ジーパ城での決戦――VS キング・マウス
〈20〉お前の想いは預かった
あれから数時間歩いた。
ジーパ城周辺に辿り着いた際、どのように侵入するのかを話し合いながら。
ナデシコは元王女、ということもあって、いくつかの潜入ルートを提示してくれた。
やんちゃな性格であり、小さな頃から城内をあちらこちらと探索し、イタズラをしていたようなので、当時の王様すら知り得ないルートすら知っていたようだ。なので、作戦は立てやすかったように思う。
結論としては、その中でも一番マイナーなルート(ナデシコ談)から潜入することとなった。
理想としては、バレずに忍び込み、気付かれない内にキング・マウスと星型水晶を撃破できるのが望ましいが……間違いなく、そう上手くはいかないだろう。
獣人の中の頂点――十二体の【
色々と制約のあった分身体の奴ですら、仕留めきるのに時間を要し、手こずった。
それに加え、勇者の力を扱う可能性を加味すると……苦戦は必至だと考える……。
片やこちらは……。
「見てみてみて! しーちゃん! この草超おいしーよ!? 食べてみて食べてみ……はうっ! またお腹がっ! くっ、まだ私のお腹は、草に染まれていないみたいねっ! 嘆かわしいっ! ごめん! 緊急事態だから、野グ〇いってくる!!」
「……………………」
…………アンドロイド一体に、バカな人間が一名……。
「苦戦必至だよなぁ……間違いなく……」
まぁ、下手に俯いて、暗い表情をされるよりマシか……。今の彼女なら、獣人相手に逃げ切ることくらいはできるだろう……。
…………結局のところ。
この作戦は、どのルートを選ぼうと、ボクがキング・マウスに勝つことが最低条件だ。
向こうも、恐らくそれを理解しているはず。
ボクかキング・マウス……勝った方が、この戦争の勝者となる。
だから、奴も必ず、全力で牙をむいてくることだろう。
けれど、ボクは絶対に勝たなくてはならない。
それが、この戦争で――――ボクがやるべきこと。
「あーっ、スッキリしたぁー!」
すがすがしい表情で、ナデシコが草むらをかき分け帰ってきた。
出すものを精一杯出してきたのだろう。
「スッキリは良いが……目的地まで、あとどのくらいなんだ? かなりの距離、歩いたと思うんだが……」
「え? あ、うん。あと少しだよ、十五分くらいの距離かな?」
「…………了解」
あと十五分か……決戦の時は近い。
ボクは歩を進める。
少し進んだところで、ふと気がついた。
ナデシコが着いてきていない。
「ナデシコ? どうしたんだ? 行くぞ?」
「へ? あ、う、うんっ! レ……レッツゴー!」
「?」
気のせいか……? なんか違和感があるような……。
……気のせいか。
しかし、その違和感は、すぐに露見することになる。
「……ハァ……ハァ……ハァ……」
「大丈夫か? ナデシコ」
「……う、うん! 平気平気っ! さぁ行くよ! ジーパ城へ!! レッツゴー!」
「…………」
明らかに……ナデシコの様子がおかしい。
いや、おかしいのはいつものことなんだが……今は、より輪をかけておかしい……。
呼吸も乱れているし、心なしか表情が強ばっている……。
顔に貼り付けている笑顔も、今まで見てきた彼女のバカみたいな笑顔とは違う。
無理やり、笑顔を作っているような……そんな感じだ……。
本当に、大丈夫なのだろうか……?
それから数分後……ようやく、目的地であるジーパ城であろう建物が見えてきた。
城下町も……。
ボクらは、目的地へと到着した。
辿り着いては……みたものの……。
到着した瞬間――――ボクの不安は、現実のものとなる。
「よし! 到着したね! ハァハァ……」
「ナデシコ……お前、本当に大丈夫なのか? 明らかに様子がおかしいぞ?」
「平気平気……ハァ……ハァ……大丈夫大丈夫! ちょっと……歩き疲れた……だけだから……ハァハァ……少し、休めば……おっと……」
「おいっ、しっかり……っ!!」
よろけたナデシコを支えた瞬間……ボクは気づいた。
「お前……! 凄い熱じゃないか!?」
「大丈夫……ハァ、ハァ……ちょっと……トラウマを刺激されて……身体がおかしくなっているだけ……だから……すぐ、治るから、落ちつくから……」
「トラウマって……本当なんだな? 本当に、大丈夫なんだな?」
「うん……」
「なら、作戦開始時間を遅らせて……」
「ううん……その必要はないよ……」
「え……?」
「いこう……」
フラフラとした足取りで、ナデシコが歩きはじめる。
いやいや!?
「待てっ! そんな調子で、この先の戦いを乗り越えられる訳がねぇだろうが!」
「大丈夫……だってば……」
「大丈夫な訳が――」
「大丈夫……多分……今休んじゃったら……きっと私は、頭がおかしくなっちゃう、から……」
「え……?」
少しずつ、歩を進めながら、ナデシコは言う。
その汗だくで、真っ赤になった顔に張り付いた表情は……恐怖か、悲しみか……はたまた、怒りなのか……ボクには、読みとれない。
そんな、なんとも言えない表情をしていた。
「おかしいなぁ……もう、平気だと、思ってたんだけどなぁ……やっぱり……このお城を……この国を落とされたって事実は、やっぱり……こたえたみたい……ハァハァ……自分の家がなくなったって事実は……想像以上に、キツいね……」
「……ナデシコ……」
「ねぇ……しーちゃん……? ここから、城下町が見える、でしょ?」
「ああ……」
「赤い十字のマークのある建物……あそこ、病院なんだよ?」
「……そうか」
「あそこのお医者さん、優しくてね? いつも、お城抜け出して、お城の人に追われていた私をね、匿ってくれてね……」
「………………」
「その病院の隣には……美味しいパン屋さんがあってね? 美味しかったんだよ……? 店員さんも、優しいし、さ……」
「………………」
「海付近には、海の家があってさぁ……夏になると、祭りがあるんだよ? 街の人たちだけじゃなくて、そのときは周囲の街からも観光客がきてさ…………すっごく……盛り上がるの……」
「……ああ」
「街の人も……お城の人達も……私の家族も……皆みんな――――良い人たちだったんだよ……?」
「だけど――――」と、ナデシコは続けた。
「だけど今は……皆いない……皆……獣人たちに
「………………」
「だから私は……許せないの…………この国をめちゃくちゃにした、獣人達を……そして――――そんな良い人たちを守りきれなかった……私自身を……私は……私はきっと、このまま休んだら……きっと、怒りでどうにかなってしまう……だからいこう……私が……まだ、正気を保っていられる内に……」
「……………」
本当に……コイツは……。
「バーカ……だからさぁ――」
「え?」
「――そう言うのを……背負い過ぎてるっつってんだよ」
「うっ!」
ボクは、そんなナデシコの腹部を殴り、気絶させた。
ぐらりと、力なく倒れ込む彼女の身体を、受け止める。
そして、お姫様抱っこした状態で、安全そうな場所へと避難させる。
「……ここまで、案内してくれてありがとう」
ゆっくりと、寝ている彼女を地面へとおろしてあげた。
正直にいっておこう、ぼくは元々、彼女を戦場にまで連れていく気はなかった。
最初から、ジーパ城までの案内。
秘密の入り口とやらの場所を教えてもらった段階で、このように、休んでいてもらう予定だったのだ。
「……奪われた故郷を見て……あれほど、取り乱すのは予想外だったけどな……」
それほどまでに、獣人の襲撃は、彼女の心に、深い傷を負わせていた出来事だったのだろう……。
心も身体も……ズタボロになってまで、取り返したかったのか……。
こんな小さな身体に、大きすぎるものを背負って……。
「お前の想いは預かった。あとはボクに任せておけ」
残念ながら、予定よりも早くナデシコに退場してもらう形になってしまったので、作戦の肝であった、秘密の入り口の場所がわからない。
まぁ……もういいか……。
なんというか、今――――ボクはめちゃくちゃ、暴れたい気分なのだ。
「堂々と…………正面突破といくか!」
そんな訳で、ボクはナデシコを置いて走りだした。
いざ、ジーパ城へ。
待ってろよナデシコ……お前が目を覚ましたときには、全て、取り戻しておいてやるからな。
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