〈26〉アイツは大馬鹿者だよ

 死んだ人の想いだけ、強くなる盾――勇者の力――【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド


 ナデシコは言っていた、キング・マウスが使用した場合、『人』という部分が、そのまま『獣人』に言い換えることができる、と。

 それ即ち――


 キング・マウスの盾は――――獣人が死ねば死ぬほど強くなる。


 つまりナデシコは、ボクが下手に獣人を倒し、キング・マウスの盾を強化するのを懸念したのだ。

 だからこそ、いきなり城を攻めるのを提案してきた、という訳だ。

 まぁ……ひょっとするとひょっとするが、あのナデシコお人好しのことだ、シンプルに、例え憎き獣人とはいえ、生き物の命を必要以上に奪うのを躊躇ったのかもしれない。

 甘い考えではあるが、これも充分考えられる可能性だ。

 本当に変な奴だよ……ナデシコは。


 そんなこんなで、【魂丿銀盾】を発動したキング・マウスに対して、ボクは畳み掛ける。

 ライフル銃、刀、ツル、爆弾、雷、炎、念動力……様々な攻撃手段で攻撃を行う。

 時に正面から。

 時に背後から。

 時に左右から。

 時に上下から。

 しかし――――出現した銀盾が、オートで移動し、キング・マウスを守る。

 傷一つ付けられずにいた。

 ……こんにゃろう……!


 チュチュチュ! と、キング・マウスは笑う。


「どうだ? 素晴らしい盾だろう? 理解したか? この盾がある限り、貴様の攻撃は、どう足掻いても私には届かんということを!!」

「……まだまだぁ!」


 ボクは、自らの右上腕を傷つけ、血を出す。

 空中に散らばった血を固め、盾へとぶつける。

 毒を混じえた血の塊だ、溶けろ!


 溶けなかった。


「っちぃ!」

「チュチュチュ……無駄だよ。斬撃であろうと、爆撃であろうと、銃撃であろうと、炎撃、雷撃であろうと……例え――――」


 ボクは、キング・マウスの足元からツルを生やし、拘束を試みる。

 しかし、キング・マウスの足元に現れた銀盾によって、防がれてしまう。


「大地からの攻撃であろうと……チュチュチュ」


 二個の盾が同時出現。

 多重攻撃も通用しない。何でもありかよクソったれ!


「そして、いいのか? この盾で、守ることはできんが――――我には分身もいるのだぞ?」

「しまっ!」


 背後と左右から、七体の分身体が、ボク目掛けて襲いかかってくる。

 電光石火の集中攻撃が再び、ボクに襲いかかる。

 気づいた時には遅く……炎を纏う時間すらなかった。


「ぐあぁああっ!!」


 鉤爪はなくなった。

 しかし、その身体によう打撃は健在だ。

 何とか……何とかしないと……!


「ぬっ……あぁああぁあーーっ!!」


 ボクは打撃を受けながら、炎を纏う。

 それを察したのか、分身体は即座に攻撃をやめ、ボクを取り囲むように距離を取った。

 同じ手は……二度喰らわないってか?


 よく見れば、キング・マウス本体の両手の火傷も完治している。


 あの銀盾……治癒能力もあんのかよ……。


「チュチュチュ! ボロボロだなぁ!? 霜月太郎よ!!」


 キング・マウスは笑う。

 高らかに、笑っている。

 強い……これが、この世界の勇者の力……これが……ナデシコの持っていた力……。


 逆に気になる。


 いくら裸が恥ずかしかった、とはいえ、あの銀盾がありながら……そんなに容易く敗れるものなのか?


「一つ質問いいか……? キング・マウス……」

「チュ? なんだ?」

「お前……ナデシコのシャワー中に襲撃したとか言っていたな?」

「ああ、そうだが?」

「何をして襲撃した……どのように襲撃したんだ」

「ふむ……別にどのようにもこのようにもせぬ。普通に、シャワーを浴びていた、あの小娘に、この身体一つで襲いかかったまで」

「……本当か?」

「チュ?」

「本当に…………それだけ、か? 本当に――――その身体一つで、襲いかかっただけなのか?」

「チュチュ……鋭いな」


 ニヤァーと、不敵な笑みを浮かべたキング・マウス。


「別に嘘はついておらんよ? この身体一つだけで、あの小娘に襲い掛かったのは事実だ。だが……そうだな、あのとき我は、手にとあるものを握り締めていたなぁ」

「とあるもの……?」

「ああ――――



 国王の、生首だよ」



 その言葉を聞いた瞬間――――頭の中が真っ白になった。

 国王の……首……?

 ということは……ナデシコにとっての、父親の、首。


「少し狼狽える程度の効果を期待し、持っていったのだが、これが効果的面でのう……。チュチュチュ! それはもう、あの小娘、狼狽えて狼狽えて! 圧勝だったよ! 我の! 相手にもならんかったわ! やはり持つべきものは、肉親の生首だのう!! チュチュチュ! チューッチュッチュッチュー!!」


 ……え? ちょっと待て……そんなこと、ナデシコは言ってなかったぞ?

 単に……裸を見られて恥ずかしかったって……。

 ひょっとして、国王の……父親のせいにしたくなかったのか?

 父親の生首を見て、狼狽えたから……などと、負けた理由に、亡くなった父を結びつけたくなかったから――――彼女は、その敗北を全て自分の責任にした。


 なんだそりゃ? ほら見ろ……やっぱりそうじゃないか……。

 あの女――――背負う必要のないもんまで、背負ってやがるじゃないか……。

 一人で背負える訳ねぇだろうが、そんな重たいもんを。

 本当にアイツは大馬鹿者だよ。

 本当に――――



 凄い奴だ――――ナデシコは。


「改めて、再確認させてもらったぜ……」

「再確認? 何をだ?」

「ジーパ・ナデシコはやっぱり――――助けるべき、人間だということをだよ!」


 ボクは、覚悟を決めた。

 これからボクが発動する能力達は、強力だが、それ相応にリスクのある力だ。

 認めよう――【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】は強い。

 まともに戦っても勝ち目はない。

 このままでは、ジリ貧になるのが目に見えている。

 リスクを背負わなければ、絶対に勝てない。

 逆にいえば――――リスクを背負えば、必ず勝てる。


 この戦いは、ボクの身がどうこうよりも、勝つことが何より大切だ。


 だから勝つためならば、ボクはどんなリスクだって引き受けてやる。


「覚悟しろよ? キング・マウス――――今からボクが扱う力は、アンドロイドの中でも、トップランカー達の固有能力だ」

「とっぷらんかー?」

「正直……その何分の一かの威力とはいえ、最後まで、扱いきれるかは微妙なところだ。ここで一つ、ボクの大博打に付き合ってもらおうか」

「大博打?」

「ああ。ボクの大博打が成功すれば、ボクの勝ち。失敗すれば、ボクの負け――――どうだ? 分かりやすくて良いだろう?」


 勝つか負けるかは、ボクしだい。

 だからあえて、こう宣言しておこう。


「その上で言っておく! この大博打に勝って、生き残るのはボクだ!」


 さぁ……決着をつけようぜ。キング・マウス。

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