〈41〉奇跡を起こすためには

 八万のライフル銃から降り注ぐ、銃弾の雨。

 銀盾ちゃんに守られていてなお、衝撃を感じ、その威力の凄まじさを知る。

 しーちゃんが顔を青くさせるのも分かる。


 これは……桁違いだ。

 申し訳ないが、これを見てしまったら、この馬鹿げた威力の攻撃を一度受けてしまったら、断言できてしまう。


 確かに、しーちゃんは強い。

 キング・マウスも強かった。

 そして、クイーン・スネークも厄介だ。

 けど――――


 この力に比べたら……そのどれもが、スケールの小さいものに思えてしまう。


 防御に特化した私の【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】では、防ぐことはできても、身動きを取ることすらできない。

 反撃だなんて到底不可能だ。

 どうする……? どうしよう……?


 これが――しーちゃんの妹の力。


 これが――――



 アンドロイドと呼ばれるモノの力。


 確かに……絶望してしまいそうになる。

 だけど――


「私はもう! 負ける訳にはいかない!!」


 銃弾の雨の圧力に押され、地面にめり込んでいっているならば好都合だ。

 地面の中、それ即ち――――クイーン・スネークの死角。

 だから、地面の中を掘り進めばいい。


 防御力が少し落ちるのが怖いが、一箇所にまとめた巨大な銀盾ちゃんの中から、一つの銀盾ちゃんを取り出し、自由にさせる。

 その取り出した銀盾ちゃんをドリルのように変形させ、回転させる。

 これで、地面を掘って移動を……。


「っ!?」


 その作戦を行動に移そうとした、その時、銃弾の雨を防いでいる巨大銀盾ちゃんが、みしみしっ! と音を立てた。

 信じられないことに、ほんの少しだが、巨大銀盾ちゃんにヒビが入った。

 ウソでしょ? 銀盾ちゃんを一個取り出しただけだよ? それだけで、ヒビが入るの?

 私が、防御特化形態である、巨大銀盾ちゃんに?


 デタラメな攻撃力だ。


「……! 時間がないってことね。早くしないと……!」


 私は作戦を行動に移す。


 銀盾ちゃんドリルで、地面の中を掘り進む。

 出来る限り、深く。

 どこまで、掘り進むのか?

 広範囲の空に、あの八万のライフル銃は広がっていた。どこから出ても、狙い撃ちされるに違いないだろう。

 しかし今、その八万のライフル銃の全てが、巨大銀盾ちゃんの方へ集中攻撃を行っている訳だ。

 即ち、少しでもズレた箇所へ移動できれば、ライフル銃全てが方向転換せざるを得ない。

 つまり――一秒未満かもしれないが、隙が生まれる。

 その僅かな隙をつく。


 針の穴ほどの、眉唾物の作戦ではあるものの、これしかない。

 だって、あの巨大銀盾ちゃんの下で待っていたって、状況は何も好転しないのだから。

 奇跡は……おきないのだから。

 奇跡を起こすためには、動かなくちゃならない。


 私が――――奇跡を起こすんだ。


 地上に出たら、即狙うべきは、クイーン・スネークの持つ星型水晶だ。

 アレを破壊すれば、【天下丿銃ホープガン】の能力を封じ込めることができるはず。

 【天下丿銃ホープガン】さえ、使用不可にしてしまえば、他に手はいくらでもあるのだから。


「…………このくらい進んだら、大丈夫かな……?」


 結構掘り進んだところで、私は一時停止をする。


 大丈夫、地上に出ても、クイーン・スネークの居場所さえ大きく外してさえしなければ、【天下丿銃ホープガン】の攻撃は止まるはず。

 クイーン・スネークも、蜂の巣になりたくはないだろうから。

 自らに危害が及び得る状況下では、攻撃態勢を整えざるを得ないことだろう。


「……よしっ!」


 私は、今の場所から地上へ出ることに決めた。

 銀盾ドリルちゃんを、上目掛けて掘り進めはじめる。


 クイーン・スネークの居場所は、腐敗した土が教えてくれている。

 彼女が立っている場所はここだよ――――と。


 勝負は一瞬。


 私が地上に出ようとする、その直前、凄まじい轟音が聞こえ、巨大銀盾ちゃんが破壊されたことが察せられたが、今はこの奇襲攻撃に、全神経を集中させるのが最優先だ。


 念には念を……だろう。

 巨大銀盾ちゃんが破壊されてなお、剥き出しとなった大地に向かって、八万のライフル銃は攻撃を続けている。

 好都合だ。


 その用心深さが――――



「命取りになることもあるのよ!! クイーン・スネーク!!」

「シャッ!?」


 地上に出て、完全に背後を取った私。

 驚愕の表情を浮かべるクイーン・スネーク。

 よもや、地面の中を掘って進んでくるとは、思いもしなかったのだろう。

 相手の思考の外からの攻撃――――それを奇襲と呼ぶのだ。


 私は、即座に銀盾ちゃんドリルで、クイーン・スネークの身体を貫き、大きく抉った。


「シャギャアァアァアアァアーーッ!!」


 この程度の傷では、彼女の力【脱皮治癒ホワイトスネーク】で、回復されることだろう。

 倒しきることはできない。

 だけど、これでいい!


 ほんの数秒――――クイーン・スネークの動きさえ止められれば……。


 星型水晶を壊す――――その邪魔さえ、されなければ……。


 ふわふわと、宙に浮かんでいる星型水晶目掛けて、銀盾ちゃんドリルを振るう。

 よし! これで【天下丿銃ホープガン】の無力化に成こ……。


「させる訳ないでしょお……?」

「っ!?」


 ガクンッ! と、私の身体が左側に傾いた。

 それがゆえに、星型水晶目掛けて振るった銀盾ドリルちゃんが空をきる。

 一体何が起こったのか?


 それは、自らの左足から響いてくる激痛により、理解できた。


 左足のふくらはぎから下が――――のだ。


 ドロドロに溶けて――――なくなったのだ。

 だからバランスを崩した、当然のことである。


 一個しかない銀盾ちゃんをドリル形状にし、攻撃に回していたツテが回ってきた。


 この時の私には、身を守る術がなかったのだ。


 無防備がゆえに、クイーン・スネークは、容易く私のふくらはぎを掴んだ。

 だって――――彼女はまだ、死んでいなかったのだから。


「蜂の巣にするより先にぃ! 私の毒で死になさぁい!」


 毒液化するクイーン・スネーク。

 紫色のドロドロとした毒液が、私を包み込もうとする。


「くっ! 銀盾ちゃん!!」


 私は、やむを得ず、ドリルにしていた銀盾ちゃんを、通常の盾形状に戻し、全身を覆わせる。

 全身が毒に犯される危機は防いだものの。


 すぐに――次なる危機が遅いくる。


 絶望的な――――攻撃が。



 銃弾の嵐が。


「あ……集まって!! 銀盾ちゃん達っ!!」


 即座に、先程の銃弾の雨で粉々になった銀盾ちゃん達が瞬間移動をして、八万のライフル銃と私の間に現れた。

 粉々な銀盾ちゃんが合体し、新たな巨大銀盾ちゃんを創り出す。


 それと同じくして、八万のライフル銃が再び攻撃を開始。


 防げはするものの、やはり押される。


「ぐ……ぐぅぅ!!」


 もって……巨大銀盾ちゃんっ!


 しかし、今回は上からの攻撃ではなく、横からの攻撃に近い。

 ゆえに、押された場合、巨大銀盾ちゃんが倒れるのは、当たり前のことであり、自然な流れであった。


 このままだと、私は、巨大銀盾ちゃんに押し潰されてしまう。


 何とか……何とかしなきゃ!


 またドリルで地面の中を……ダメだ! それはさっきの奇襲でクイーン・スネークに警戒されているはず。

 潜っている最中に、大地全体を毒に犯されたらどうしようもなくなる。

 じゃあどうする!?

 考えろ! 私はどうすれば、この状況を打破できる!?


 考えろ! 考えろ! 頭を振り絞れ!!


 私は――――



 絶対に! この戦いを勝たなくちゃいけないんだから!!




「素晴らしい――その折れない心の強さが……お前の最大の武器だ」


 え……?


 突然……そんな声が聞こえた、その時――――


 巨大銀盾ちゃんの向こう側で、爆発音がいくつも聞こえた。

 それと同じくして、つい先程まで聞こえていたライフル銃の嵐のような攻撃音が、ピタリと止まったのを確認する。


「よく……ボクが来るまで、踏ん張ってくれたな」


 その優しい声とともに、私は頭を撫でなられた……。

 本当にこの人は……。


 いつも私が、助けて欲しいと思ったときに、現れてくれる……。


「えへへっ……少しは、見直してくれた?」

「見直してなんかねぇよ……ボクは、お前が元々これくらいはできる女であることを、知っているからな」

「そう、私は、できる女なの!」


 えっへん。


「……そうだな、お前はできる女だよ、ナデシコ。そんなお前となら――――


 そして彼は――――



 しーちゃんは、こう続ける。



「一緒に倒すぞ――――蛇の【原種】と、【天下丿銃ホープガン】を」


 当然、私は頷いた。

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