ナーチャ王国での決戦――VS クイーン・スネーク【天下丿銃】

〈38〉悪趣味蛇女

 私は……【勇者の力】を受け継いで生まれた。にも関わらず、過去を振り返った際、勇者の敵となるような相手とは、向かい合えていない。

 この【十字世界クロス・ワールド】では、私が産まれてから……否、私の兄が産まれて以降、勇者の力が生み出されたものの、敵がいない平和な時間が十数年続くという、おかしな状況が続いていた。


 勇者が現れたら、必ず、相応の敵が現れる。


 十数年、平和だったため、その危機意識がすっぽりと抜けてしまったその影響をもろに受けたのが、今回の獣人襲撃だろう。


 【十字世界クロス・ワールド】の住人達は、皆、平和ボケしていたのだろう。

 いや、そりゃあ人間同士の小競り合いのようなものは、他国であったみたいだけれど、それこそが、危機感の欠如だったのだ。

 人類をドン底にたたき落とすほどの悪が、襲来する可能性がある時期に、人間同士が小競り合いをしている場合か? という話。


 そう考えると、私達人類が、獣人たちに世界を乗っ取られたのは因果応報だったのかもしれない。


 備える時に……いや、備えるべき時に備えなかった、私達人類の責任。


 【十字世界クロス・ワールド】は、私達を生み出すと同時に、きっと、伝えてくれていたのだ。



 間もなく、敵が現れると。


 その勇者の力で、それを撃退せよ。と。



 しかし現実は、あまつやそれを利用されてしまう始末。

 情けない。

 本当に、情けない。


 だから【勇者】という言葉は、ジーパ王国を救った、しーちゃんにこそ、相応しいのだろう。

 しーちゃんこそが、この世界の【勇者】なのだ。


 世界をこんな風にした私が、私達が、今更【勇者】を名乗るだなんておこがましい。


 私は……ただの人間だ。


 ただの、凄い力を持っているだけの人間だ。


 凄い力を持っている――――だからこそ、戦おう。


 勇者・しーちゃんの仲間として。

 勇者を支えるべき仲間として、獣人たちと、戦っていこう。


 それが私の、しーちゃんへの恩返しであると共に、この【十字世界クロス・ワールド】への、償いでもある。



 そんな訳で、この世界を侵略した黒幕――――獣人の【原種】である、クイーン・スネークと名乗る蛇の獣人と相対した私。

 このまま戦闘勃発か? と、思いきや、クイーン・スネークはこんなことを提案してきた。


「あなたみたいなぁ、面白い人間と殺し合いをするのに、こんな場所じゃあ勿体ないわぁ。何よりぃ、殺しちゃった後の鮮度が悪いものぉー。良い場所があるわぁ、着いてきてー」

「へ? 良い場所?」

「そ、良い場所。シャシャシャ! 私の――――コレクションルーム」

「これくしょん、るーむ?」


 何なんだろう? これくしょんるーむって?


「着いてきたら分かるわ。着いてらっしゃい」

「う、うん……」


 スタスタと背を向け歩き出すクイーン・スネーク。

 先導され、私は彼女の後ろを着いていく。


 ナーチャ王国内を、クイーン・スネークに連れられ、歩いている時は、他の獣人たちによる攻撃がなかった。

 ぞろぞろと、集まっては来ていたものの、それは侵入者を撃退するためという訳ではなく、ただただ見物に来ているだけの様子だ。


 クイーン・スネークが人間を連れて歩いているという、珍しい光景を見に集まってきたのだろうか?

 はたまた、クイーン・スネークを見に、集まってきたのだろうか?

 もしくは、私を見に、集まってきたのだろうか?


 集まっている獣人たちの方から、ヒソヒソ話が聞こえてくる。


「クイーン・スネーク様だ……」

「綺麗な白い肌……ぴょん」

「美しいウオ……」

「後ろに連れてるのは……人間ウキキ?」

「ヒヒヒン! あの人間は、どのようにはがれるんだろうな?」


 はがれる……?

 どういうことだろうか?

 まぁ……クイーン・スネークは、着けば分かると言っていたので、きっと、その場所へ着けば分かることなのだろう。


 十五分ぐらい歩いただろうか?

 ナーチャ王国の外へ出て、近くにある森の中へと入っていった。

 草木生い茂る中、私とクイーン・スネークは縦一列に並んで歩いている。


 すると、草木が全くない景色が見えてきた。


 その場所へ、ズンズン近寄っていく。

 近寄ることで理解出来た。

 穴だ……大きな穴がある。

 意図的に掘り起こされたであろう、大きな穴が。

 直径数キロはあるであろう、穴が。


 クイーン・スネークは、その穴の中へと躊躇なく飛び込んだ。


「降りてらっしゃい」


 そう言ってきた。

 その言葉に釣られるように、私も穴の中へとジャンプし、降りる。


 そして、目の前に広がる光景に絶句する。


「な……なに……? コレ、は……?」


 辺り一面――――まるで洗濯物を干すかのように、竿に引っ掛けられているのは――――人間の皮のような物だった。

 え? まさか……本物……じゃない、よね?


「本物よぉ、これら全て、人間から剥ぎ取った、皮。これが私の……コレクションよ」


 そう、クイーン・スネークは言った。

 不敵な笑みを浮かべながら。

 私は、ここでようやく理解出来た。


 はがれるとは、そういうことかと。


 皮を剥がれる――――という意味だったのかと。


「シャシャシャッ! 私はねぇ、人間っていう生き物は嫌いだけれど……人間という、姿形は好きなの。芸術よねぇ……何より美しい。だから、皮を剥ぐの。その皮を、こうやってぇ」


 竿に引っ掛けられている人間の皮を一つ手に取り、ほっぺたにスリスリと擦り付けている。恍惚の表情を浮かべながら、こう続けた。


「あぁー……最高ー!」


 正直、その光景に怖気が走った。

 怖気が走ったとともに、怒りがふつふつと湧き上がってくる。

 そんな私を横目に、クイーン・スネークは続ける。


「命の亡くなった人間は、やはり素晴らしいわぁー。芸術、マジ芸術ぅー。その中でも、あなたは一級品に美しいわ」


 ……その皮は……元々人間だったものだ。

 その人にも家族がいて……人生があったのだ。

 コレクション……? ふざけるな。


 私が放つ殺気に対抗したのか、クイーン・スネークも殺気を放ってくる。

 禍々しい、殺気を。


「一級品に美しいけれどー、その魂が邪魔。ってことで、あんたの皮、剥がさせて貰うわぁー」

「やれるものならやってみなさいよ!! この悪趣味蛇女!」


 さぁ、これが初陣だ。

 元・勇者である――――私……ジーパ・ナデシコの。


「【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】発動っ!!」


 この、悪趣味蛇女クイーン・スネークは、私が倒す!!

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