第6話

 学校の庭に作られた東屋。

 そこのベンチでシリルは頭を抱えていた。


(ぐおぉぉぉ! なんか、ややこしい事になってしまった!!)


 原因は先日のイベント。

 結局、シリルは『人違いだ』とだけ言ってあの場から逃げた。

 下手に喋れば今後のイベントを崩しかねないと考えたからだ。


(なにか、上手い言い訳を考えておかねば!)


 そう決めて頭を上げると、赤いフードが見えた。

 エリテアのものだ。


 そのまま通り過ぎていくのかと思った。

 しかしエリテアはシリルの元へと歩いてきた。


「はぁー」


 エリテアはため息をはくと、シリルの隣に座った。


「……なんのようだ(え、なんで、マジでなんで?)」


 エリテアは遠くを見つめている。


「シリルは星々の終焉セレスティアルについて知ってる?」

「……いや、知らないな」


 星々の終焉セレスティアルは秘密結社だ。

 おおやけに活動しているわけじゃない。


 国側も不都合なことがあるため、結社について吹聴はしていない。

 一部の権力者たちが知っているていどだ。


 シリルの父などは知っているだろうが、シリルには何も伝えられていない。


「そうだよね」


 エリテアがは残念そうに呟いた。


「昨日、その星々の終焉セレスティアルにいるお父さんのかたきに会った」

「……それで?(そいつは違うんです! 『シュタイナー』の事は忘れてください!)」


 そもそも、なぜその話をシリルにしだしたのか。


 まさか、中身がバレている?

 いや、そんなはずはない。


 エリテアの鼻対策に、スーツには消臭機能まで付けている。

 身バレ対策はバッチリなはずだ。


「簡単に逃げられた。やっと見つけたのに……」


 エリテアの目からポツリと涙がこぼれた。

 泣くほど悔しかったのだろう。


「それは、残念だったな」


 こうなったら、なるべく早めに『本物の仇』に会わせて、誤解だと理解させるしかないだろうか。


 だがリスクがある。

 『本物の仇』の方は荒くれ者だ。

 いきなりエリテアに襲いかかるかもしれない。


 それならば、『シュタイナー』に言い訳させる方が――

 などとシリルが考えていると。


「次は絶対に逃さない。呪いの力を使ってでも……」


 いや、それは困る。

 今後も危ないイベントでは『シュタイナー』として介入するつもりだ。

 そのたびに呪いの力を使われては意味がない。


「い、いやいや。止めたほうが良いだろう。寿命を削ってまでの復讐。親父さんは望まないだろ?」


 エリテアの父は人格者だった。

 そもそも復讐なんて望んでいないだろう。

 ましてや、娘の命を削ることに賛成などしない。


「それは……そうだけど」


 エリテアは納得できないらしい。

 憧れた父親の仇だ。

 自分の命をかけても、復讐を成しとげたいのだろう。


 エリテアは、そうだ。と声を上げた。


「じゃあ代わりに、キミが力を貸してよ」

「は?」

「呪いの力の代わりに、シリルの力を貸して」


 なんでそうなるの?

 

 『シリル』というキャラクターとしては、ここは断りたい。

 エリテアに力を貸すなんてキャラじゃないからだ。


 だが、ここで断って『なら呪いの力を使う』となるのはもっと困る。


 諦めよう。

 ここはキャラを曲げてでも、良い返事をするべきだ。


「分かった。俺にできることなら手伝う」

「よし! 決まりだね」


 エリテアはシリルの手を取って、ぶんぶんと振るった。

 雑な握手だ。

 シリルはされるがままに任せる。


「それなら早速だけど、私とセレナちゃんとシリル。3人で『宝探祭ほうたんさい』に出るから」

「はぁ!?」


 『宝探祭』。

 それは字のまま。

 宝探しゲームだ。


 学校全体に隠された宝を見つける。

 その宝の合計得点が高いチームが優勝だ。


 そもそもは、新入生に学校の地理を把握させるためのレクリエーション。


 学校が舞台の普通の宝探し。

 しかし学校が普通じゃない。


 アーカディア魔法学園は、創立者の13人の魔法使いによって作られた。


 そして、それぞれの魔法使いが、あっちこっちに好き勝手に建物や研究室を作った。


 そのせいで、誰も学校の全体像を把握していない。


 中には危険なダンジョンと化している場所もある。


 しかも宝は他の生徒から奪い取れる。

 そのせいで学生同士の決闘も起きる。

 

 死者こそ出ていないが、数え切れないほどの怪我人が出ている。


 なぜそこまで学生たちが必死になるかと言うと、


「優勝して、校長に星々の終焉セレスティアルについて聞く」


 優勝者は校長に願いを叶えてもらえる。

 もちろん、何でもは無理だが。

 

 過去には、『学食一年分無料』とか『飛び級して学年を上げる』とかいう願いがあったらしい。


 そして、星々の終焉セレスティアルに関する情報もギリギリセーフなラインだ。


「それはお前の好きにすればいいが……俺は――」


 エリテアと一緒に出たくない。

 だって原作ではエリテアとセレナの二人で出場していた。

 二人の絆が深まる重要なイベントだ。

 それを邪魔したくない。


 遠くから百合百合フィールドを眺めていたい。

 そこにシリルが居ては空気をブチ壊すのだ。


 ギュッとエリテアがシリルの手を掴む。

 握手じゃない。

 ギリギリと締めつけられる。

 普通に痛い。


「約束したよね?」

「……はい」


 そうして、シリルは百合の邪魔をすることになってしまった。

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