〈40〉更なる絶望

 本当の闘い――――それは、目の前にもくもくと漂う砂煙が、突然晴れたことからはじまった。

 一瞬の内に、晴れる視界。

 当然私は、何が起こったのか分からなかった。

 しかし私は、私の勘が正しかったことを理解した。


 終わっていない――と。


 本当に、本当の闘いは、ここからなのだと、悟った。


 目を凝らすと、辺り一面ぺしゃんこに、平地になっている大地から、ボコッと、何かが現れたのが確認できた。


 クイーン・スネークだった。


 巨大な銀盾ちゃんに押し潰され、まさに圧死寸前といった見た目のクイーン・スネークだった。

 身体の色んなものが飛び出しており、立ち上がったのが不思議なくらいの重症。

 むしろ、なぜまだ生きてるの? と、問い掛けたくなるほどの状態で、彼女は、立ち上がったのだった。


 息も絶え絶えの声で、クイーン・スネークは言う。


「さ、流石は……この国の、勇者、ね……攻撃、方法、も、範囲も……スケール、が、違、う、わ……シャシャ……ガハッ!」


 笑いにも力がない。吐血もしている。

 仕留めるなら、今がチャンスかも。


 私は動こうとした。しかしその時、目の前で信じられないことが起きる。



 ずりゅ……と。


 ボロボロのクイーン・スネークの身体から音がしたのだ。

 そして、めりめりめり……という音とともに、まるでをするかのように、ボロボロのクイーン・スネークの身体から、クイーン・スネークが現れたのである。

 傷一つない、健康体の、クイーン・スネークが。


 え? 何これ気持ち悪い。


 私がドン引きしていると、元気になったクイーン・スネークは、「シャシャシャッ!」と、先程までのように軽快に笑った。

 高笑いをした。


「これが私の固有能力――――【脱皮治癒ホワイトスネーク】よぉ。私は、ほんの少しでも生きている限り、脱皮をして、完全回復することができるのよぉ。どう? 凄いでしょ?」

「…………凄いというか……キモいわね……」


 正直、空いた口が塞がらない。

 今の攻撃で倒せないのはともかく、結果として、ダメージ一つとして与えられなかったのは、想定外以外のなにものでもない。


 そんな固有能力――――倒せる訳がない。


 反則だ。


「そう! 私はほぼ不老不死! 死なない! 故に――――無敵!!」


 クイーン・スネークは、そう言って笑った。

 勝ち誇ったかのように……そして、私を見下すように。


「しかし喜びなさい! 私に、【脱皮治癒ホワイトスネーク】を使わせた人間は、あなたがはじめてよぉ!! 誇りなさい! そしてそのまま――死んでいきなさい!!」

「くっ!」


 ダメだ! 絶望するな!

 心を折るな!!

 私は絶対に、負けちゃダメなんだ!!

 心を、魂を――――強く持つんだ!!

 必ずあるはずだ! 彼女を――――クイーン・スネークを倒す方法が!!


「シャシャシャッ! そんな風に強がるあんたへ、更なる絶望をプレゼントしてあげるわぁ」


 右手を身体の前に掲げる。


「来なさぁい、星型水晶スタークリスタル


 そして一言。



「【天下丿銃ホープガン】――――発動」



 次の瞬間、真っ青な空を覆い尽くすほど、数多く物体が出現した。

 その数は千? いいえ……万? ううん、それ以上かもしれない。

 そしてその一個一個は同じ造形をしており、私はを知っている。


 だってそれは――――しーちゃんが、手を変身させ創り出していた物にそっくりだったから。


 先端から、鉄の塊のようなものを発射し、撃ち抜く物。


 それが、数万以上の数、宙に浮かんでいる光景は…………まるで、空が大きな雲に包み込まれたように錯覚してしまう。


「シャシャシャッ! 頭上に浮かんでいる八万もの、何ていう物か知ってるぅ? 知らないわよねぇ? 平和ボケしていたという、ジーパ王国のお嬢様だもの。知れるはずがないわよねぇ? このナーチャ王国の人間は知っていたわよぉ? この物体の名前を、そして、その用途を。教えてあげるわぁ、コレはね? ライフル銃っていうんだってぇ。引き金をひくことで、先端から銃弾が発射され、対象物を撃ち抜く――――人間が創り出した、武器」

「らふいら……じゅう……」

「ライフル銃ね」

「らいふるじゅう……」


 少し噛んでしまったが、それはまぁ置いておいて……。

 その威力は……知っている。

 そして、数万……確か今、八万といったわよね? そんな膨大な数のライフル銃に、狙われているという現状が……どれだけ絶望的なのかも、私は理解している。

 理解できている。


 クイーン・スネークは続ける。


「けどねぇ? 本来なら、引き金をひかないといけないライフル銃なんだけどぉ、浮かんでいるライフル銃は特殊な物みたいなのぉ。一言で言うとぉ――――



 引き金をひかずとも、弾丸を放てるのよねぇ。そしてその代わりが――――私の、【撃て】という言葉な訳ぇ」


 その、クイーン・スネークの「撃て」という言葉に反応し、八万もライフル銃が、一斉に、私に向かって射撃を開始した。

 私目掛けて、銃弾の雨が襲いかかってくる。

 四方八方から――逃げ場なく。


「っ!! 銀盾ちゃん!」


 即座に全ての銀盾ちゃんを一個に集め、周囲を囲い守りに入る。

 しかし――――八万ものライフル銃による狙撃の威力は凄まじく、壊されはしないものの、銀盾ちゃんごと、大地へと押し込まれる形になってしまう。


 耐えろ……! 銀盾ちゃん……!

 そして耐えろ――――私の心!!


 不死とも呼べるクイーン・スネークの固有能力。

 【天下丿銃ホープガン】の圧倒的な攻撃力。

 それらを前に――絶対に絶望するな!


 だって私は――――もう二度と、負ける訳にはいかないのだから!!

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