〈44〉これで勝負あり

 クイーン・スネークには、【脱皮治癒ホワイトスネーク】の他にもう一つ、力を持っていることは把握済みだ。

 なんせボクは一度この目で見ている。


 自らの身体を、紫色の液体に変化させる能力だ。


 その力について、ボクの認識は、それは奴の固有能力ではない、ということ。

 クイーン・スネークのというべきだろう。

 鼠の【原種】――――キング・マウスの行動速度が異常に速かったように、クイーン・スネークの身体が紫色の液体に変化できるのは、ある意味、身体能力の延長と考えることができる。


 これらの情報から分かること。

 それは、【原種】と呼ばれる獣人には、三つの能力を操るということだ。


 一つは、先程述べた、身体能力の延長線上にある『特性』。

 二つは、各々が持つ『固有能力』。

 そして三つ、星型水晶に封印されているであろう『アンドロイドの固有能力』。


 つまり、これら三つの能力全てを掻い潜り、攻略しなければ、【原種】に勝つのは難しいということだ。

 手強い相手である。


 しかし……こと、現在相対しているクイーン・スネークについては、もう見えている――――


 勝ち筋が。



「脱皮できても意味のない状況を作りだし……なおかつ、脱皮できない状況を作りだすこと? そんなことが可能なの? しーちゃん」

「ボクの力を持ってすれば可能だ。ただ……」

「ただ?」

を行うためには、ボクがクイーン・スネークに接近する必要がある。次に発動されるであろう、【天下丿銃ホープガン】の攻撃を掻い潜ってな……そこが難関ポイントだ」


 そこだけが、難関ポイントだ。


「ふぅん……」

「なんだよ……えらく薄い反応だな……。それがどんだけ難しいことなのか分かってんのか? 【天下丿銃ホープガン】の力の凄さは、お前さっき、その身で感じたはずだろう?」

「確かに凄いよ……あの攻撃。だけど――――」


 ナデシコは立ち上がった。

 自信満々の表情で、こう言葉を続けながら。


「今は、隣にしーちゃんがいるもん。私としーちゃんがいれば――――勝てない敵はいないよ」


 …………まったく……こいつは……。


「……見るに、左足の方は完治したみたいだな」

「うん! もうバッチリ! ぴょんぴょん飛び跳ねることすらできちゃうよん!」

「……ふん、相変わらず、すげえ力だ。……ん?」


 そうこう言っているうちに、ボクとナデシコは大きな影に気がついた。

 視線を上げると、空を覆い尽くすほどのライフル銃が、数多く浮かんでいる。

 もちろん、それらの銃口は全て、ボクとナデシコに向けられている訳だが……。


 不思議と、絶望感がわいてこない。


「……ナデシコ。お前の銀の盾フルパワーでも、【天下丿銃ホープガン】全ての攻撃を受け切るのは難しいんだよな?」

「うん……防ぐことは出来ても、身動きが取れなくなっちゃう」

「じゃあ……分断させたらどうだ?」

「分断? それなら多分……身動きが取れなくなることはないと思うけど……何か手があるの?」

「ああ……ある」


 先日――――新しい力を、手に入れたからな。



「【能力変神スキルメタモルフォーゼ】発動――――【分身操作インフィニティマウス】」


 ボクの身体が、八つに分身する。


「しーちゃんがいっぱい!? しーちゃんが増えちゃったっ!!」

「ちなみに本体はボクだ」

「八人のしーちゃんの内、一人が手を挙げて本体を名乗った! なんか怖い状況!!」


 大袈裟な反応をナデシコが見せるが、今はそれに付き合っている暇はない。


「この分身を使って、【天下丿銃ホープガン】の攻撃を分散させる。そうすれば、お前の銀盾なら身動き取れつつ防げるだろう?」

「あ! 確かに!」

「頼んだぞ、ナデシコ。ボクは、【天下丿銃ホープガン】の銃弾の嵐をまったく気にせず突っ込む。お前を……信じてるからな」

「…………うん!! 任せて! 絶対に、しーちゃんの身体に傷一つつけないから!」

「ふっ……言ったな……」


 ボクは、七体の分身とともに行動を開始する。


 おびただしいライフル銃の集合体……その真下にいる、クイーン・スネーク目掛けて。


 奴は言う。


「シャシャシャッ! 驚いたわぁ……その能力って、チュー太郎くんの力じゃないの。あなた――――そんなことも出来たのねぇ」

「何でもできるけど、何者にもなれないのが――――ボクの力なものでね!」

「なにそれ……意味分かんないから」

「分からなくて結構だ!」

「ふんっ……バカみたいに突っ込んで来ちゃって、格好の的ね。分身もろとも、蜂の巣になって死になさぁい――――【天下丿銃ホープガン】――砲撃開始よぉ!!」


 次の瞬間、宙に浮かぶ全てのライフル銃の引き金がひかれた。


 銃弾の嵐が、ボクとその七体の分身へと降り注ぐ。

 信じてるぞ――――


「ナデシコッ!!」

「任せて! ――――守れ! 【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】!!」


 ボクと七体の分身体の前、それぞれに、銀色の盾が出現。

 そしてその銀色の盾が、【天下丿銃ホープガン】の、嵐とも形容できる銃弾を受け止めている。


 …………これで理解した。


 キング・マウスは、分身体を銀色の盾で守らせることができなかった。

 クイーン・スネークが、恐らく全力で発動しているであろう【天下丿銃ホープガン】も――――スーの……本来の出力とは、程遠い。

 これらから分かること。それは――――



「お前ら――――全然! その能力を扱いきれてねぇなぁ!」


 ボクは進む、七体の分身体も進む。

 目の前には、信頼に値する強固な盾がある。

 それにボクは……

 本物の【天下丿銃ホープガン】は…………こんな物じゃない!


「いくらボクが、ばったもんの器用貧乏でも……! 妹の能力の力になんざ、負けない!!」


 ボクは、ボクの分身達は、クイーン・スネークの目前まで迫る。


「くっ! 小賢しぃ!! さっさと蜂の巣になりなさぁい!!」


 更に銃弾の嵐の出力を高め、ボクたちを押し切ろうとするクイーン・スネーク。

 だけど悲しいかな……そんなんじゃダメなんだ。

 それでもまだ――――【天下丿銃ホープガン】本来の力には、遠く及ばないんだ。


 ボクは、クイーン・スネークへの接近に成功する。

 攻撃の間合いだ。


「くっ!」


 奴は当然、紫の液体化をしボクたちから距離を取ろうとする。


 その瞬間を待っていた。


「【能力変神スキルメタモルフォーゼ】発動――――――【天地鳴動アースマスター】」

「シャッ!? な、何よこれぇ!?」


 身体の半分を液状化させている途中のクイーン・スネークを、カチコチに凍らせるボク。

 こうなると、クイーン・スネークは液体化できない。

 凍ってしまうと、当然――――脱皮もできない。


「……っ! なるほどねぇ……そぅいうことかぁ……やられたわぁ……」


 すぐさま冷静になり、自分の置かれた状況を分析し尽くしたクイーン・スネーク。この辺りの思考回路は、正に、強者のものだ。

 そう、この状況下では、奴は既に詰んでいるのである。


 自らの敗北を悟り、徐々に身体が凍っていく中で、クイーン・スネークは言う。


「これであんたは……【十二神獣】を二体撃破した、第一級お尋ね者となった訳ねぇ……気の毒だわ」

「気の毒……?」

「えぇ……あなた達、アンドロイドとやらにも、序列が存在するように……私達【十二神獣】にも、序列が存在する……あなたが倒した私とチュー太郎くんは、その序列下位……くれぐれも、二連勝したからといって、油断はしないことねぇ」


 ……余計な忠告だ。


「……油断なんてしないし、誰が強いとか、誰が弱いとか関係ない。ナデシコと、彼女の国に危害を加えようとする者は、全て平等に敵で、ボクが倒すべき敵だ。ボクはもう――――



 自分の弱さから、目を逸らさない」



 ボクのその言葉を聞き、クイーン・スネークは「シャシャシャ」と笑った。


「かっこいい男じゃないの……あーあ……私の、コレクションに……した、かっ、た、なぁ…………」

「…………」


 これが、クイーン・スネークの最後の言葉となった。

 完全に氷漬けとなった彼女にはもう、瞬き一つない。

 さて……トドメといこうか。


「おやすみ。クイーン・スネーク」


 ボクは全力で、凍りついたクイーン・スネークを殴り粉々に砕いた。

 これで勝負ありだ。

 空を覆っていた、おびただしい数のライフル銃が消えていく……。


 こうして――――ボクとナデシコ、初の共同戦闘は、ボク達の勝利という形で幕を閉じたのであった。

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