〈22〉湯加減はどうだ?

 羊顔の獣人は、素直に答えた。


「し……城の中にいます」

「城のどこにいる?」

「さ、最上階に、王の間があるので……恐らく、そこにいるかと……」

「ふむ……わかった。情報提供に感謝する」

「い、いえいえ、それほどで……」


 バンッ!


 さて……ジーパ城の王の間へ行くとするか。

 確か最上階って言ってたな。

 獣人共の相手をするのも面倒だ、ショートカットしていこう。


 そんな訳で、ボクはジャンプし民家の上へ。

 民家から民家へ飛び移るように移動していく。


 まさか、こんな忍者みたいな芸当を、人間ができるとは思わなかったのだろう。

 地面の上で待ち受けていた獣人達が、ぽかんとした表情をしていた。


 が――――


「カァーカァー!! 人間如きが小癪な真似をー!!」

「屋根の上では足場が狭いクエー! 逃げ場はないクエー!!」


 空を飛ぶことができる、鳥の獣人にはちょっかいをかけられてしまう。

 ま、そんなに数は多くないみたいなので、バンバンッ! と仕留めておこう。


「カギャッ!」「クエッ!?」


 脳天を撃ち抜かれた二体の鳥の獣人がこと切れ、地面へと落下していく。

 飛んでくる奴は、全部撃ち殺す――――と、言いたいところだが。

 正直なところ、例の勇者の力の件を鑑みて、尚且つ、入り口付近で大量に獣人を屠ってしまったため、これ以上、獣人を仕留めるのは、キング・マウス戦での不利につながる可能性が高い。

 気持ちも落ち着いてきた……ここは少し冷静になって、殺さない撃退方法を選ぶべきだろう。


 そうこうしている内に、空中を闊歩できる鳥の獣人以外にも、地面でぽかんとしていた獣人たちが我に返り、襲い掛かりはじめていた。


「全員皆殺し……と、いきたい所だが……仕方ない――――痺れとけ、お前ら」


 手のひらから、雨雲を出現させ、空へ向かって放つ。

 ボクの手のひらを中心に、上空を、半径五十メートルほど雨雲が覆う。

 雨が、ポタポタと降りはじめる。

 雨雲だからな、当然だ。

 あ、違うな、これ――――雷雲だった。


「死なない程度に感電して、じっとしとけ」


 そんな訳で、雨雲……もとい雷雲の下にいた全ての獣人達に向かって雷が放たれる。

 周囲に焦げ臭い匂いが漂う。

 恐らく一体足りとも死んではいないだろう。ダメージと痺れによって動けはしないだろうがな。

 ……うん、これいいな。

 この調子で、雷を落としまくってやろう。そうすれば、獣人達も近づけまい。


 雷で獣人共を撃退しつつ、いよいよジーパ城が近付いてきた。

 目と鼻の先だ。

 この雷雲がある限り、獣人はもう一体足りともボクに近付けはしない。

 ボクのジーパ城への侵入を、拒めるものなどいない。

 いるとすれば……一体だけ――――


「……確か、最上階に王の間があるって言ってたな……よし……」


 ジーパ城が目と鼻の先に迫ったところで、ボクは大ジャンプした。

 高さ五十メートルはあるであろうお城の最上階目掛けての大ジャンプだ。

 最上階へ到達、あとは壁をぶち破って突入。


 しかし――――


「あれ?」


 王の間に、キング・マウスの姿はなかった。


「いないじゃないか……あの羊野郎、嘘つきやがったな……」


 こうなると、城内を探し回るしかないか。

 城内にいるのは間違いないだろうし……しかし、一体どこに……。


「…………まさか……」


 いや、一箇所だけ、心当たりがある。

 もしやもしやの場所が……。

 しかし、そんなことありえるか? いくら自分が、この国の勇者を打ち負かした場所とはいえ……そんな真似をするだろうか?

 けれど……闇雲に探す前に、その心当たりから潰していくのが最良か。


 さて……そうなってくると、その場所がどこにあるのか? だが……。


「ガオッ!? 侵入者だ!!」

「ワンワンッ!? 皆の者、王の間に集まれ!!」

「ウキャウキャ!? 外の奴らは何をしてるウキ!?」


 おーおー……鴨がネギ背負ってやってきやがった。

 コイツらの誰かに聞いてみよう。


 ボクは、右手の平から花を咲かせた。

 向日葵のような花を。

 その花の中央部分には、口がある。

 たらこ唇の口が。

 花の口から、黄色い粉末を吐かせた。フゥーと、獣人たちに向かって、吹きかけるように。


「ガオっ!? か、身体が……」

「ワオー……ン……し、痺れ……」

「ウキャウ、キャ……!?」


 その粉を吸い込んだ獣人たちが、バタバタと、次々に倒れ込む。

 仕方ないよね? 痺れ粉だもん。


「さて、お前らに、聞きたいことがあるんだが? いいか?」


 そしてボクは、その場所の在り処を尋ねた。


 ゆっくりと、その場所へ向かう。

 襲い掛かってくる獣人たちを、手の平の花から放つ痺れ粉で、無力化しながら。


 その場所は二階にあるそうだ。

 二階へ到着。

 フロアへ辿り着くと、鼻歌が聞こえてきた。

 ルンルンと、リズミカルな鼻歌が。

 シャー……という、水が流れる音もしている。


 間違いないな……その場所に――――キング・マウスはいる。


 趣味の悪い、待ち受け方だ。


 『自分ならば、勇者ナデシコと同じ襲撃をされても、大丈夫』とでも、言いたいのだろうか?

 どちらにせよ、あまり気分のいい行動ではないな。


 その時のキング・マウスと同様に、奇襲をかけるのも有りだと思ったが……それはやめておいた。

 ボクはボクであり、奴は奴、だからである。


 したがって、ボクは普通に……さも、その場所の本来の使用方法に基づくかの如く、自然に、正面から入ることに決めたのだ。

 その場所へ――――



 へと。


 予想通り、大浴場の中に、奴はいた。

 悠々とシャワーを浴びているキング・マウス――――の、本体。

 ボクは声を掛ける。


「湯加減はどうだ? キング・マウス」


 奴は答えた。


「チュチュチュ……適温だよ」

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