〈39〉また繰り返すの?

 私がクイーン・スネークを倒す。


 そう意気込み、【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】を発動したは良いものの、次の瞬間、クイーン・スネークの姿が消えた。

 身体が紫色の液体に変化し、ドプン! という音とともに、見えなくなってしまった。


 え? どこに言ったの?

 ひょっとして、私の銀盾ちゃんにビビって逃げちゃった?


 ふっ……【原種】といえども、この程度か。


 何て思っていると、足場がガクンと崩れた。

 足元を見ると、。そして良く見ると、先程までクイーン・スネークが消えた場所にあったはずの紫色の水溜まりが、私の足元へと移動していた。


 あ……と、思った瞬間、足元の水溜まりが、まるで私を鳥かごに閉じ込めようとするが如く、大地から伸びてきた。

 紫色の液体による檻。


 大地が腐ったことから、分かること。それは――――



 この液体に触れたら、まずいっ!



 ということ。


「銀盾ちゃんっ!」


 銀盾ちゃんの一つを瞬間移動させ、紫色の液体による檻より内側に、私を囲うよう展開させる。

 紫色の檻はみるみる内に収縮し、私を取り囲む銀盾ちゃんを包み込み、弾けた。


 当然……私の身体は無傷だし、銀盾ちゃんも無傷だ。


 しかし、飛び散った紫色の液体が接触した大地が、ジュウゥ……と音を立て、腐っている。

 あれを生身で浴びたら……そう思うとゾッとする。


 飛び散った紫色の液体の一箇所から、ずるずるずるっと、まるで地面から生えるように、再びクイーン・スネークが姿を現した。


「ふぅん……その銀の盾、瞬間移動もできるんだぁ、ふぅん……それに、私の毒液を浴びて、傷一つつかないだなんて、頑丈ねぇ。シャシャシャシャシャッ!」


 「けど――」クイーン・スネークは続ける。


「その盾が追いつけない速度で攻撃をすれば、問題ないってことよねぇ!?」

「……っ! また……!」


 またしても、紫色の液体へと化し、姿を消すクイーン・スネーク。

 水溜まりのようなものが、素早く、目に追えない速度で私の周囲を駆け回る。


 これだと、どこから攻撃が飛んでくるのかが分からない。


 だけど――――


「私の銀盾ちゃんには! 自動防御機能が着いてるのよ!」


 不意打ちの如く飛び込んできたクイーン・スネークを、自動防御で銀盾ちゃんがシャットアウトする。

 三度毒液化を解き、実体化し、大地へしっかりと足をつけるクイーン・スネーク。


「へぇ……相当便利な盾ね」

「でしょ?」

「その力を持ってして、何故、チュー太郎くんは負けたのか……非常に興味深いわぁ」

「……チュー太郎?」


 キング・マウスのことだろうか?

 だとしたら……。


「それには、私も同感よ」


 しーちゃんは、一体どのようにして、この銀盾ちゃんを攻略したのだろう?

 今後、私自身への攻撃対策として、是非ともご教授願いたいところだ。

 まぁ……それが可能なのも、この勝負に勝てたら、の話なのだけれども。

 ううん……勝てたら、じゃない!


 絶対に勝つんだ!!


「銀盾ちゃん! 今度はこっちから攻撃を……」

「と、こ、ろ、でぇ。私は、あの人間の亜種くんがぁ、どのようにチュー太郎くんと、その盾を攻略したのかは知らないけどぉ。チュー太郎くんが、は、知っているのよねぇ」

「っ!!」

「これ……なぁーんだ?」

「それ……は!」


 クイーン・スネークが、紫色の液体を操作し、創り出したもの、それは――――



 お父様の顔だった。



 トラウマを抉られる。

 ぎゅーっと、胸が締め付けられる。

 どくんどくんと、必要以上に心臓が高鳴る。

 思い出したくない記憶が、フラッシュバックしてくる。


「シャシャシャ! あれあれあれぇ!? どうしちゃったのぉ!? そんなに顔を青くしちゃってぇ! トラウマでも刺激しちゃったぁ!? そんな体調の悪そうな表情でぇ――――


 次の私の攻撃を、防ぎ切れるのかしらぁ!?」


「くっ……!」


 またしてもクイーン・スネークは姿を消し、水溜まり状態で高速移動をはじめる。

 その最中、声が聞こえてくる。


「シャシャシャッ! 知ってるのよ私はぁ! その銀の盾は、持ち主の精神状態に左右されるということを!! 心を揺さぶってしまえば、その銀の盾の性能は、著しく低下しちゃうのよねぇ!?」


 ……その通りである。

 【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】の性能は、私の心の強さに左右される。

 心というより、魂というべきか?

 ともかく、この力は、精神攻撃には著しく弱い。

 きっとしーちゃんも、そのことに気づき、キング・マウスのそこを攻めたのだろう。


 私とキング・マウスの戦いは……私が心を、魂を揺さぶり続けられたから負けた。

 負けたからこその――――今。

 また繰り返すの?


 そんな訳にはいかない!!


「私はもう――――二度と負けない!!」

「っ!?」


 銀盾ちゃんで、クイーン・スネークの奇襲攻撃を防御。

 「へぇ……やるじゃない」しかし、クイーン・スネークは攻撃の手をやめない。

 緩めない。


 またしても毒液化し、姿を消したのだ。

 そして相変わらずの水溜まり状態での高速移動。


「いつまで、その強がりがもつかしら!?」

「強がりなんかじゃない……」


 クイーン・スネークが放ってくる、奇襲攻撃を、次々と防いでいく銀盾ちゃん。

 確かに動揺した。

 動揺はしたけれども…………私の心は! 魂は! もう、お父様の首では狼狽えない!!


「ふぅん……じゃあ、これはどう?」

「っ!!」


 クイーン・スネークが、次に造り出したもの。

 それは――――お母様の、生首だった。


「シャシャシャッ!! どう!? 愛する愛する両親の生首よ!? シャシャッ! これでもっと動揺した!? さぁさぁ! それでも! 攻撃の手は緩めないわよぉ!!」

「動揺……? バカなこと言わないでよ」


 私は……吐き捨てるように、言う。


 胸の中で、ぐつぐつと煮えるような、この感情を、吐き捨てるように。

 この感情は……動揺なんかじゃない。

 これは――――



 怒りだ。


「お父様とお母様を……侮辱! するなぁぁあぁああーっ!!」


 私を守る一つの銀盾ちゃんのみを残し、九つの銀盾ちゃんを合体させ、上空へと移動させる。

 そして、上空にて巨大化。


「ちょっ!? シャ!?」

「ニョロニョロ動き回って鬱陶しいから! 辺り一面、ぺちゃんこにしちゃうんだから!! 降ってきなさい! 銀盾ちゃん!!」

「さ、流石にそれは――――」

「問答無用!!」


 必死に逃げる体勢をとるクイーン・スネークだが、降ってくる銀盾ちゃんは大きい。

 私を中心点とした、直径十キロもの範囲で、下にある物全てを押し潰す。

 あ、もちろん――


「私の上には、降ってこないようにしてるけどね」


「こ、このっ! 人間風情がぁぁああーっ! シャぎゃっ!!」


 ズシーン!! という轟音とともに、大きな銀盾ちゃんが大地へと降り立った。

 プチッという音が聞こえたので、きっと、クイーン・スネークは銀盾ちゃんの下敷きになったことだろう。

 例え毒液化していたとしても、この一撃は回避不可だ。

 水溜まりごと、押し潰したはず。


 通常ならば、これで勝負はついたはずだ。


 通常ならば。


 多量に舞う砂煙を前に、私は決して気を緩めない。


 間違いなく倒したと思う。

 しかし、その期待を裏切るのが獣人という生物なのだから。


 だって私は見ていない。


 クイーン・スネークの奥の手とも言える――星型水晶の力を。


 あのしーちゃんすら、冷や汗をかくほどの、【アンドロイドの力】というものを。


 私の勘が正しければ…………本当の勝負は、ここからだ。

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