〈21〉うるせぇなぁ……

 城下町沿いを歩くと、必然的に、入り口へと辿り着く。

 大きな門があり、その門の先には、町へと続く階段があった。

 『南門』と書かれてある、ということは、『北門』とか『東門』『西門』などがあるのだろうか?


 今は大きく口を開け、来る者拒まず、といった感じのこの門も……人間がまだ栄えていた頃は、固く閉ざされていたのだろうなと想像ができる。

 そして、門の前に二人くらい、兵士が立ってたんだろうな……とも。


 それにしても……入り口に見張り一つ立てていないとは、獣人は不用心だな。

 いや、何人が来ても恐るるに足らないという意思表示なのだろうか?

 人間ごとき、町中でいくらでも迎え撃てる……それほどの自信があるのだろうか?

 まぁ……その自信には、納得がいく。

 獣人ならば、人間に遅れをとることはないだろう。

 戦闘力という面で、明らかに人間は獣人に劣っているからな。


 さて……ではここで、ボク自ら獣人たちに問い掛けてみることにしよう。


 その『来る者』が、アンドロイドだった場合は、どうなのだろう? と。


 そんなことを考えつつ、ボクは階段を上る。

 階段を上り終えた先で広がった光景を見て、ボクは目を剥いた。


 ボロボロの城下町の景色に……ではなく、その手前に、無造作に置かれた――――



 ナデシコにそっくりな顔をした女性の――――生首に。


「…………は? ナデ……シコ……?」


 い、いやいや……そんなはずはない。

 だって彼女は今……安全な場所で眠っているはず……。

 ボクは恐る恐る近付いていく。

 よく見ると、ナデシコではない。

 彼女ではない、彼女に似た誰かの――生首だった。

 つまり、この首の正体は……。


「……趣味が、悪すぎるだろ……」


 何故だろう?

 胸がざわつく……この気持ちはなんだ?


 その瞬間――

 ギャーっハッハッハァー!! という笑い声が聞こえた。

 一つではない。十……五十……いや、それ以上の笑い声だ。

 辺りを見渡すと、囲まれていた。

 何に? 獣人に。


「フゴッゴッゴ! マジかよ! 本当にきやがったぜ! 鴨がネギ背負ってよ!!」

「モーッモッモッモ!! たった一匹で乗りこんできやがった! どうするつもりなんだぁー?」

「シャシャシャッ! 何ができるのかしらねぇー? たかだか、人間ごときに」

「ガオッオッオッオ! ひょっとしてぇ? 勝つつもりかぁ? この――――俺達、新人類の大軍によぉ!!」


 豬だの牛だの蛇だの虎だの……羅列するのが面倒なほど、沢山の獣人たちがボクを取り囲んでいる。

 まぁ……そんなことはどうでもよくて。

 ボクが今思うのは、この場に……ナデシコを連れてこなくて正解だった、ということだ。

 あの生首を目の当たりにしていたら……きっと彼女は壊れていた。

 間違いなく……。


 親しい者の死は――想像以上に、心に突き刺さるから。


 …………それにしても……。


「うるせぇなぁ……」


 はっきり言っておこう……ボクは今、とても虫の居所が悪い。

 胸がモヤモヤして、吐きそうだ。

 悪いが……こんな大群の獣人どもを、一体一体相手をしていく優しさは……今のボクにはない。


 なので――――


「爆ぜろ……カス共」


 次の瞬間、四方を取り囲む獣人たちを弾き飛ばす大爆発を、ボクは引き起こした。

 これも当然、ボクの兄弟姉妹きょうだいの能力である。

 まぁ……本家の威力には、到底及ばないが……たった百匹程度の獣人を潰すくらい訳のない能力だ。


 轟音と共に、百匹近い獣人達が次々と、消し飛んでいく。

 ボクを中心に、四方八方から爆発が次々と炸裂する。


 そんな爆発の能力を使用しながら、ボクは、目の前に据え置かれた生首へ目を向けた。


 無念……だっただろうに。

 ナデシコの……母だろうか? それとも……姉、だろうか?

 どちらにせよ……ナデシコのことは任せてくれ……。


 必ず――――ボクが守り抜く。


 爆発音がやみ、立っている獣人がゼロになったところで、生き残りをさがす。

 情報を聞き出せるのなら、瀕死状態の奴でもかまわない。

 さぁーて……生き残りは……。

 焦げ臭く、火が燃え盛る中、目を懲らすと……お、いたいた。

 生き残り、発見。


 羊顔の獣人だ。

 しかも、奇跡的に無傷っぽい。

 うむ……やはり、ボクの爆撃はまだまだだな。

 ま、心まで無傷とはいかなかったようだけれども。


「おい、羊顔」

「ひぃっ!」


 ほら、ボクが声を上げただけで、すくみ上がっている。


「お前……運がいいなぁ? ボクの実力不足に感謝しろよ? さて、そんな運のいいお前に、聞きたいことがある。嘘偽りなく答えてくれるか?」

「メ……メェ……? き、聞きたいこと?」

「ああ……」


 ボクは右前腕をライフル銃へと変身させる。

 バンッ! と、一発地面に向かって銃弾を放った。


「ひぃいっ!!」


 威嚇射撃だ。


「さて、お前は今、ボクに生かされている訳だが……お前がこのまま生き残るための条件は一つ、ボクの質問にだけ答えろ。それ以外の言葉を喋るのは許さない……いいな?」

「メ……っ!!」


 メェーとか声を出そうとしたので、銃口を向けると、自ら口を塞いでコクコクコクコクと頷いた。


「ふん……必死だな? 自分の身を守るのに……。まぁいい、では質問だ――――キング・マウスは今、どこにいる?」

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