〈23〉ボクは問い掛ける

「チュチュチュ……なんだ、貴様一人か。せっかく、あの小娘に、思い出したくないであろう過去を思い出させてやろうと思っていたのに。拍子抜けだな」


 キング・マウスが、シャワーのお湯を止めつつ、そう言った。

 振り返り、ニヤニヤとした笑みを、ボクへと向ける。


「……あまり、褒められた発想ではないな。趣味が悪すぎるだろ」

「チュチュチュ。この一連の意図を理解できているということは、随分と、あの人間と打ち解けたみたいだなぁ? 霜月太郎よ」

「…………」


 ボクの名前を把握してる。

 分かりきってはいたことだが、どうやら、分身を挟んで仕入れた情報は共有できるようだった。

 疑念が、確信に変わった瞬間である。

 だからどうした? という話だが。


「あの、勇者の絞りカスである、小娘と。そもそもの話、なぜ、貴様のような強き者が、あのような弱い者に手を貸そうとするのかが、さっぱり理解できぬ。もったいない……我と貴様が組めば、この獣人世界に、大いなる安定をもたらし、欲しいものはなんでも手に入る余生を送ることができるというのに」

「言っただろ? ボクはあの女に魅せられたんだ。それを聞いた上での、今の発言であるならば、お前にどれだけその理由を話したところで、理解できるはずもない。お前はボクの敵であり、ボクはお前の敵である……それが、全てだよ」

「チュチュ……違いないな」


 キング・マウスが笑った。


「それにしても……少し、バカ正直すぎやしないか? せっかく、我がシャワーを浴びるといった、隙を見せてやったというのに……正々堂々と、声を掛けて入ってくるなんて……その甘さが、命取りになるぞ?」

「かもな……だけどそれでも……シャワー中に襲撃をするような卑怯者に、ボクはなりたくなかったんだよ。残念ながら、な」

「……チュチュ……抜かせ」

「で、正直者がてら、一つお前に聞きたいことがあるんだが……良いか?」

「何だ?」

「この街の入り口……確か、『南門』だったか? そこの階段登ったところに…………ナデシコに似た女性の首が置いてあったんだが……あれは本物か?」

「チュチュ……もちろんだ」

「偽物とかではなく?」

「ああ……アレは紛れもなく、勇者の絞りカスである、あの小娘にとって――――母親にあたる人間の首だ」

「…………そうか……」


 母親か……。

 なるほどね……。


「なぜ……あんな真似をしたんだ?」

「チュチュチュ。決まっているだろう? あの小娘の精神を――――崩壊させるためだ」

「…………」

「しかし……そうか、連れて来なかったか……そうかそうか。残念だよ……あの小娘が、怒り狂い、嘆き、悲しみにくれ、発狂する姿を、見てみたかったのだが……まぁよい、次は姉の首で試し……」

「ちなみに――――」


 ボクは問い掛ける。


「あの生首を見て……ボクが怒り狂う、というケースは考えなかったのか?」

「怒り狂う? 貴様が?」

「……ああ……この、ボクがだ」

「ありえぬであろう? 何故なら貴様は…………我と同じく―――強き者なのだから」

「…………そうか……」


 その解答を聞いて、はっきり分かった。

 ボクは……人間が嫌いだ。


 ナデシコという存在を知ってなお――――その気持ちが、揺らいでいないということに。

 そして――――


「我と同じ強き者が……たかだか人間一匹の死体に、一喜一憂するものか。そうであろう? 霜月た……」

「もういい、お前はもう――――喋るな」


 それ以上に――――


 この好敵手キング・マウスのことが――――大嫌いだということを。


 ボクは即座に【能力変神スキル・メタモルフォーゼ】を発動。

 右前腕を刀へと変身させ、本体目掛けて斬りかかった。

 まぁ……呆気なく、その一撃は防がれてしまった訳だが。


 キング・マウスが両手に装着している――――鉤爪によって。


 なるほど……そういう武器も使うのか。


 片や、キング・マウスはキョトンとした表情を浮かべている。


「む? ひょっとして貴様……あの生首を見て、怒ったのか? チュチュチュッ! なるほどなるほど、貴様は随分と、あの人間の小娘に、心酔してしまっているようだな!」

「……だから……もう、喋んなって」


 ボクは左前腕をライフル銃に変身させ、至近距離から撃つ。

 バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! と、計五発。

 そのいずれも、両手の鉤爪にて捌かれる。


 この至近距離での銃撃を、ちゃんと目で見て、反応して捌きやがった。

 ムカつくけど……やはり強敵だな。コイツ。

 その後、斬撃入れてみたが、アクロバティックに回避され、距離を取られてしまった。


「チュチュ。では、最後にもう一度だけ問おう……貴様、本当に、本気の我と一戦を交えるつもりなのか?」

「当たり前だろう」


 でなきゃ、こんな所まで足を運ぶか。


「よかろう!!」


 キング・マウスが、笑った。


「ならば全力で殺し合おうぞ!! 人間の亜種――――霜月太郎!! 貴様の全力と、我の全力!! どちらが上なのか! 決着をつけようぞ!!」


 楽しそうだな……コイツ。

 その満面の笑みに、水を差すつもりはないのだが……はっきりと言わせてもらおう。


 今のボクには――この戦闘を楽しむつもりなど、毛頭ない。

 ただただ、全力で――



「キング・マウス! お前を、叩き潰す!!」



 ジーパ王国を賭けた最終決戦――――開幕。

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