第14話
その日の夕方。蹴鞠を終えた雪丸たちが居間でテレビを観ていると、玄関から疲れ果てた信幸の声が聞こえた。
「ただいまー」
のすのすと随分と重い足取りで居間までたどり着いた信幸は一言だけ言うと、どさりと床に転がった。
「おかえりー」
「おかえり。面接、どうだった?」
疲れている様子の信幸に視線を向けながら問いかけると、信幸は右手をぐっと上げた。
「合格だってさ」
「へぇ、よかったじゃん」
「つかれてる?」
「たしかに、面接に行っただけなのに随分と疲れてるな」
信幸の衣装は普段の着物姿ではなく、TPOに合わせた綺麗目な洋装だ。しかし今朝はピシッと着こなしていたシャツは首元がよれ、全体的に随分と着崩しているように見える。
「いやぁ、女の子たちに絡まれてさぁ」
信幸曰く、面接を終えて帰路に着こうとコンビニを出ようとしたとき、運悪くも休日の部活終わりの女子中学生たちに囲まれ、もみくちゃにされてしまったそうだ。
「わー。さすがは和服も洋服も着こなしちゃうイケメン様だなー」
その状況を容易に想像できた雪丸は棒読みでそう言い放つ。
「
「そうですけど、なにか?」
まったくもってイケメンとは羨ましいものである。そこにいるだけで女子からキャーキャー言ってもらえるとは。雪丸は信幸に向かって小さく舌打ちした。
「俺がモテたばっかりに雪丸くんが反抗期に……」
「反抗期ではないわ」
ただの嫉妬だわ。雪丸はそう心の中でつっこんで、疲れて動けない信幸の分のお茶を入れに行った。
「はい」
机の上にお茶を置くと、信幸はのそのそと体を起こし、湯呑みに口をつけた。
「ありがとう。やっぱり雪丸くんは優しいね」
「優しいだけの男はモテないんだな……」
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃない」
大事なのは内面よりもやはり顔か、と失望する雪丸に信幸が慌てて謝罪した。
「でも、ほら、あれだよ。モテるとモテるで意外と苦労するよ? いろんなやつらに嫉妬されて嫌がらせを受けたこともある」
「へぇ、イケメンはイケメンで大変なんだな」
「まぁ、俺は陰陽師としての腕も良かったから、それで嫉妬の対象になったりもしたけど」
「ふぅん」
そういえば信幸以外に陰陽師なんて見かけないな、と思いながら雪丸はお茶を啜った。
信幸が悪さをする妖怪が減って陰陽師としての仕事が減ったと言っていたので、もしかしたら陰陽師という職種の人も減っていっているのかもしれない。
「ここら辺に信幸以外の陰陽師っているの?」
「うん? そうだな……俺の記憶ではいないな」
「やっぱりそうなんだ」
陰陽師という職種は今や絶滅寸前なのかもしれないな、と雪丸は思った。でももし信幸以外に陰陽師がいるのなら、少し会ってみたい気もする。信幸以外の陰陽師はいったいどんな性格をしているのだろうか。
「晴暁、俺は明日からバイトがあるから」
「わかった」
「えっ、明日からなの? さっそく過ぎない?」
服のよれを直して一息ついた信幸は、晴暁に声をかける。素直に頷いた晴暁だったが、雪丸はつい口を挟んでしまった。
「店長さんがさっそく明日から来てくれって。俺が面接を合格になったのも、コンビニで女の子に人気なのを見たからだろうし、俺で女性客を増やす気なんだろうね」
「イケメンで女性客を集客する気なのか……」
たしかに信幸ほどのイケメンがコンビニで店員として働いていたら、イケメン好きの女子は喜んで行くだろうな。やっぱりイケメンも楽じゃないんだなと、雪丸は少し信幸を憐れに思った。
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