〈25〉偽物の盾

 ボクは、八体のキング・マウスが雷で叩き落とされた大地を見据えながら、ナデシコとの会話を思い出していた。

 彼女と……【勇者の力】について話したときのことを。


『しーちゃん。私の力はね? 【命を守る力】なの』

『命を?』

『うん……敵の攻撃から、受けたダメージから……命を奪う驚異から……尊い命を、守る力。それが私のものだった……【勇者の力】の本質……』

『ふぅん……』


 ボクはそれを聞いたとき、まさしく……ナデシコに相応しい力だな。と、感想を抱いたが、それはまぁさておき、大事なのはこの後の彼女の言葉だ。

 これが、『彼女があえて、いきなり城を攻めようと提案した』理由でもあるのだから。


 城が破壊され、突如八本もの雷が落ちた。

 騒ぎを聞きつけ、周囲の獣人たちが集まってくる。

 大地をおおっていた砂煙が晴れ、立ち上がっている一体の獣人の姿があらわになっていく。

 その一体というのが、獣人の王の一体である【原種】――キング・マウスであることは、語るまでもないことだ。


 集まってきた獣人たちは、目の前に広がる光景を見て、目を剥いたことだろう。


 地面に叩きつけられるている獣人の王、そしてそれを見下すようにして立っている、人間のような見た目をした生物。


 【原種】という存在の、圧倒的強さを知っている獣人達だからこそ、この光景が異様に映ったはずだ。

 そんなこと……知ったことではないが。


 そして、キング・マウスが動きを見せた。その動きというのが、自身の高速移動により、周囲に集まってきていた獣人達を一瞬にして、殺害するというものだ。

 その数――――実に、百体以上。


 キング・マウスのその行動を見て、ボクは確信をもった。


 【勇者の力】を発動するつもりなのだな……と。


 キング・マウスは、焼け焦げた右腕を、目前へと掲げた。


星型水晶スタークリスタルよ、我が手元へ……」


 奴がそう呟いた瞬間――

 ボクが創り出した雷雲を切り裂くが如く、空から星型水晶が落下してきた。

 落ちてきた。

 そして、その星型水晶は、キング・マウスの掲げた右手の中に収まり……激しく輝きはじめた。


 キラキラと。


 ボクはまた思い出す。ナデシコとの、会話を……。


『大切なのは、ここからだよ? しーちゃん』

『ふむ……ここからが……お前がいきなり、城を攻めようとか提案した理由ってことだな?』

『うん! 察しがいいね! 花丸あげる!』

『いらん』

『ガーンっ!!』

『良いから、さっさと話せ』

『ちぇっ……えーっね、えーっと……あれ? 何を話そうとしてたんだっけ?』

『【勇者の力】は、守るというのが本質で、その先を問うているんだ。そこに、お前の『城を攻めよう』といった言葉に繋がってくるんだろ?』

『ああ、そうそう! そうだったね! えっとね? その【勇者の力】の源は、勇者の……つまり、私の力、だけじゃないのよ』

『勇者の力だけじゃない? どういうことだ?』

『個じゃないんだよ、しーちゃん。皆で、守る力なの』

『皆で?』

『そ……誰かが誰かを守りたいという想い、誰かが誰かを守りたかった想い……世界中の、そんな想いが力になるのが――この、【勇者の力】なんだよ』

『つまり……近くに、そういった想いを秘めている者がいればいるほど、強くなる能力ってことか?』

『んー……半分正解』

『半分?』

『えーっとね? 想いって言葉を……魂って、言い換えれば、分かりやすいかな?』

『想いを……魂に? …………まさか……』

『そう、そのまさか――【勇者の力】はね? そういった『誰かを守りたい』と思いながら死んでいった人が、多ければ多くなるほど……強くなる能力なんだよ』

『なるほど……それで……』

『そ、もし【勇者の力】をキング・マウスが使用できたとしたら、その力はそっくりそのまま、人間から獣人に置き換えられる。即ち――――獣人達を倒せば倒すほど……キング・マウスは強くなっちゃうっていう訳』

『……納得だ』

『でしょ?』

『お前……ただのバカじゃなかったんだな』

『失礼な! しーちゃんってば、私のことバカだと思っていたの!?』

『めちゃくちゃバカだなと思ってた』

『酷いっ!!』

『ひとつ聞くが……』

『話を逸らされた!! 散々ディスられて、話が終わっちゃった!!』

『お前の持っていた、その【勇者の力】の名前は……何だったんだ?』

『…………』

『ナデシコ……一応聞いておきたいんだ』

『ふんだっ、その力の名前はね……?』


 その、【勇者の力】の名は――――





「【魂丿銀盾ソウルシルバーシールド】」




 銀色に輝く大きな盾が、キング・マウス本体の前に現れた。

 手に持ってはいない。

 宙にプカプカと浮いている。

 キング・マウスが先程まで掲げていた、手のひらサイズの星型水晶と、同じように。


 奴は、不敵な笑みを浮かべながら、ボクを見据える。

 そしてこう言った。


「喜べ……人間の亜種――――霜月太郎よ。この力を使用し、殺す人間の形をした生物は――貴様が初だ」

「喜ぶもクソもねぇよ……ボクは殺されないし、そもそもそれはお前の力じゃねぇだろう?」

「チュチュチュ……まぁ、その通りではあるな」

「返してもらうぜ……その盾も、能力も……そして――――



 この国も!!」


 ボクは再び、散った雷雲を再構築し、雷をキング・マウス目掛けて落とした。

 その一撃は容易く銀色の盾に防がれてしまう。

 当然ボクは、そうなることを理解している。

 今の雷による一撃は、単なる意思表示だ。


 【勇者の力】を前にしても――――ボクは決して戦うことをやめない。


 ということを、体現した、ただの意思表示だ。


「掛かってこい!! 霜月太郎!!」

「望むところだ!! その偽物の盾――――ぶち破ってやる!!」

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