〈46〉ツンデレってやつ……?

 勘違いされないよう、皆さんに一つ、伝えておきたいことがある。


 ボクは今ナデシコと、そして、目を覚ました妹と、ナーチャ王国内を探索しているところである。

 探索しつつ、生き残っていた獣人たちを蹴散らしているところである。


 いわゆる、残党狩りというやつだ。


 正直、この残党狩りについて、ナデシコは良い顔をしなかった。


 根が優しいやつだ。

 いくら憎き獣人相手であろうとも、命を奪うことが躊躇われるのだろう。

 しかし、彼女も一応は一国の王女だ。

 そして勇者でもある――――人の上に立つべき人間なのだ。


 すなわち――最も、人類の行く末について考えなくてはならない立場にいる人間――ということだ。


 ナデシコはそのことを、ちゃんと理解している。


 獣人が生き残っている限り、人類が再び栄えることは難しい。

 何かを生かすということは、何かを殺さなくてはいけない、という世界のルールに、彼女は従わざるを得なかった。


 嫌そうな顔をしながら、嫌とは言わず、ナデシコも残党狩りへと参戦した。


 ………………まぁ、参戦したは良いが、ボクとナデシコは、特に何もしていないのだけれど。



 さて、ここで冒頭に話した、皆さんに伝えておきたいこと、という言葉に繋がってくる。


 ええ……前回、随分と塩らしかったですよねぇ? ボクの妹。

 涙を流して、ボロボロ泣いて……とてもとても、塩らしくて、愛おしくて、可愛かったですよねぇ?

 しかしあれはですね? 状況が状況であったがゆえに、ポロッと出てしまった本音――――なのです。

 誰しも、本音は隠すもの、ですよね?

 はい。つまり、こういうことなのです。


「私は別にっ! シモにぃのことなんて、好きなんかじゃないんだからねっ!!」


 元祖【天下丿銃ホープガン】の力を、遺憾なく発揮し、残党狩りをしながら、そんな風に叫んでいるボクの妹――――師走花子こと、スー。


「勘違いしないでよねっ!」


 獣人達を、圧倒的な火力で蹂躙しながら、顔を真っ赤にして、前回の発言を必死に訂正しようとしている。

 これはこれで可愛いが……うーん……やはり、前回見せた、いじらしくて、儚げで、可愛いらしいスーの方が、ボクは好きだなぁと思ってしまう。


「シモ兄きいてる!?」

「はいはい、聞いてます聞いてます……」

「なによ! その、適当な返事は! ちゃんと心のこもった返事をしなさいよ!」

「はいはい、ボクは勘違いなんてしてません。スーはボクのことなんか好きじゃないんですよねー」

「そうそう。分ればいいのよ」

「……………………」


 こんなので満足らしい。

 とまぁ、こんな感じだ。お分かりいただけだろうか?

 スーは、普段はこんな感じなのである。


 昔は、あの素の表情がデフォだったのになぁ……。

 ボクと疎遠になったあと、スーがついていくようになった姉からの悪影響なのだろう。

 はぁ……。


「そ、それと……シモ兄……」

「なんだ?」

「わ、私のこと……その……呼んでみて……?」

「お前のことを……呼ぶ?」

「な、何でもいいから! さっさと呼びなさいよっ!」

「……? 師走花子」

「そうじゃなくてっ! その……ま、前みたいに……」


 ああ、そういうことか。


「スー」

「キャアァアーーッ!! シモお兄ちゃんが私のこと! 昔みたいに『スー』って呼んでくれたぁー! 嬉しぃー!!」


 めちゃくちゃテレながら、宙に浮かぶ数多のライフル銃を連射させ、獣人達を屠っていくスー。

 情緒不安定過ぎだろ……好意が隠せてないから。

 そんな彼女の様子を、ぽかーんと見ていたナデシコが、ひそひそとボクに耳打ちしてきた。


「ねぇねぇしーちゃん……」

「なんだよ」

「ちょっと……スーちゃんのことで、ピンときたんだけどね……?」

「スーのことで?」

「うん…………ひょっとしてさ、スーちゃんってさ……――――ツンデレってやつ……?」

「その言葉……こっちの世界でもあったんだな……」

「どうなの……?」

「まぁ……否定はしないな……」

「やっぱりそっかぁ……ふぅん…………それはそれで、有りだね」

「ああ……有り、だな」


 激しくナデシコに同意をするボクだった。

 心の底からの同意だった。



 さて、そんな訳で残党狩りは終了。


 大半、スーが撃破してくれたので、ボクとナデシコは楽ちんだった。

 ナーチャ城を見上げながら、ナデシコが言う。


「これで……ナーチャ王国は、戻ってきたんだね……」

「ああ……」

「この国に……生き残りはいるのかなぁ……?」

「どうだろうな……少なくとも、町にはいなかった」

「……だよね……」

「いるとすれば……このお城の中、かな……?」

「……だろうな…………入るか?」

「もち……」


「うおりゃあーーーーっ!!」


 もちろん、とナデシコが頷こうとしたその時、可愛いらしい物体が、ボクとナデシコの間に割って入ってきた。

 スーだった。

 頬を膨らました状態でスーは言う。


「私を置いて話を進めないでよ! すっごく寂しい気分になるんだからっ! もっと私に気を使ってっ!」

「おう……ごめんごめん」


 頭を撫でるボク。

 すると、瞬く間にスーの表情がふにゃける。


「べ、べつに、あたまをなでられて、嬉しいわけじゃないんだからね。む、むしろ、子ども扱いしないで欲しい、ものだわ! ふにゃあ〜」


 うん、出てくる言葉はツンデレだけど、頭を撫でられるのが好きなところは変わっていないようだ。

 よし、可愛い。


「いいか? スー」

「ふにゃ?」

「確かに説明不足だった。今からボクたちは、このお城の中を探索するんだ」

「おしろ〜?」

「そう、お城」

「たんざく〜? たなばた〜?」

「違う、探索。お城の中に、生き残った人間がいないのかを見て回るんだよ」

「へぇ〜そうなんだぁ〜ふにゃあ〜」

「…………」


 頭を撫でるとバカになるところも変わってなくて何より。


「探索しながら話すよ。この世界について、この世界の現状について、現状……ボクが知っていること、そして、このお姫様みたいなバカ……ナデシコが、知っていることを」

「おしえてくれるの〜? わ〜い、わかったぁ〜」

「うん、物わかりが良くて嬉しいよ」

「ふにゃあ〜」


 そんな訳で、ボクとナデシコとスーの三名でのナーチャ城探索がはじまろうとしていた。

 はてさて……生き残っている人間は、いるのだろうか?


「うーん……」

「どうしたんだ? ナデシコ。そんなに考え込んだフリをして」

「いや、フリじゃなくてね? 真剣に考えてるの」

「何を?」

「……ねぇしーちゃん……私って、バカなのかな?」

「バカだぞ」

「ひどいっ!!」


 …………そんな訳で、いざナーチャ城の中へ。

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