかと流石に相手はしたくなかったのでは?とお兄様とビーダン王子はお考えですね」


 北門全体の指揮にザイトが付き周りの各国への報告を北門に来ていたビーダンが担当していた。

 時期ガイカゼ公国の国王と言われているビーダンが国同士の会合に顔を出すことは世界的に有名な為ビーダンがサルマニアとの会合中に襲撃されたことは一定の信用を得ていた。

 ビーダン王子のその話に一切の嘘はないと。

 その報告で各国の王達が独自の動きを見せだしていた。

 サリシアから報告があった人を操る黒いモヤのようなものの話にサルマニアでリアラの怪物が現れたことは確定的ではないかと話が進んでいた。




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