第52話 謀略家2

 恵森さんを教室へと返す為、俺達は一度解散した後、再び合流して密かに集まる手筈になった。

 先に俺は、空き教室にて憩衣と合流し、外里を待っている時間なのだが――。


「憩衣……なんでそんな不機嫌な顔しているんだ? というか、何持ってるんだよ」

「ボイスレコーダーです。私はあまり外里くんのことを知りませんので、陰で累が虐められていたら大変です」


 今までそんな素振りなかったじゃないか……。

 大体、俺はそんな弱そうに見えるのか?

 まあ喧嘩でなくても、暴言を聞き流す程度の胆力は持ち合わせているつもりだったんだけどな。

 なんだろうな……今日は珠姫成分補給日だったのに、俺が引き離してしまったからか?

 でも、それなら木崎先輩に会いに付いてこようとしないだろうからなぁ。


「ボイレコじゃなくてそこはカメラだろ」

「カメラは珠姫がダメだと言っていましたので」


 ん? ああ、珠姫には一応会ったのか。

 というかカメラがダメって……さっき珠姫に少し怒ってしまったことが原因か。


「……あいつも気になっているのか」


 それなら参加すればいいのに、珠姫も素直じゃない。

 態々、ボイレコで話だけでも聞いておきたいとか、奥手すぎるだろ。


「んんっ……? あの……冗談ですよ。恵森さんが木崎先輩に対して円満に解決しなかった時用です」


 ああ、一旦解散していた間じゃなくて、俺と別れた珠姫が一直線に憩衣へと会いにいったのか。

 なんか……罪悪感。

 部外者だからと引き離したかった訳じゃなかったんだけど、そういう風に捉えたかもしれない。

 珠姫には後で、謝っておいた方がいいな。


「緋雨くん、ごめん……遅くなった。千沙さんにどうしてもお礼したいって言われちゃって」

「お、おう」

「今度、四人でご飯にでも行こうよ」


 ん……?


「いや外里。恵森さんはお前を誘っているんじゃないか?」

「え、でもお礼ならみんないた方が――」

「だったら解散する前に誘ってる。俺達は気にせず二人で行ってこいよ」


 変なところで鈍感になるんじゃねぇよ。

 むずがゆい……自分のことじゃないのに、非情にいたたまれない気持ちになる。

 外里は「そう? そうなのかな」と疑問視するような言葉を零す。

 見ている限り、どう見ても外里は恵森さんに惹かれているのだが、その逆はあり得ないとでも思っているのだろうか。

 まあ……自己評価低そうだしな。


「それで……本題に入ろう。外里、さっきのどういうことだ?」

「木崎先輩に、個人的な話があるって言ったこと……だよね。うん、その為に話したかった」

「個人的な話っていうのは、本当なのか?」

「ううん。むしろ、あの話の続き」


 だろうな。

 きっとあれは、恵森さんに気を遣わせないよう、関係のない話だと思わせたかったからだ。


「木崎先輩のこと……二人ともどう思ったのか、聞いていいかな?」

「率直に言えば、良い先輩だと思ったよ。逆恨みとかもしてこなさそうだし」

「私は……あまり信用していません」

「そうだよね。僕も同じく思ったんだ」

「どっちの意見と?」

「どっちも」


 いや、どっちもってなんだ。

 良い先輩だと思うけど、信用はできないということ……?


「あの先輩……あまりにも人が良すぎない? 正直、胡散臭いと思うくらいに」

「そうですね。友好的に見えますし、腹の内は見えませんが、過剰に優しいと思いました」

「待て待て。あの場には恵森さんがいたじゃないか。好きな女子の目の前で格好つけるくらい、木崎先輩だってするだろ」


 俺が庇うような主張をすると、二人は目を細める。


「一番に引っかかったのが、堀原さん達の母親の話かな」

「っ……あの話にはおかしい点はなかったと思いますが」

「内容におかしい点があるとは、僕も思わない。だけどさ……あれって話を逸らしてない?」

「……っっ、そうですね」


 憩衣が反論をしようとするも、外里の意見に共感を示す。

 俺は考えすぎじゃないか……と思いながら、木崎先輩に対する不信感がゼロという訳ではない。


「憩衣に対してあの話をしたのは――」

「多分、憩衣さんが一般選挙で不利な理由について、何か咎められたくなかったんだと、思う」


 生徒会選挙で憩衣が追い込まれているのは何も偶然じゃない。

 どう考えても作為的だし、その裏に何かあるのは分かりきっている。

 俺も疑問に思っていたことだった。

 木崎先輩が憩衣の意識を逸らそうとしたのは、彼がその裏に一枚噛んでいる……と考えることは、確かにできる。


「まだ……何も解決していないよ」

「外里……もしかして今度は俺達のこと、助けようとしてくれているのか?」

「どうかな。正直、そこに千沙さんが関わってくる可能性がないとは限らないから……っていうのが一番だし」

「いや、理由は二番でも充分だ。ありがとな」


 外里の目元は相変わらず見えないが、俺達のことまで考えてくれていたのは間違いない。

 改めて、外里は良い友人だと思った。


「それで、えっと……や、安栖さんが、憩衣さんの現役員推薦を乗っ取ったことが始まりなんだよね」

「ああ。安栖が会長の失踪に関わっていて、その結果会長の分の推薦票が無くなったから、安栖が選ばれ………………おかしい、な」


 言葉にしてみると、おかしい点に気付いた。

 俺は何か……勘違いしている。

 放置していた訳じゃない。ただ、一度納得してしまった。

 安栖の所為だってずっと思っていたけど、今考えるとおかしいのだ。

 そこで憩衣と目に合わせる。


「累……安栖さんの推薦奪取は――」

「ああ――憩衣にはまったく関係ないことのはずだ」


 他にも安栖が生徒会推薦を奪った一因には、憩衣のスキャンダルを利用できたから、などがある。

 そこにある動機も理解できるが、その過程でやはり生徒会長を排除する理由がわからないのだ。

 何故なら、現役員推薦は最低二名が推薦するだけで、通ってしまうのだから。

 そこに、安栖のメリットも――憩衣のデメリットも存在しない。

 俺はまさか……と考えながらスマホを起動してすぐに、とある物を確認する。


 そうして確信した――あの謀略家の、本当の計画に。

 最初から情報を整理していけば、これまで徹底的に隠されていた真実が見えてくる。

 友好的な悪党ほど、あくどい怪物はいない。

 ようやく――尻尾を掴んだぞ。

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